じゅり

オリジナルストーリーと、エッセイ、お手紙の3種類 の「想いを伝えるストーリー」を書いて…

じゅり

オリジナルストーリーと、エッセイ、お手紙の3種類 の「想いを伝えるストーリー」を書いていきます。 ファンタジー大好き。一番好きなお話しは「霧のむこうのふしぎな町」。 応援お願いいたします。 (HP)https://chiisana-fushigi.jimdofree.com/

マガジン

  • オリジナルな創作童話集。

    わたしが制作した童話系のお話をまとめています。

  • 実話をもとにしたエッセイ集。

記事一覧

妻からの手紙

とても静かだ。毎日がとても静かなんだ。 僕は、所在無げに家の中を歩く。 家の中は娘たちがたまにやって来ては きれいに片付けてくれている。 することがない。 結局は…

じゅり
4週間前
14

キジトラ猫の別れ

会ったのは本当に久しぶりだった。 最初こそぎこちなかったけれど、 すぐに元どおりになった。 小さい頃から兄妹のように育った幼馴染だ。 お互いのことは何でも知ってい…

じゅり
1か月前
40

かくれんぼ

その子に初めて出会った時、 僕は誰かに褒めてほしくて、 僕が特別な人間になりたくって 本当のこと以上にしゃべっていた。 「僕もできるよ!」 「そうそう! 知ってるよ…

じゅり
2か月前
12

迷いの森(2)

ある日僕は隙間に落ちた。 その隙間は、毎日通っている 駅の改札口の目の前にあった。 みんな気が付かずにきれいに 隙間をまたいで通り過ぎていく。 僕も、その隙間に気…

じゅり
2か月前
10

小さな弟

「ちょっと、あんた待ちな!」 夏休みになり、仲の良い友人と 七ヶ宿町へ遊びに行っていた時だった。 七ヶ宿町は、その名の通り7つの宿場があった町。 昔は多くの旅人が…

じゅり
3か月前
25

"虹のかけら" と "花のゆりかご"

「ねえねえ、おやつちょうだい?」  いつものように高い声で呼びかけて、  体をすり寄せても知らんぷりされてしまいます。 「いったいどうしたのだろう?  撫でてもく…

じゅり
3か月前
8

魔法使いの修行になるらしい?「自分で決める時間」

何度も繰り返し読んでいる作家さんの本がある。 「梨木果歩」さんの本で 「西の魔女が死んだ」という本だ。 学校で居場所をなくし、 ”扱いにくい子”という 両親の言葉に…

じゅり
3か月前
9

迷いの森

「旅人さんにあの木は何に見える?」 彼女は旅人の顔を見て、 少しハッとしてから微笑み、同じように木を眺めました。 旅人の顔にはやっと一筋の光が見えました。 旅人は…

じゅり
3か月前
20

キジトラ猫の決意

今年の冬は一段と寒い冬でした。 葉っぱも凍り付き、大地に芽吹く草花もすっかり身を隠しています。 このあたりの縄張りを取り仕切る大きなキジトラ猫と このあたりの縄張…

じゅり
3か月前
26

娘の履歴書

死んだおばあちゃんから 「電話でちゃんと言わなきゃだめじゃない」と叱られてからは、 妊娠を隠さず話したおかげで 10キロも体重が落ちた悪阻の時もサポートしてもらい、 …

じゅり
3か月前
10

ばあちゃんからの電話

午後の日差しがじりじりと刺さるのが気になりながらも、 頭が重くて吐き気が止まらず ベッドから起き上がることができないでいました。 どうしようと考えているうちに目を…

じゅり
3か月前
6

虫さんのお知らせ

私は虫が苦手だ。 どれくらい苦手かというと、発見すると動けなくなる。 蛇ににらまれたカエルになる。 つまり、心理的力関係は”虫の方が上”だ。 なんでこんなところ…

じゅり
3か月前
4

夫婦のカタチ

夫婦ってどうすれば良いのかな・・。 私は鏡に映る自分の顔をじっと見て 所在なげに前髪を直しました。 そしてまた、大きく息を吐きだします。 ------------------------…

じゅり
3か月前
8

わたしの小さな宇宙

「もうイヤだ・・・。」 日が傾き、自分の細長く伸びる影ですら憎らしく感じる。 進むのが怖い。 この先にあるのは、闇か安定した生活か。 先がわからない。これは夢追い…

