takahikochan1 “たかひこちゃん”

保護ねこ活動とギターに活かされている会社員です。 というより、うちのヒエラルキートップ…

takahikochan1 “たかひこちゃん”

保護ねこ活動とギターに活かされている会社員です。 というより、うちのヒエラルキートップはねこたち。 拙い 妄想を「短編小説」としてアウトプットしております。 よろしければお付き合いくださいませ。

最近の記事

「私の消えた朝」 (雑文)

 今朝は幾分、腹ばいになるのが難しく違和感で目が醒めた。  いつもは空腹感に突き動かされ目覚めた直後にでも食欲旺盛で、食事が用意されてない時など食パンを袋から出すのももどかしいほどであるのだが、今日はそうではないようだ。  視線を自らの腹部にやると、昨日よりさらに大きくなっている気がした。  なるほど、このお腹ではすこし動くにも息は上がり、身体全体で呼吸しなくてはならないのも頷ける。  寝床を出て廊下をゆっくりと潜水でもするかのように進み、キッチンに入ると誰もおらずい

    • 場違いな定位置より (散文)

      「疲れた」は、よく頑張った証拠。 「間違えた」は、問題に挑んだ証拠。 「緊張する」は、気が引き締まってる証拠。 「死にたくない」は、みんなといっしょにいたい証拠。 「諦めようか」は、それまで希望を捨てずにいた証拠。 「素直になれない」は、それほど相手のことを考えてる証拠。 お疲れ様でした。 すべての「わたし」に。

      • 「3つの願い」 (短編小説)

         「お前はどうも落ち着きがないねぇ。 いいかい、人生にはどうしても慌てちゃあいけない時があるんだよ。   ひとつ目はプロポーズの時。   もうひとつは……」  そう言って、心配そうに幼い僕の顔を覗き込んだ祖母の目を見返しながら、プロポーズという言葉の意味が気になって、それ以降の祖母の話をまったく覚えていない。  目の前にいる、褐色の魔人が急須の注ぎ口から出てきて、自分を見下ろしてる。  祖母の遺してくれた唯一の家宝らしかった。  『解放のお礼に、3つの願いをかなえよう』

        • 「煌る墨痕」 (短編小説)

           ふたつの白い月が紫の空に朧げな孔を穿つ。  月が重なるくらいに近づくけば、もうすぐ電磁嵐がやってくるとショウの12年間の人生経験でも告げていた。  地下から続くタラップを上り、マンホールの蓋のずれたすき間に鼻をすりつけるように外の気配を感じようとするのが日課だ。  テトラポッド型の砂つぶが渦を巻きながらマンホールの穴にまで吹き付け、ショウのゴーグルを叩きつける。  マンホールから顔を出して、逆巻く風の中にオオヒトサライイヌの鳴き声が紛れてないか慎重に見回すと、ボロボ

        「私の消えた朝」 (雑文)

          「ポチの一生」 (短編小説)

           今日、ポチが死んだ。  あれは何年前だろう、年明け早々のテストの採点で遅くなった雨の夜だと記憶している。  傘を持つ手を打つ雨の痛さに、走ることを躊躇わせる少し高いヒールを選んだことを後悔していた。  バイパスの高架下に崩れかかった箱。  中で何かが動いた。  濡れたダンボール箱から見えた眼には、生命の灯が申し訳なさそうに揺れている。  濡れた身体をタオルで拭き、あったかいミルクを出してやると、うれしそうに飲んだ。  余程寒かったのかつかれていたのか、リビング

          「ポチの一生」 (短編小説)

          「誰がため」 (短編小説)

           深夜2時。  閑散とした薄暗い事務所の中で、仄明るい島がある。  パソコンのモニターの明かりに照らされて、スーツ姿の女性がひとり座っている。  耳に付けたインカムを外して、小さくため息をついた。  凝り固まった右肩に手を置き、少し首を廻してみる。  ふと、窓の外に眼をやったが寝静まる街の景色の前に、大きな字が立ちはだかっていたのを思い出した。  窓に貼られた職場の名前を、改めて思い知らされる瞬間。  『命のホットライン』  折からの不況により、自殺者が年間2万人を超え

          「誰がため」 (短編小説)

          「粗にして野だが、卑ではない」 (短編小説)

           5月の緑の風はどんな身分にも平等に吹いてくれる。 昼間からこうして縁側にいて、何もせずにいる自分にも同じだ。  いい歳してと思うかもしれないが、世の中なかなか上手くいかないもんである。  そうして何度めかの居眠りをはじめた時、玄関の方からカギを差し込む音に気付いた。   今年から高校に通っている麻衣子が帰ってくる時間にしては、いかに言っても早すぎる。  しかもカギを差し込む音がガチャガチャと何やら忙しない。  万が一に備え、身を低くしながら玄関の影に身構えた。  何もし

          「粗にして野だが、卑ではない」 (短編小説)

          「群青日和」 朝日奈 昭 著 (短編小説)

          書店にて購入、物語りに引き込まれて一晩で読了。 本書の作者である「朝日奈 昭 」氏は、前著「 ガラスの靴が探せない 」より一貫した「社会に適合できない若者に対する警鐘」という明確なメッセージ性を作品に投影していると感じた。 とくに主人公である「あすか」が校外パレードの日、制服姿が並ぶ中ひとりだけピエロの格好で登校してしまう(父の形見なのが後で分かる)シーンに、何とも言えない違和感を覚えた。 ★★★ 会社員 40代 私は普段から本を読む方ではないのですが、夫に勧められて読み

          「群青日和」 朝日奈 昭 著 (短編小説)

          「クリアー」 (短編小説)

