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サブカル大蔵経 異国編

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サブカル大蔵経1002『スペクテイターvol.49自然って何だろうか』(エディトリアル・デパートメント/幻冬舎)

サブカル大蔵経1002『スペクテイターvol.49自然って何だろうか』(エディトリアル・デパートメント/幻冬舎)

うまく答えられなかった問いほど、今でも心に残っているのはありがたい。

学生の頃、印哲の研究室にいた時に、先生がいきなり、「〈自然〉という言葉から何を連想しますか?」と尋ねられました。今思えば大喜利のような。

みんながおそらく上手に答えていた中、私は親鸞の自然法爾のことを話したような。今なら「自然とは庭です」と答えると思います。

そんなモヤモヤした記憶を抱えているので、本書の表題を見た瞬間、購

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サブカル大蔵経997中村元『釈尊の生涯』(平凡社ライブラリー)

サブカル大蔵経997中村元『釈尊の生涯』(平凡社ライブラリー)

学生の頃、先輩が「中村元は学者ではなくなった」と言うのを聞いて驚いたことがあります。なんでそんなこと言うのかなと思いましたが、本書を読んで、少しだけその意味がわかりました。学者としておさまらない義侠心というか、熱情というか。

読者の希望と正反対のすがたが出てくるかもしれないので、それは残念ながらであるが、しかしいたしかたない。p.12

「いたしかたない」ー。これはもう、宗派や学問の周辺にまつわ

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サブカル大蔵経996渡辺照宏『涅槃への道』(ちくま学芸文庫)

サブカル大蔵経996渡辺照宏『涅槃への道』(ちくま学芸文庫)

晩年の先生が身命をかけて完成したこの『涅槃への道』は、奇しくもそのまま先生の涅槃への道ゆきとなったのであるp.339

宮坂宥勝さんが後記でそう述べた本書。1974年から1977年まで「大法輪」で約三年間のにわたって紡ぎ出されたもの。
誰に向けて書かれた〈遺言〉だったのか。
本当の釈尊、本来の仏教を伝えたい。

インドの仏跡に不似合いな石燈籠を建てたり、日本式梵鐘を持ち込んだりするバカ者がいるとい

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サブカル大蔵経995佐々木閑『100分de名著 ブッダ最期のことば』(NHK出版)

サブカル大蔵経995佐々木閑『100分de名著 ブッダ最期のことば』(NHK出版)

ブッダは今でこそ世界の偉人として神格化されていますが、当時の弟子たちにとっては自己鍛錬システムのインストラクターのような存在でした。p.21

仏教の正しい理解のため、まず、ブッダ・釈尊を神格化しない手続きを踏んでいく。業界の佐々木閑さんへの絶大な信頼感。貴重な学術論文を出しながら一般にも啓蒙。律、理系、非僧の3大マウントで既存の教団や坊さんに風穴を開け続ける。

ブッダが作り上げた独自の「組織論

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サブカル大蔵経994グレゴリー・ショペン/小谷信千代訳『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』(春秋社)

サブカル大蔵経994グレゴリー・ショペン/小谷信千代訳『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』(春秋社)

夜警の仕事をした後、日本にも一年留学していたグレゴリー・ショペン先生。

本書は、さまざまな先生たちが引用された仏教研究の黒船です。

大乗仏教はインドではメジャーじゃなかったという、日本で一番タブーな論説をあえて紹介される小谷信千代先生に感服。

鎌倉仏教が当時はメジャーじゃなかったことと同じようなことなのかも。

それか、韓国のお酢の飲料「ミチョ」が以前は通販でしか買えなかったのに、今や近所の

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サブカル大蔵経991鈴木隆泰『仏典で実証する葬式仏教正当論』(興山舎)

サブカル大蔵経991鈴木隆泰『仏典で実証する葬式仏教正当論』(興山舎)

〈葬式仏教〉について類書で焦点になっている、釈尊の「出家者は葬式に関わるな」についての、原典の語義解釈からの考察。

「葬儀(遺体供養)」と理解されてきた「シャリーラプージャー(パーリ語ではサリーラプージャー)」p.25

キーワード〈シャリーラプージャー〉の翻訳の仕方にこそ、〈葬式仏教〉の誤解や論争のもとがあるのではと。目から鱗。

ここで明らかにしなければならないのは、釈尊が本当に禁じたのは何

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サブカル大蔵経990北塔光昇『仏教・真宗と直葬』(自照社出版)

サブカル大蔵経990北塔光昇『仏教・真宗と直葬』(自照社出版)

葬式の必要性や直葬問題に揺れた約10年前に発刊された本書。先日、オンラインでの研修会で著者の北塔先生が講義をされました。それを拝聴したことをきっかけに、私も久しぶりに本書を読み直しました。

しかしながら、このような状況に日本を追い込んだ一因に、既成仏教教団の葬儀に対する姿勢があります。葬儀を布教伝道の良い機会と捉え自信を持って執行してこなかった僧侶の側に問題があります。p.5