じゅり
3か月前
3

こねこの子守唄

「ふぁ~。う~ん!よく寝た~。  ここは、なにもしなくても  おなかいっぱいにごはんをくれるし、  雨も全然あたらないし、いつでも暖かいし  本当に楽ちんな場所だな…

じゅり
4か月前
8

自動販売機のお話

毎日通っている道なのに 今まで全く気がつきませんでした。 見てはいたのでしょうが 普通の自動販売機だと思っていたのです。 たまたま喉が渇いたなと、 辺りを見渡した…

じゅり
4か月前
8
妻からの手紙

妻からの手紙

とても静かだ。毎日がとても静かなんだ。
僕は、所在無げに家の中を歩く。

家の中は娘たちがたまにやって来ては
きれいに片付けてくれている。

することがない。

結局はまた、真新しい小さな仏壇の前に来てしまう。
今にも笑いだしそうな笑顔のきみ。

君に似つかわしくない
黒の縁取りにすっぽり収まってしまって。
どうかしたんじゃないのか。

君はすぐ怒ったり笑ったり、
隙を見つけては僕にまとわりついて

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キジトラ猫の別れ

キジトラ猫の別れ

会ったのは本当に久しぶりだった。
最初こそぎこちなかったけれど、
すぐに元どおりになった。
小さい頃から兄妹のように育った幼馴染だ。

お互いのことは何でも知っている。
いや "知っているつもり" だった。
だから2年前、
あいつが "俺と一緒に来ない"
選択をするなんて
考えてもいなかった。

簡単に人のことを信じる
素直で少し天然で、
でもちょっと頑固なやつだった。
俺の後ろをいつもついて歩

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かくれんぼ

かくれんぼ

その子に初めて出会った時、
僕は誰かに褒めてほしくて、
僕が特別な人間になりたくって
本当のこと以上にしゃべっていた。

「僕もできるよ!」
「そうそう! 知ってるよ!
 やっぱりそうだよな! そう思ったよ。」
「そんなの簡単だよ! 余裕だよ!」

できないことがあると、
体調が悪いふりをして逃げることもあった。

「急にめまいがして・・・。
 おなかが痛くて・・・」

嘘をついている実感なんてな

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迷いの森(2)

迷いの森(2)

ある日僕は隙間に落ちた。

その隙間は、毎日通っている
駅の改札口の目の前にあった。
みんな気が付かずにきれいに
隙間をまたいで通り過ぎていく。

僕も、その隙間に気が付いても、
他のみんなと同様に
隙間をまたいで通り過ぎていた。

隙間は "ニタっ" と笑う
大きな化け物の口のようだった。
底が見えない真っ暗な口。

僕は、毎日変わらずにある隙間が
気になって気になってしょうがなかった。

その

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小さな弟

小さな弟

「ちょっと、あんた待ちな!」

夏休みになり、仲の良い友人と
七ヶ宿町へ遊びに行っていた時だった。

七ヶ宿町は、その名の通り7つの宿場があった町。
昔は多くの旅人が行きかった場所だ。
現在は高齢化がすすみ、
行きかう観光客が町のにぎやかさを
保っているようにも感じる。

大きなダムがあり、底には昔の村が沈んでいる。
水の中にある町、考えると恐ろしくも浪漫がある。
夏にピッタリの大きな滝もあり水遊

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"虹のかけら" と "花のゆりかご"

"虹のかけら" と "花のゆりかご"

「ねえねえ、おやつちょうだい?」

 いつものように高い声で呼びかけて、
 体をすり寄せても知らんぷりされてしまいます。

「いったいどうしたのだろう?
 撫でてもくれないし、おやつもくれない」

 僕はしょうがなく、いつものように
 ゆっくり家の中を確認して回ることにしました。

 家の中は、この時間いつも静かです。
 僕と僕が一番好きなこの人しかいません。

 いつもはどんな時でも、
 甘えに

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魔法使いの修行になるらしい?「自分で決める時間」

魔法使いの修行になるらしい?「自分で決める時間」

何度も繰り返し読んでいる作家さんの本がある。
「梨木果歩」さんの本で
「西の魔女が死んだ」という本だ。

学校で居場所をなくし、
”扱いにくい子”という
両親の言葉に傷ついた女の子が、
魔女の力を少し持っている祖母のもとで過ごし、
その後の心の移り変わりを描いたお話しだ。