           「地球の皆さん、お疲れさまでした」  そんな言葉が、世界中の皆の頭の中に響いたのは半年前のことである。  「おめでとうございます。 地球ステージ2面クリアです」  誰しもが直接、脳内に語りかけてくる言葉に顔を見合わせ、気のせいではないと思うのに時間は掛からなかった。  仕事中だろうが睡眠中だろうが構わず響くその声に、やがて動きを止め、聞き入るようになった。  「さまざまな障害を乗り越え、よくゲームクリアまで辿りつきました。では、約束通り、ご希望のアイテムまたは1つだけ

          「クリアー」 (短編小説)

          「株式会社 悪田工務店」 (短編小説)

           (へっ、本当に捺しやがったよ。)  応接セットに腰掛けた目の前の痩せて、いかにも気の弱そうな男が大理石のテーブルに広げられた契約書に実印を捺している。  白いポロシャツから生えた青白い首に、これまたコピー用紙のような顔の眼鏡の男は、数枚の契約書に捺印し、差し出されたティッシュで判を丁寧に拭く。  悪田工務店・応接室。  部屋の隅に枯れそうな観葉植物と、怪しげな海外のおみやげらしい民族風の置物が、この会社の主である悪田の奸計を応援しているようにみえる。  「……はい、

          「株式会社 悪田工務店」 (短編小説)

          「あなたにここにいてほしい」 (短編小説)

           「何よ! ケンジが浮気したんじゃない」  言ったあとで、しまったと思った。  そんなことを言うキャラじゃないのに。  あたしも女なんだ。  出来る女気取っても、中身はやっぱ彼のメールの相手が気になるタイプなんだなぁ。  グラグラと揺れながら、色を無くしていくケンジ。慌てふためきを隠すための激怒がひどく滑稽に見えた。  (何か叫んでるけど、なんだろ……)  玄関でへたり込んでいるまま、いったいどれくらい経ったのだろう。  ふいに手首の痛みが襲った。  そう、出て行こ

          「あなたにここにいてほしい」 (短編小説)

          「永い夜」 (短編小説)

          「お待たせしました、ジンライムです」 8席ほどのバーカウンターに座る2人組のサラリーマン風の男達にカクテルを出す。 仕事柄、バーによく出入りするので、どうにか作り方は知っていた。 2人組のサラリーマンがそれぞれ口に運ぶ。 何か変なのか、お互いチラリと目線を合わせても何も言わない。 何か違っていたのだろうか……。 「マスター、何かつまめるものない?」 急いで視線をメニューに落とす。 ナポリタン、カルボナーラ、ぺペロンチーノ、ジェノバ風ピザ、コブサラダ、アスパラのアーリオオーリ

          「永い夜」 (短編小説)

          「ツイてるひと」 (短編小説)

           「おい、またお前が売り上げトップなのか? そろそろどんな魔法があるのか教えろよ」  メタボ気味の同期の工藤が、肩を組みながらタバコとコーヒーくさい息を首元に掛けてくる。  肩を組んできた脇から、汗の臭いが鼻腔を突いた。よれて折り目の消えたスーツが緩んだ身体を包むのに、切実な悲鳴を上げていた。  -----それだから、お客の玄関先で門前払いを喰らうんだよ------    「今度、飯おごるからさ、聞いてんのか」  背中にかかる声に、振り返らず軽く手を上げて会社を後にした。

          「ツイてるひと」 (短編小説)

          「赤い糸」 (短編小説)

           辞表を出した時、部長の「形だけは引き止めてます」丸出しの顔を備品の詰まったロッカーを整理しながら思い出していた。  一瞬、お前誰だっけ? と云う眼をして、急激に活性化した脳細胞がようやく同じ課の部下であると知らせたようだ。  いい、慣れている。  いつもそうだった。    クラスメイトがはしゃぐ教室で小説を開いていたが、眼は同じ文面を漂っていた。  友人など皆無で、ひとりでいる姿をごまかすために読みもしない本を開いていたのだから。   家にも安らげる場所は無かった。   両

          「赤い糸」 (短編小説)

          「ミイラ取りの苦悩」 (短編小説)

          住宅街を大きく外れ、黄金色の田んぼの主張が激しくなった一角に目的のおじいちゃんの家がある。 腰までの生垣が取り巻く黒い瓦の豪壮な日本家屋が、杉林を背に鎮座していた。 入り口を通り遠慮なく脇を抜け、飛び石を渡り縁側のある庭の方に入る。 白髪でやや曲がった背が見えた。 おじいちゃんは庭の一角に設けた菊の鉢の群れに水をあげていた。 おばあちゃんに先立たれたあと、悲しみを振り切るかのように観賞用菊(羹 あつものと言うらしい)に没頭している。 「じいちゃん、来たよ」 振り向いたおじい

          「ミイラ取りの苦悩」 (短編小説)

          「長屋童」 (短編小説)

          水の中に墨を落とすかのように、さっと暗い雲が江戸の空に拡がった。 「ひと雨来るな」 冷たく湿っぽい風に古びた木綿の着流しの合わせを直し、鷹島彦左衛門は家路を急いだ。 深川の貧乏長屋に着く頃には、すっかり本降りになり濡れ鼠になってしまった。 足桶で泥を洗い、手拭いで水気を切ると三和土(たたき)に上がり手探りで行燈(あんどん)に灯りをつけると、ぼうっと九尺二間の部屋が息を吹き返した。 広島藩九十石の中級武士の身分だった彦左衛門は、老中の謀反騒動に巻き込まれ江戸の片隅に蟄居(ち

          「長屋童」 (短編小説)