マガジンのカバー画像

サブカル大蔵経 異国編

262
運営しているクリエイター

2020年10月の記事一覧

サブカル大蔵経292田中洋二郎『新インド入門』(白水社)

サブカル大蔵経292田中洋二郎『新インド入門』(白水社)

カーストを打ち破る英語、コンピュータ、IT。牛肉とベジタリアン。〈変化するインド〉。今までのイメージが打ち破られていく企画としてのインド本。

世界の独立国・インドに滞在した著者の現地ルポであり、青春の書。意外とデータより体験された話が多かった。

著者はインド日本双方の誤解を解こうと奔走する。日本とインドは遠い。でも、これまでも縁があり、これからも。

JNU大学マルクス主義の伝統p.43

 

もっとみる
サブカル大蔵経289ネヴィル・シュート/佐藤龍雄訳『渚にて』(創元SF文庫)

サブカル大蔵経289ネヴィル・シュート/佐藤龍雄訳『渚にて』(創元SF文庫)

本書含めて今年読んだSF作品はすべて『バーナード嬢曰く。』に出てきた作品です。ありがとうございます。

原発事故やコロナ禍、筒井康隆『霊長類、南へ』と重ねながら読みました。

代わりに今はブランデーよ。週末になると六本ぐらい空けるわね。ブランデーはどれだけ飲んでも大丈夫なんだって。/何なのこの泥水みたいな味の酒は?これはウイスキーだなp.43.67

 世界が非常事態の中で、はしめて酒を飲みはじめ

もっとみる
サブカル大蔵経288グレッグ・イーガン/山岸真編・訳『しあわせの理由』(ハヤカワ文庫)

サブカル大蔵経288グレッグ・イーガン/山岸真編・訳『しあわせの理由』(ハヤカワ文庫)

科学の先の世界。人間が新しい苦しみを持つ世界。SFの生老病死。

SFの短編集。「適切な愛」と「しあわせの理由」が印象に残りました。

その言葉に私は初めて激しく動揺して、そして思った。何がいけないの?p.11

 タブーは何故存在するのか。やはり理由はあるんだ。

クリスとはクリスの脳のことだ。p.11

 インドの説話にも似た台詞があります。

私は横になったまま何時間も、シーツの端で顔の汗を

もっとみる
サブカル大蔵経282澁澤龍彦『高丘親王航海記』(文春文庫)

サブカル大蔵経282澁澤龍彦『高丘親王航海記』(文春文庫)

学生時代、澁澤龍彦は自分にとってのスターで、作品を貪るように読んでいました。

ただ、この遺作は、何となく読まないまま今に至り、今回初めて読みました。

幻想と現実が混ざり合う中で、生々しく、かつ、淡々として、〈小説の原点〉のような作品でした。

解説で、高橋克彦さんが、40歳50歳になってまた読み直してほしい、と書いてありましたが、私も今出会えて良かったです。

その内部まで金無垢のようにぎっし

もっとみる
サブカル大蔵経280朝日新聞社編『コロナ後の世界を語る』(朝日新書)

サブカル大蔵経280朝日新聞社編『コロナ後の世界を語る』(朝日新書)

緊急事態にお話を聞きたい方々。特に斎藤環の「会うことは暴力」は新鮮だった。

【養老孟司】今の私の人生自体が思えば不要不急である。/解剖学の意味を尋ねるのは、普通は解剖学とはみなされないからである。p.17.20

 今の自分の生命の意味を考える。

【福岡伸一】ウィルスはもともと私たちのものだった。それが家出し、また優しく迎えています。なぜそんなことをするのか。それはおそらく、ウィルスこそが進化

もっとみる
サブカル大蔵経278ピエール・ルメートル/橘 明美訳『その女アレックス』(文春文庫)

サブカル大蔵経278ピエール・ルメートル/橘 明美訳『その女アレックス』(文春文庫)

この作品を読み終えた人々はプロットについて語る際に他の作品以上に慎重になる。それはネタバレを恐れてと言うよりも自分が何かこれまでとは違う読書体験をしたと感じ、その体験の機会を他の読者から奪ってはならないと思うからのようだ。(訳者あとがき)p.453

物々しい評判で手にとった本書。

だいぶ前に読み終えて少しモヤモヤして。

今、浮かんだのは、これ、阿部定インスパイアかな?

フェリックスはこれで

もっとみる
サブカル大蔵経277桑原晃弥『Amazonの哲学』(だいわ文庫)

サブカル大蔵経277桑原晃弥『Amazonの哲学』(だいわ文庫)

Googleが米司法省から独禁法で提訴されたのを受け「人々が選んだ結果であって、強いたわけではない」と反論したとの記事を見て、一瞬、Amazonが提訴されたのかと思いました。もう、ごっちゃになってます。それくらいGoogleとAmazonにどっぷり浸かっています。検索という神様。

なぜAmazonを使うのか。なぜ使いやすいのか。なぜ便利なのか。人間の購買意欲のスキマに入り込み、いつの間にか買って

もっとみる
サブカル大蔵経276エマニュエル・レヴィナス/フィリップ・ネモ西山雄二訳『倫理と無限』(ちくま学芸文庫)

