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〔ショートショート〕喫茶店にスプーンは必要かな
コーヒーゼリーの上からかけた白い生クリームソースが、スプーンの後を追って行く。「苦いのが美味しいね」なんて格好をつけたところで、本当はシロップ入りの生クリームがあるから好きなんだと、後悔した。僕は今日、初めて彼女を尾行した。
仕事だと思っていたが平日が、急に暦通り以上の連休が取れることになった。付き合って半年の彼女と旅行にでもと思ったが、彼女の方は仕事らしい。だから、僕は以前から気になってい
〔ショートショート〕 雨と無知
仕事から部屋に戻ると、いつも決まってまず風呂に入る。これが、この男の習慣だった。湯を張ったバスタブの中にふんぞり返って座り、ふちに足を投げ出して大股開きで座る。このとき、肩はお湯の中にしっかり沈め、首を通り越し顎の先にお湯が付くまで沈む。「肩までしっかり浸かれよ」。男が父親から言われたことで、一番理解できて、心から納得した教えだった。今日みたいに肌寒い日は、もう秒数を数えてもらわなくても良いくら
もっとみる〔ショートショート〕 友達図鑑
過ぎ去った年月の中に閉じこもるには、理由がある。でも大勢の人が、それを妨害しようとしてくるから煩わしくなって、それから嫌いになった。
十歳の誕生日に、ボクはその本を盗むことを決めて、17歳のときに実行した。その本は、皆が言うには「みんなの」もので、100ページくらいあり、それほど重たくはない。
本については常識的な共通のルールがあり、それを守るのが普通のことであるらしい。ネタバレをすること
〔ショートショート〕休みの日に妖精はいらない
今朝のアパートの窓からは、雪が舞っているのが見える。向かい合って並ぶアパートの駐車場で、風が空中に円を描いている。それは、雪が踊るようだった。これなら、妖精がくるりと不規則な動きをすると思うのは仕方ないなと思う。停車する車の上にべっとりと積もる雪が、休日のお出かけを億劫なものに変えたがっていた。
むかし、ばあさんが言ってたっけ。「祭りの白粉は子供を獣に変えるためだよ」って。祭りでは獣となって
〔ショートショート〕ひな祭りの主役は、二段目に。
少女が一人。
湿った砂浜に膝を抱えて座り、素足の指と指の間を海水が触っては戻っていくのを見つめる。3月の波打ち際は、まだ冷たい。
当然、少女にとって、そんなことは常識だった。
考え事をするときは、普段からこの海を訪れるから。
今日、彼女は、波打ち際で遊ぶ理由を考えていた。
それは視線の先に、噂に聞いたことのある未知の世界が広がっているからで、ここでその世界を妄想するのが好きだから、そ