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サブカル大蔵経289ネヴィル・シュート/佐藤龍雄訳『渚にて』(創元SF文庫)

本書含めて今年読んだSF作品はすべて『バーナード嬢曰く。』に出てきた作品です。ありがとうございます。

原発事故やコロナ禍、筒井康隆『霊長類、南へ』と重ねながら読みました。

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代わりに今はブランデーよ。週末になると六本ぐらい空けるわね。ブランデーはどれだけ飲んでも大丈夫なんだって。/何なのこの泥水みたいな味の酒は?これはウイスキーだなp.43.67

 世界が非常事態の中で、はしめて酒を飲みはじめた女性の描写。

たとえ放射能が来てもね。この家に、このベランダにいますよ。この椅子に座って、酒のグラスを手に持ったままでね。p.206

 動かない人たち

「僕らは誰もが、遠からず死ななきゃならない運命にある。しかもその死に方は、平和なときの死に比べてはるかにひどいものだ。実際にどういう風になるかと言うと、とにかく消化器系が著しい変調をきたす。まず、むかつきが襲い、そのあと嘔吐や下痢がはじまる。食べたものを体内にとどめておくことが、全くできなくなる。しょっちゅうトイレに駆け込まなくちゃならない。そして、それがどんどんひどくなっていく。仮に一時的に良くなりそうに思えても、すぐまた逆戻りする。そして衰弱が進みーついには死に至る」p.237

 予測される死、説かれる死。

「でも、町は何も変わっていないように見えました。まるで昔と同じで」p.280

 人は消え、建物は残る。

「みんな死んでいますー予想どおりです。家に帰ってみたら、両親ともベッドで死んでいました。何かの薬を飲んだようです。娘も探しましたが、結果は同じでした。見るべきじゃありませんでした。犬も猫も鳥も、そのほかどんな生き物も全て死んでいます。しかしそれを別にすれば、街の状態は以前とほとんど変わっていません」p.298

 『漂流教室』で女番長が帰還したシーンを思い出しました。

八月一日、ピーター・ホームズ夫妻の庭で初めて水仙の花が咲いた。同じ日、ラジオのニュースは、アデレードとシドニーで放射能による症例が発生したことを報じた。p.363

 ラジオで。この状態で伝える人がいる。

その店員から赤い小箱の薬を1つ受け取った。「今はもうみんながこれめあてでくるの」と店員は言って、弱く笑った。「おかげで店は繁盛よ」p.427

 笑顔が。

読み始めて驚いた。暗い気分にならないのだ。(解説・鏡明)p.467

 静寂の怖さ。

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