学者やジャーナリ

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サブカル大蔵経989豊原大成『お釈迦さま最後の旅と葬儀』(自照社出版)

サブカル大蔵経989豊原大成『お釈迦さま最後の旅と葬儀』(自照社出版)

本書で霊鷲山でサンドイッチを食べていたことを告白する豊原さん。
教団に関わるさまざまな役職を歴任されていた方で、インドに留学もされていた方。こういう方がトップだと何か頼もしかったです。先日ご逝去されて、寂しいです。

巻末にヒンドゥー教とイスラム教の葬儀が掲載されているのが著者の真骨頂だと思いました。仏教だけではないのだと。仏教だけを見ようとすると他が見えなくなり、結果的に仏教も見えなくなるとの思

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サブカル大蔵経973奥田実紀『図説赤毛のアン』(河出書房新社)

サブカル大蔵経973奥田実紀『図説赤毛のアン』(河出書房新社)

「赤毛のアン」とは何か。

架空と実在のはざまの絶妙な存在。

自分を投影するほど手が届かないような。

だからこそ多くのアン本の出版が重ねられているのかな。決定版はどれなのだろう。レシピ本だけでも幾種類。

本書は河出ふくろうの本、図説シリーズ。歴史背景の説明が丁寧で、推理小説のように解き明かしたり導いてくれますが、アンの続編にもページを割いていて、未読の私には当然、ネタバレの地雷もありました。

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サブカル大蔵経970中野孝次『ヒエロニムス・ボス「悦楽の園」を追われて』(小学館)

サブカル大蔵経970中野孝次『ヒエロニムス・ボス「悦楽の園」を追われて』(小学館)

私の初めての海外旅行はベルギーでした。『フランダースの犬』の舞台、アントワープの大聖堂でネロのお参りをするために訪れました。ルーベンスの絵を見て、その流れでベルギーの各地をまわり、こってりした北方絵画と呼ばれる作品にまみれる中、ボスと出会いました。

正直言って、初めのうちはぼくもそういった宗教に興味を持つことができなかった。大抵は同じ画題で、ありがたそうなお聖人様やキリストが描いてある絵は抹香く

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サブカル大蔵経967中尾真理『英国式庭園』(講談社選書メチエ)

サブカル大蔵経967中尾真理『英国式庭園』(講談社選書メチエ)

アニメ「赤毛のアン」で、アンとダイアナが契りを交わす庭が幾何学的な正方形なのが気になりました。あれは…何か象徴的な形なのか、、

松本侑子さんの『赤毛のアン』の訳註に、アンのカスバート家はスコットランド系、ダイアナのバリー家はアイルランド系とありました。あの庭はダイアナの家の庭だから、アイリッシュガーデンなのか?

本書では、庭と人間の密接な関係が窺い知れました。特に、紆余曲折を経て編み出された英

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サブカル大蔵経966中村元訳『ブッダのことば』(岩波文庫)

サブカル大蔵経966中村元訳『ブッダのことば』(岩波文庫)

『終末のワルキューレ』を読んでから、自分の中で〈釈迦ブーム〉が来ています。

僧侶なのに、今頃というか。

ワルキューレのおかげです。

「仏説」の付くお経も、全部あの人が説いてるイメージでよむようになりました。

作中に出る『スッタニパータ』を30年ぶりに再読しました。釈迦様もすごいけど、あらためて中村元先生は革命的でした。

私が学生の頃、先輩が「俺が日本人に生まれたメリットは中村元の言葉が読

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サブカル大蔵経961藤田宏達校訂『THE LARGER AND SMALLER SUKHĀ     VATĪVYŪHA SŪTRAS』(法蔵館)

サブカル大蔵経961藤田宏達校訂『THE LARGER AND SMALLER SUKHĀ VATĪVYŪHA SŪTRAS』(法蔵館)



サンスクリット語原典の『無量寿経』と『阿弥陀経』をインドの文字デーヴァナーガリーからローマナイズして分節化された藤田先生の著作を久々開いてみました。

これを基にした翻訳書が、前回ご紹介した『梵文和訳 無量寿経・阿弥陀経』です。

日本の宗派仏教において、サンスクリット原典というのは、知的遊戯の一種のように思われている気がしています。祖師たちがサンスクリット原典を読んでいないから、信者も祖師が

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サブカル大蔵経960藤田宏達訳『新訂 梵文和訳 無量寿経・阿弥陀経』(法蔵館)

サブカル大蔵経960藤田宏達訳『新訂 梵文和訳 無量寿経・阿弥陀経』(法蔵館)

「讃仏偈」って何が書いてあるのだろうと、ふと思い、藤田先生のサンスクリット原典からの和訳を抜き書きしました。

普段読んでる漢訳経典と照らし合わせながら読んでみました。

【讃仏偈】藤田宏達訳『梵文和訳無量寿経・阿弥陀経』(法蔵館)p.67-70より

(そのとき、アーナンダよ、かのダルマーカラ比丘は座から立ち上がって、一方の肩に上衣をかけ、右の膝がしらを地につけ、かの世尊ローケーシュヴァラ・ラー

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