#スキしてみて
太陽を見間違えるひとはいない〔ショートショート〕
7月のある雨降りの午後に、僕は太陽にそっくりな女性を見かけたんだ。
その日は内科の受診のために、駅前の総合病院を訪れていた。僕は看護師から渡された体温計で検温しながら椅子に座り、名前が呼ばれるのを待っていた。彼女が現れたのはそのときだった。
これはべつにその女性が、輝くほどの美人だったという話ではない。寧ろ、彼女は地味な顔立ちをしていていた。身長もどちらかといえば低めで、胸やお尻もぺたっとし
〔ショートショート〕喫茶店にスプーンは必要かな
コーヒーゼリーの上からかけた白い生クリームソースが、スプーンの後を追って行く。「苦いのが美味しいね」なんて格好をつけたところで、本当はシロップ入りの生クリームがあるから好きなんだと、後悔した。僕は今日、初めて彼女を尾行した。
仕事だと思っていたが平日が、急に暦通り以上の連休が取れることになった。付き合って半年の彼女と旅行にでもと思ったが、彼女の方は仕事らしい。だから、僕は以前から気になってい
〔ショートショート〕休みの日に妖精はいらない
今朝のアパートの窓からは、雪が舞っているのが見える。向かい合って並ぶアパートの駐車場で、風が空中に円を描いている。それは、雪が踊るようだった。これなら、妖精がくるりと不規則な動きをすると思うのは仕方ないなと思う。停車する車の上にべっとりと積もる雪が、休日のお出かけを億劫なものに変えたがっていた。
むかし、ばあさんが言ってたっけ。「祭りの白粉は子供を獣に変えるためだよ」って。祭りでは獣となって
〔ショートショート〕 未来よりも明るい時間
アイマスクをして眠るキミを見るのが好きなんだ。キミの寝顔を見ながら、一緒に行った旅行先で見つけた振り子時計を思い出す。
その時計があったのは古い小さな旅館で、駐車場にボクらの車が入るとすぐに女将さんが迎えてくれた。隅々まで掃除が行き届いている庭と、木の葉を風が撫でる音が気持ちが良かったのを覚えている。
そして玄関を入ってすぐのところに、それはあった。「調整中」と書かれた札が貼ってある大きな
崇高な憧れと、拗らせた理想。
向かい風だった。
タバコの煙に泣かされたから、片目を薄く瞑って息を吐いた夜に再会したのは、もう会わないと決めていた女。待ち合わせ場所は、昔よく来た公園。
彼女が来るまで、公園の手すりに腰を乗せていた。
小さな公園だ。ペットの散歩をする人も、自分の散歩をする人も今は居ない。海に近いせいか、たまに潮の匂いがするくらいの夜だった。そのせいか彼女が来るのは、すぐに分かった。
白と黒のゴシックフ