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好きな記事、好きな小説、好きな文体

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個人的に好きな記事や小説や文体。個人的に注目している書き手、活動。
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#エッセイ

フィルモア通信 2022 余白の春

フィルモア通信 2022 余白の春

四十年経っても同じようなゴミあくたが散乱しているソーホーからチャイナタウンへと路を急ぐ。
冷えた身体を温めるために早足で見慣れぬ街を歩くのは散髪屋を探し当てるためだ。
アベニューやストリートのスペルには記憶があるのに広がる風景に覚えはない。先月か半年前に歩いたような気がしているが目にする景色は一変している。

ぼくの新しい生活は始まった。

「感動した!」と言ってもらえるぼくの料理には、圧倒的な戦略とロジックがある

「感動した!」と言ってもらえるぼくの料理には、圧倒的な戦略とロジックがある

はじめまして。鳥羽周作と申します。「sio」という代々木上原のレストランでシェフをやっています。

このnoteでは、ぼくがふだんどのようなことを考えながら料理づくり、お店づくりをしているのかをお伝えしていければと思います。



ただの「おいしい」ではなく「感動した!」と言われたいぼくが目指すのは、ただの「おいしい」ではありません。「感動」です。

日本に「おいしい」お店は無数にありますが、「

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ワイルドスピードを観てくれない人

ワイルドスピードを観てくれない人

表題のとおり。
映画「ワイルドスピード」を観てくれない人がいる。その人は、僕の大切な「ワイスピ」に興味を示してくれないのです。

ちょくちょく映画の話をするお友達がいて、お互いが観た映画や興味を持っている作品の話をしては楽しませてもらっている。そうした場だと当然の流れとしてこれ観た?どれ観る?あれまだ観てない?観たほうがいいよ、なんて話題が出るのだけれど、僕が「ワイルドスピード」の話を持ち出したと

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5時

5時

夜よく眠れなかった時期があった。

0時を過ぎて、2時を過ぎて、4時を過ぎる。自分の頭のなかのごちゃごちゃは、自由にうごくけれども体はちっとも眠くならなくて、くらい室内にあるのは使いなれた身体ではなくて制御のできないごちゃごちゃだけ、みたいな感じがした。からだという入れ物を失って部屋じゅうにはみだしてゆくごちゃごちゃ。

