たかひこちゃん

保護ねこ活動とギターに活かされている会社員です。 というより、うちのヒエラルキートップ…

たかひこちゃん

保護ねこ活動とギターに活かされている会社員です。 というより、うちのヒエラルキートップはねこたち。 拙い 妄想を「短編小説」としてアウトプットしております。 よろしければお付き合いくださいませ。

記事一覧

「我輩もねこである」 (雑記)

 吾輩は猫である、との有名な書があると聞くが、何を隠そう我輩もねこである。  名前は「このコの行く末がしあわせにあふれるように……」と付けてもらったが、それが何…

「落ちないでハンプティダンプティ」 (雑記)

まさか、自分が単身赴任になるとは思わなかった。 それも大阪のど真ん中である。 目紛しく毎日行き交う人の洪水に、ようやく慣れた電車の乗り継ぎ。 だが、本当に割り込み…

「イカロスの翼」 (短編小説)

 白い機体に走る、鮮やかな青いライン。  流線形の終点に立つ尾翼には、スカイブルーの鷹をあしらった社章が輝いていた。  客室内に耳心地のよい電子音が聞こえてくる…

12

「聖母のように」 (短編小説)

 カフカの「変身」の主人公であるグレゴール・ザムザは、目覚めると毒虫になっている最悪な朝だったが、私の目覚めの方がもっと悪かった。   なぜなら、目覚めると昨日と…

2

「私の消えた朝」 (雑文)

 今朝は幾分、腹ばいになるのが難しく違和感で目が醒めた。  いつもは空腹感に突き動かされ目覚めた直後にでも食欲旺盛で、食事が用意されてない時など食パンを袋から出…

5

場違いな定位置より (散文)

「疲れた」は、よく頑張った証拠。 「間違えた」は、問題に挑んだ証拠。 「緊張する」は、気が引き締まってる証拠。 「死にたくない」は、みんなといっしょにいたい証拠…

4

「3つの願い」 (短編小説)

 「お前はどうも落ち着きがないねぇ。 いいかい、人生にはどうしても慌てちゃあいけない時があるんだよ。   ひとつ目はプロポーズの時。   もうひとつは……」  そ…

6

「煌る墨痕」 (短編小説)

 ふたつの白い月が紫の空に朧げな孔を穿つ。  月が重なるくらいに近づくけば、もうすぐ電磁嵐がやってくるとショウの12年間の人生経験でも告げていた。  地下から続く…

2

「ポチの一生」 (短編小説)

 今日、ポチが死んだ。  あれは何年前だろう、年明け早々のテストの採点で遅くなった雨の夜だと記憶している。  傘を持つ手を打つ雨の痛さに、走ることを躊躇わせる少…

10

「誰がため」 (短編小説)

 深夜2時。  閑散とした薄暗い事務所の中で、仄明るい島がある。  パソコンのモニターの明かりに照らされて、スーツ姿の女性がひとり座っている。  耳に付けたインカ…

7

「粗にして野だが、卑ではない」 (短編小説)

 5月の緑の風はどんな身分にも平等に吹いてくれる。 昼間からこうして縁側にいて、何もせずにいる自分にも同じだ。  いい歳してと思うかもしれないが、世の中なかなか…

6

「群青日和」 朝日奈 昭 著 (短編小説)

書店にて購入、物語りに引き込まれて一晩で読了。 本書の作者である「朝日奈 昭 」氏は、前著「 ガラスの靴が探せない 」より一貫した「社会に適合できない若者に対する警…

7

「クリアー」 (短編小説)

 「地球の皆さん、お疲れさまでした」  そんな言葉が、世界中の皆の頭の中に響いたのは半年前のことである。  「おめでとうございます。 地球ステージ2面クリアです…

4

「株式会社 悪田工務店」 (短編小説)

 (へっ、本当に捺しやがったよ。)  応接セットに腰掛けた目の前の痩せて、いかにも気の弱そうな男が大理石のテーブルに広げられた契約書に実印を捺している。  白い…

5

「あなたにここにいてほしい」 (短編小説)

 「何よ! ケンジが浮気したんじゃない」  言ったあとで、しまったと思った。  そんなことを言うキャラじゃないのに。  あたしも女なんだ。  出来る女気取っても、…

8

「永い夜」 (短編小説)

「お待たせしました、ジンライムです」 8席ほどのバーカウンターに座る2人組のサラリーマン風の男達にカクテルを出す。 仕事柄、バーによく出入りするので、どうにか作り方…

2
「我輩もねこである」  (雑記)

「我輩もねこである」 (雑記)

