亜成虫の森で 16 #n


「にの、こっち」

空港の混雑した中で、彼女が手を振って呼んでいた。

「おお!はる…、」


近づいていくと彼女も小走りでこちらに向かってきて、なんとそのまま抱きついてきた。

え?一体何が起こってる?


「ちょっと、え?はるか、どうした?てかみんな見てるんですけど」

「…」

「どうしたの?」

「…遅いんだわ、帰ってくんの」

「おう…」

「バカ」

「え〜…出張から帰ってきてバカはないだろ…」

彼女は急にバッと離れる。

「帰ろ。」

え?

「…おお、」

彼女は先頭に立って歩いたかと思うと、
急に振り返って後ろ歩きしながら言う。

「にのの匂い、いい匂い。」


「は?」

彼女はまた前を歩き始める。


え?終わり?
今ので終わり?
え?告白とか…じゃないの?
え?なんだったんだ今の…

そういう意味じゃないってこと?
友情のハグ?
そっち?それのことか?!

彼女に追いついて聞いた。

「なんかあったの?」

「いいや?」

なんの話?くらいの顔をしている。

「だって…」

「私のハグが奇怪な行動だとかってことかな?」

完全に読まれている。
さっきの顔は?なんだったの?

「…おっしゃる通りで…」

「嫌だった?」

「いや、そんなことは…滅相もない…」

彼女は今度は急にギュッと止まって振り返った。

「私さ。決めたんだ。勝手にひとりにならないようにしようって。思ったことはそのときに言ったりしたりしようって。そうしなかったから、私は自分で自分の首を絞めた。辛かった。だから自分からもっとさ。コミュニケーションを取ろうって。こと。」

「…画期的だ…。しかも一気に欧米式に!」

「だから、嫌なときは嫌だって言ってね?」

「あ、もう一回してもらってもいいよ?」

「やだよ。もう終わったの」

不機嫌そうな顔をしてまた前を歩き始める。

目まぐるしく表情が変わってついていけない。


一体何があったんだろう。
絶対そういうことするタイプじゃないのに。
オレが思い違ってた?

距離感にドギマギする。



しかし。
たしかに、急だったけど
本当はめちゃくちゃ嬉しかった。

すげえ会いたかったし。

にやにやが止まらなかった。


「あれ?そういえばお前どうやって空港まで来たの?」

「社長がさ」

社長…?

「おー!にの!お帰り〜!!」

「げっ?!なんで翔さんが…」

「社長がにののこと迎えに行くから一緒に行こうって。私車こっちにないし」

は〜?!
はるかの意思じゃねえのかよ!


「げっ!ってなに?その不満そうな顔は何かな?」

「いえ。お迎えありがとうございます。わざわざ、社長直々に。」

「ま、はるちゃんとドライブできたからいいんだけどさ〜」


おいおい、ドライブとか言うなよ。

「私お手洗い行きたいです」

「じゃあ待ってるね」

彼女がいなくなると翔さんが急に真面目な顔で話し始めた。

「にの」

「はい。」

「出張お疲れ様。ありがとね。」

「…はあ。」

「ところでにのは、はるちゃんのことをどう思ってるのかな?付き合ってはないんだよね?」

「…まあ、そうですね」

「オレも参加していい?」

「ダメです」

「…彼女は強い。そばに置いておきたい。できるなら関係を深めたい。恋人になりたい。そう思っちゃったんだよね」

「…オレのいない間に何したんですか」

「いや、本当に何もしてない。これから、だよ」

「…」

「そんな睨むなって〜機会は平等に設けられてるよ」

「勝算があるから宣戦布告するわけですよね?」

「いや、はるちゃんはにののことを大事に思ってる。それがわかるから。それでもオレは向かっていくよって話。」

「…」

「お待たせしました〜」

「じゃあ行こうか」

「にのどうかした?顔怖いよ?」

「なんでもない。」




そんなことを言われて
どうしろというんだ。

浦島太郎のように
帰ってきたら全然違う景色になっている感じがして

彼女も、翔さんも
本当は違う人なんじゃないかって

何も考えてなかった。
毎日が一緒ならそれでよかった。
明日も同じ日が来て
同じ関係性でいられれば
それでよかった。

オレは今何を想う?
何を考える?


彼女と翔さんがずんずん前に進んで
オレは置いてきぼりを喰らっているようだった。

持っている荷物が全部重くて

心もすごく重くて


何事もどうでもよくなった気がした。


彼女と翔さんが並んで歩いて
笑って話しているのを
後ろから見ているオレは
とんでもなくダサくて愚かだった。



勝てるわけないだろ。
スペックの違いが甚だしい。


じゃあどうする?
諦めるのか?

諦める?
今まで別にどうしたいとかもなかったのに?
何を諦めるんだ?


オレは一体どうしたい?


翔さんが運転して
助手席に彼女がいて
後ろにオレがいて

ふたりの話を聞き流しながら
車窓から流れていく東京の景色を見ていた。


いやに晴れていた。




#小説 #夢小説 #妄想 #エッセイ #コラム   #音楽 #詩 #オリジナル #恋愛 #note #人生 #読書 #短編小説 #つぶやき #言葉 #創作 #生き方 #ポエム #ひとりごと #夢 #短編 #連載小説 #人間関係 #哲学 #ファンタジー #連載 #考え方 #恋 #愛 #心 #恋愛小説 #独り言 #自由詩 #人生哲学 #生き方 #ライフスタイル #雑記   #生活 #考え方 #幸せ #自己啓発 #感想 #連載 #悩み #思考 #暮らし #社会 #メンタル #感謝 #自分 #女性 #人生哲学 #目標 #成長 #記録 #独り言 #未来 #備忘録 #生きる #価値観 #時間 #人生観 #メンタルヘルス #呟き #習慣 #考察コラム #不安 #心理

サポートありがとうございます!