「だいたい5時ごろ悟りをひらく」
というのが、眠れない人たちのあいだでの共通

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書くということの根っこにあるもの

書くということの根っこにあるもの

編集者を長く続けている方とお話をしたことがある。
そのときあるベテラン作家さんの話になった。日本を代表する著名な作家で、本もたくさん書かれている。

「自分が書くエネルギーの源は、“怒り”なんだ」と、その方が言っていたそうだ。
その怒りこそが、書くという行為を長年続けさせてきたのだ、と。

「そういうもの、あなたにもありますか」
とその編集者さんは私に聞いた。自分がものを作りだす、書くという行為を

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私の10年を肯定してくれた一皿のこと

私の10年を肯定してくれた一皿のこと

つい先日。私はとうとう、人生初・ミシュランデビューを果たした。個人的な節目として、意を決して予約したのだ。

お店は新潟県村上市の「割烹 新多久」さん。予約してからの3か月間、それはもうそわそわしっぱなし。

「30歳までに恵比寿の某ミシュラン店にデートで行けたらイイ女」という定説(?)とはかけ離れているけれど、私には理想のミシュラン・デビュー様式があった。

自分の稼いだお金で、ひとりで、カウン

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ふつうのギョーザ

ふつうのギョーザ

ごま油と醤油を 1 : 1 。
わたしの愛する、餃子のタレのレシピである。

旦那とまだ恋人同士だった頃、お手製の餃子を作って「さあ食べよう」とした時に、ふと旦那が「えっ」と小さな声をあげた。

「えっ、餃子にごま油かけるの? 酸っぱくないんだ」

わたしは面食らった。 餃子のタレといえば、ごま油醤油なのではないのか? 少なくともわたしの実家では、生まれてこのかた 二十年来の定番である。 餃子のタ

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うたたね

うたたね

寝てしまう。
午後、光がだんだん和らいでくるころ、ぼうっとしてくる。
なにもすることがない日はだいたい本を読んでいて、ちょうどその時間あたり、ふわっとしてくる。

昔からそうだった。

実家で暮らしていたとき、とくべつすることがない日はひとりで本を読んでいた。縁側だったり畳の間だったり、自分の部屋だったり、場所はどこだとしても午後はたいていしずかで、人の声もしない、やわらかい光だけが窓から入ってく

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「花束みたいな恋をした」と「ドライフラワー」における、花と恋と20代。

「花束みたいな恋をした」と「ドライフラワー」における、花と恋と20代。

映画「花束みたいな恋をした」を観た。

タイトルが"花束"なので、花束そのものがこの物語のキーとなるのかと思いきや、相手に花束どうぞするシーンなど全く出てこなかった。もちろん、卒業式にサプライズで花束を渡す所をTikTokに載せるシーンもなければ、真っ赤なバラの花束100本でプロポーズするシーンもない。

だからこの映画は、観た人に、この恋がどう「花束みたい」なのかを考えさせる作品なのだと勝手に受

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雲のはたて

雲のはたて

石牟礼道子さんの全集を、よく読む。
ふれるたび、思い出すということを思い出す。

石牟礼さんは古いことばをよくつかう。
(能く遣う、とも言える。能力として、とき放っているというか)

好んでつかわれている印象的なことばが「はたて」。
はたてとは、果てのこと。漢字としては、涯をあてたりもする。
遠ざかったはるかむこうの果ての果て、いちばん遠くにあって、見えなくなってゆくような、消え果ててしまうような

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注文を聞かない料理人

注文を聞かない料理人


Entrée
「遅いですね。」

「そうなるよね。」

「分かってたんですか?」

「俺、ベテランだもん。」

なじみのホテルのメニュー撮り。撮影台の上には何も乗っていない角皿が鎮座している。実際に使用されるのと同じ皿を置いて構図とライティングを決め、料理が来たら、空の皿と料理の乗った皿を取り替え撮影開始である。

準備は終わった。あとは料理だ。アシスタントのミッチーと一皿目を待つ。予定の時間を

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エビを愛した先にあるもの

コミュニケーションを取るのが苦手だ。
私は人見知りだからだ。

ある会社で働き始めて半年くらい経ってから、「やっと僕と話すのに慣れてきたか」と上司に言われたくらい。話しかけられても「そうですね」といい、笑うのが私の限界だった。「そうですね」で完結するので、話が続かないと言われた事もあった。

その以前働いていた小さな会社で、私が無類のエビ好きだという事が少し広まった。
嘘ではなく事実なので別に広ま

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上京した夜、1人お寿司を

上京した夜、1人お寿司を

上京した日の夜だ。
アパートで荷ほどきを終えると、駅前のお寿司屋さんに一人で訪れた。

そのお寿司やさんは有名で、私が住むことを決めた駅を伝えると、ほとんどの友人が「あのお寿司屋さんがある駅ね」と言うほど。なんと神戸の両親まで「ああ、昔から有名なお寿司屋さんの場所ね」と知っているではないか。
その事もあり心に決めていたのだ。一人きりの引越し祝いを、あそこのお店でしようと。

親切なことにメニューも

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えっいいんですか、呑みましたから書きますけど??? #呑みながら書きました

えっいいんですか、呑みましたから書きますけど??? #呑みながら書きました

イェーーーーーーい!!!!!!!

みんなーーーー!!!!!!!1のちこだよおおおおおおん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

なんかこのサムネ?カバーーアート?使い回しですみませんちょっと突然のことで動揺して使いまわしました?

というわけでこちら!!!!!!!!!!!1

あんまりね、企画とか参加しないタイプなんですけど(なぜなら締め切りがあると途端に書けなくなるウルトラポンコツ人間な

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