 吾輩は猫である、との有名な書があると聞くが、何を隠そう我輩もねこである。
 名前は「このコの行く末がしあわせにあふれるように……」と付けてもらったが、それが何かまでは記憶してない。

 主人がめずらしく魚釣りに赴くと言い出し、いそいそと早朝より準備をしていた。
 新鮮な魚にめっぽう目がない我輩は、居ても立っても居れず主人に内緒で車に忍び込むことにした。
 季節外れの寒波が平日の雨と共に去って行っ

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「落ちないでハンプティダンプティ」  (雑記)

「落ちないでハンプティダンプティ」 (雑記)

まさか、自分が単身赴任になるとは思わなかった。
それも大阪のど真ん中である。

目紛しく毎日行き交う人の洪水に、ようやく慣れた電車の乗り継ぎ。
だが、本当に割り込みがひどいのには閉口した。

早朝、乗り換えの駅であるホームに立っていると、点字ブロックと自分の前にグイと入る影があった。

それが、通勤電車でいつも向かいに座る男性。

英国紳士風のスーツにキャメル色のマフラーを巻き、細身の足もとには茶

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「イカロスの翼」 (短編小説)

「イカロスの翼」 (短編小説)

 白い機体に走る、鮮やかな青いライン。

 流線形の終点に立つ尾翼には、スカイブルーの鷹をあしらった社章が輝いていた。

 客室内に耳心地のよい電子音が聞こえてくる。

 「スカイサービス社は、完全オートメーションによる人的ミスを排除した、まったく新しいエアサービスを提供しております。
 高性能次世代AIによる操縦で、快適な空の旅をお楽しみください」

 近年、航空機のパイロットによる人的災害が多

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「聖母のように」   (短編小説)

「聖母のように」 (短編小説)

 カフカの「変身」の主人公であるグレゴール・ザムザは、目覚めると毒虫になっている最悪な朝だったが、私の目覚めの方がもっと悪かった。 
 なぜなら、目覚めると昨日と変わらぬ「私」だったのだから……。

 42年間、私は私で在りつづけたが何も秀でる物が無かった。

 中学時代のあだ名が「シースルー」。

 「海を突き抜ける」カッコ良さに内心喜んでいたが、母親の何気ない会話に真意を見つけた時には、自分自

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「私の消えた朝」  (雑文)

「私の消えた朝」 (雑文)

 今朝は幾分、腹ばいになるのが難しく違和感で目が醒めた。

 いつもは空腹感に突き動かされ目覚めた直後にでも食欲旺盛で、食事が用意されてない時など食パンを袋から出すのももどかしいほどであるのだが、今日はそうではないようだ。

 視線を自らの腹部にやると、昨日よりさらに大きくなっている気がした。

 なるほど、このお腹ではすこし動くにも息は上がり、身体全体で呼吸しなくてはならないのも頷ける。

 寝

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場違いな定位置より (散文)

場違いな定位置より (散文)

「疲れた」は、よく頑張った証拠。

「間違えた」は、問題に挑んだ証拠。

「緊張する」は、気が引き締まってる証拠。

「死にたくない」は、みんなといっしょにいたい証拠。

「諦めようか」は、それまで希望を捨てずにいた証拠。

「素直になれない」は、それほど相手のことを考えてる証拠。

お疲れ様でした。

すべての「わたし」に。

「3つの願い」  (短編小説)

「3つの願い」 (短編小説)

 「お前はどうも落ち着きがないねぇ。 いいかい、人生にはどうしても慌てちゃあいけない時があるんだよ。 
 ひとつ目はプロポーズの時。 
 もうひとつは……」

 そう言って、心配そうに幼い僕の顔を覗き込んだ祖母の目を見返しながら、プロポーズという言葉の意味が気になって、それ以降の祖母の話をまったく覚えていない。

 目の前にいる、褐色の魔人が急須の注ぎ口から出てきて、自分を見下ろしてる。
 祖母の

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「煌る墨痕」  (短編小説)

「煌る墨痕」 (短編小説)

 ふたつの白い月が紫の空に朧げな孔を穿つ。

 月が重なるくらいに近づくけば、もうすぐ電磁嵐がやってくるとショウの12年間の人生経験でも告げていた。

 地下から続くタラップを上り、マンホールの蓋のずれたすき間に鼻をすりつけるように外の気配を感じようとするのが日課だ。

 テトラポッド型の砂つぶが渦を巻きながらマンホールの穴にまで吹き付け、ショウのゴーグルを叩きつける。

 マンホールから顔を出し

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「ポチの一生」  (短編小説)

「ポチの一生」 (短編小説)