サブカル大蔵経276エマニュエル・レヴィナス/フィリップ・ネモ西山雄二訳『倫理と無限』(ちくま学芸文庫)

ブッダの再来かと思いました。哲学の本で初めて「びっくり」しました。レヴィナスは内田樹さん関連で名前を知ってるくらいだったんですが、この時代にヨーロッパでここまで考える人がいたとは。

倫理のすごさと怖さ。自己を成り立たせる他者という存在への絶対的な責任感は孔子の仁に近い感じもしました。

レヴィナスを研究される内田樹さんの思想行動原理もここにあるのかと思った。

私たちは決して単独で実存しているわ

もっとみる
サブカル大蔵経270ケッチャム&ラッキー・マッキー/金子浩一訳『わたしはサムじゃない』(扶桑社文庫)

サブカル大蔵経270ケッチャム&ラッキー・マッキー/金子浩一訳『わたしはサムじゃない』(扶桑社文庫)

外国の作家で唯一読んでいるケッチャム

『オフシーズン』『隣の家の少女』など、まがまがしく、臭うような、それていて妙な爽快感のある不思議な小説。

なぜかというと、そこに真実が描かれているからとしか言いようがない。一番こわいのは誰なんだ、と。

本書では心理に重きを置きながら、肉体的な装置も配備されている。わたしはだれ?あなたはだれ?のはざまでも蠢く人間の情念。

願いごとをする時は、兄弟、気をつ

もっとみる
サブカル大蔵経268高野秀行&清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社文庫)

サブカル大蔵経268高野秀行&清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社文庫)

日本の戦国時代とアジア・アフリカの現在。信長とイスラム教。新米より古米。綱吉の再評価。貨幣からコメへの逆行。

居酒屋から始まった雑談、リミッター外れた高野さんの知性を清水先生が引き出す!これぞ学問だと思いました。

ソマリ人が、「ゲストが家に来たら、その家のルールを曲げてでもゲストに合わせるものだ。ましてゲストに頭を下げさせるとは、本当に屈辱的だ」って言って泣くんです(笑)p.32

 客という

もっとみる
サブカル大蔵経266島田裕巳『捨てられる宗教』(ソフトバンクSB新書)

サブカル大蔵経266島田裕巳『捨てられる宗教』(ソフトバンクSB新書)

私自身オウム真理教の事件の際に社会的な死を経験した。勤めていた大学を辞めなければならなくなったし、仕事がほとんどない状態が10年近く続いた。p.123

仏教界の人々も葬儀業界の人々も葬式の簡略が著しく進んだのは『葬式は、要らない』が出たせいだと今でも私を批判する。p.134

島田裕巳さんにプロレスラー魂を感じます。いや、ミスター高橋イズムかな…?オウム発言で業界からも現場からも追われ、雌伏のち

もっとみる
サブカル大蔵経263トニ・モリスン/荒このみ訳解説『「他者」の起源』(集英社新書)

サブカル大蔵経263トニ・モリスン/荒このみ訳解説『「他者」の起源』(集英社新書)

大坂なおみ、サニブラウン、八村塁。ネットでは〈ハーフ・アスリート〉と呼ばれてたりしている。肌の黄色い人たちから遠い存在だった肌の黒い人たちの活躍。その距離は縮むのか広がるのか。白人ではないという共通点の黒人と日本人のこれからを考察する一冊。

森本あんりさんの寄稿。

彼女によると「黒人」はアメリカだけに存在する。彼らは「アフリカ系アメリカ人」とも呼ばれるが、アフリカに住むアフリカ人は、それぞれガ

もっとみる
サブカル大蔵経262デイビッド・T・ジョンソン/笹倉香奈訳『アメリカ人のみた日本の死刑』(岩波新書)

サブカル大蔵経262デイビッド・T・ジョンソン/笹倉香奈訳『アメリカ人のみた日本の死刑』(岩波新書)

死刑は常に、そしてどの国においても国家権力の発動である。したがって当該国家の性質や国家行為のコンテクストを分析することで、その国の死刑制度の安定性や変化を理解することができる。つまり、日本の死刑存置の謎を解くためには、日本の国に焦点を当てなければならない。p.9

死刑という制度がその国や政治の性格をあらわしているということは何となく解った。

日本という国は変わっているのだろうか。責任の所在につ

もっとみる
サブカル大蔵経249林隆雄『インドの数学』(ちくま学芸文庫)

サブカル大蔵経249林隆雄『インドの数学』(ちくま学芸文庫)

本書で紹介されるインド学テキストで、インド人は、論理的、順序好きだった姿が浮かびました。インドは、カオスそのものイメージしかないんですけど、頭の中はクールなのかなぁ。

順序…。論理…。そこに妙にこだわるインド人。輪廻思想にもつながるのかな?

そして現代インド人の働き無しでは成り立たない現在のコンピュータ業界の源流。

数式は読み飛ばしましたが、貴重な一冊。

『ラリタヴィスタラ』は、古い伝承に

もっとみる