 今日、ポチが死んだ。

 あれは何年前だろう、年明け早々のテストの採点で遅くなった雨の夜だと記憶している。

 傘を持つ手を打つ雨の痛さに、走ることを躊躇わせる少し高いヒールを選んだことを後悔していた。

 バイパスの高架下に崩れかかった箱。

 中で何かが動いた。

 濡れたダンボール箱から見えた眼には、生命の灯が申し訳なさそうに揺れている。

 濡れた身体をタオルで拭き、あったかいミルクを出

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「誰がため」  (短編小説)

「誰がため」 (短編小説)

 深夜2時。
 閑散とした薄暗い事務所の中で、仄明るい島がある。
 パソコンのモニターの明かりに照らされて、スーツ姿の女性がひとり座っている。

 耳に付けたインカムを外して、小さくため息をついた。
 凝り固まった右肩に手を置き、少し首を廻してみる。
 ふと、窓の外に眼をやったが寝静まる街の景色の前に、大きな字が立ちはだかっていたのを思い出した。
 窓に貼られた職場の名前を、改めて思い知らされる瞬

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「粗にして野だが、卑ではない」 (短編小説)

「粗にして野だが、卑ではない」 (短編小説)

 5月の緑の風はどんな身分にも平等に吹いてくれる。 昼間からこうして縁側にいて、何もせずにいる自分にも同じだ。
 いい歳してと思うかもしれないが、世の中なかなか上手くいかないもんである。

 そうして何度めかの居眠りをはじめた時、玄関の方からカギを差し込む音に気付いた。 
 今年から高校に通っている麻衣子が帰ってくる時間にしては、いかに言っても早すぎる。
 しかもカギを差し込む音がガチャガチャと何

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「群青日和」 朝日奈 昭 著 (短編小説)

「群青日和」 朝日奈 昭 著 (短編小説)

書店にて購入、物語りに引き込まれて一晩で読了。
本書の作者である「朝日奈 昭 」氏は、前著「 ガラスの靴が探せない 」より一貫した「社会に適合できない若者に対する警鐘」という明確なメッセージ性を作品に投影していると感じた。
とくに主人公である「あすか」が校外パレードの日、制服姿が並ぶ中ひとりだけピエロの格好で登校してしまう(父の形見なのが後で分かる)シーンに、何とも言えない違和感を覚えた。

★★

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「クリアー」  (短編小説)

「クリアー」 (短編小説)

 「地球の皆さん、お疲れさまでした」

 そんな言葉が、世界中の皆の頭の中に響いたのは半年前のことである。

 「おめでとうございます。 地球ステージ2面クリアです」

 誰しもが直接、脳内に語りかけてくる言葉に顔を見合わせ、気のせいではないと思うのに時間は掛からなかった。
 仕事中だろうが睡眠中だろうが構わず響くその声に、やがて動きを止め、聞き入るようになった。
 「さまざまな障害を乗り越え、よ

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「株式会社 悪田工務店」 (短編小説)

「株式会社 悪田工務店」 (短編小説)

 (へっ、本当に捺しやがったよ。)

 応接セットに腰掛けた目の前の痩せて、いかにも気の弱そうな男が大理石のテーブルに広げられた契約書に実印を捺している。

 白いポロシャツから生えた青白い首に、これまたコピー用紙のような顔の眼鏡の男は、数枚の契約書に捺印し、差し出されたティッシュで判を丁寧に拭く。

 悪田工務店・応接室。

 部屋の隅に枯れそうな観葉植物と、怪しげな海外のおみやげらしい民族風の

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「あなたにここにいてほしい」 (短編小説)

「あなたにここにいてほしい」 (短編小説)

 「何よ! ケンジが浮気したんじゃない」
 言ったあとで、しまったと思った。
 そんなことを言うキャラじゃないのに。

 あたしも女なんだ。

 出来る女気取っても、中身はやっぱ彼のメールの相手が気になるタイプなんだなぁ。
 グラグラと揺れながら、色を無くしていくケンジ。慌てふためきを隠すための激怒がひどく滑稽に見えた。

 (何か叫んでるけど、なんだろ……)

 玄関でへたり込んでいるまま、いっ

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「永い夜」 (短編小説)

「永い夜」 (短編小説)

「お待たせしました、ジンライムです」
8席ほどのバーカウンターに座る2人組のサラリーマン風の男達にカクテルを出す。
仕事柄、バーによく出入りするので、どうにか作り方は知っていた。
2人組のサラリーマンがそれぞれ口に運ぶ。
何か変なのか、お互いチラリと目線を合わせても何も言わない。
何か違っていたのだろうか……。

「マスター、何かつまめるものない?」
急いで視線をメニューに落とす。
ナポリタン、カ

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