このお話しの中で、
この子は祖母から魔女修行を受ける場面があるが、
密かに一緒に真似をしている。

・自分でスケジュールをた

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迷いの森

迷いの森

「旅人さんにあの木は何に見える?」

彼女は旅人の顔を見て、
少しハッとしてから微笑み、同じように木を眺めました。
旅人の顔にはやっと一筋の光が見えました。

旅人は、旅人ではありませんでした。
一人雑踏の中を呆然と歩いていたただのスーツを着た男でした。

これからどう生きていいかもわからなくなり、
誰を信じたら良いかわからなくなり、
なぜ自分が歩かなくてはいけないのかもわかりませんでした。

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キジトラ猫の決意

キジトラ猫の決意

今年の冬は一段と寒い冬でした。
葉っぱも凍り付き、大地に芽吹く草花もすっかり身を隠しています。
このあたりの縄張りを取り仕切る大きなキジトラ猫と
このあたりの縄張りでは一番の古株の大きな白猫は
調子に乗りすぎている誇り高き北風を
諫めるように睨みながら身を寄せました。

「白じいさんよ、おれは人間の元へ行こうと思う」

キジトラ猫は、はっきりと口にしました。
もう絶対に揺るがない言葉に白猫は目を見

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娘の履歴書

娘の履歴書

死んだおばあちゃんから
「電話でちゃんと言わなきゃだめじゃない」と叱られてからは、
妊娠を隠さず話したおかげで
10キロも体重が落ちた悪阻の時もサポートしてもらい、
当時所属していた団体の子たちもサポートしてくれた。

心配していた時期も過ぎ、
無事に安定期に入った。

戌の日に出産間近となった親友と、
昔から通っている祈願寺に安産祈願に出かけられた時は、
本当に嬉しかった。
自分のことのように喜

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ばあちゃんからの電話

ばあちゃんからの電話

午後の日差しがじりじりと刺さるのが気になりながらも、
頭が重くて吐き気が止まらず
ベッドから起き上がることができないでいました。

どうしようと考えているうちに目を閉じては、
また天井を見上げてを繰り返しているうちにスマホが鳴りました。

眼鏡をはずしているのでぼんやりとしか見えません。
漢字の羅列に見えた表示に、
私はとりあえず電話に出ました。

「・・・もしもし?」
「言わないとだめだって!!

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虫さんのお知らせ

虫さんのお知らせ

私は虫が苦手だ。

どれくらい苦手かというと、発見すると動けなくなる。
蛇ににらまれたカエルになる。

つまり、心理的力関係は”虫の方が上”だ。

なんでこんなところにいるんだおまえは~!! と
心の中で悪態をつきながら、
絶対に目を離さずに主人を大声で呼ぶ。

どんなに喧嘩していても主人を呼ぶ。
喧嘩に負けるプライドなどなんてことない。
だって、力関係は虫が蛇で私がカエルだから。

背に腹は代え

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夫婦のカタチ

夫婦のカタチ

夫婦ってどうすれば良いのかな・・。
私は鏡に映る自分の顔をじっと見て
所在なげに前髪を直しました。

そしてまた、大きく息を吐きだします。

---------------------------

夫婦とは、元々血のつながりのない赤の他人です。

その他人と、生まれてから大人になるまでの間で
出会う誰よりも同じ時間をともに過ごし、
そして、血を繋ぐ家族となる。

すごいことだなと思うのです。大変

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わたしの小さな宇宙

わたしの小さな宇宙

「もうイヤだ・・・。」
日が傾き、自分の細長く伸びる影ですら憎らしく感じる。
進むのが怖い。

この先にあるのは、闇か安定した生活か。
先がわからない。これは夢追い人の宿命か。

夢という甘美な時間と
見えない先を追う苦しさと
天国と地獄のような精神状態を繰り返している。

じんわりとにじんで
ぼやけた靴をじっと睨んで足を止めた。

ぽたぽたと夕立ちのような音をたてて、
足元が見えなくなっていく。

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こねこの子守唄

こねこの子守唄

「ふぁ~。う~ん!よく寝た~。
 ここは、なにもしなくても
 おなかいっぱいにごはんをくれるし、
 雨も全然あたらないし、いつでも暖かいし
 本当に楽ちんな場所だなぁ」

小さな子猫はその小さな口で
大きなあくびをしてから
子猫用のお布団から飛び出して
大きな窓辺にやってきました。

窓ガラスに映る自分の姿にちょっと驚いてから、
恐る恐る外を眺めます。

外はいつの間にか真っ暗になっていて、
いつ

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自動販売機のお話

自動販売機のお話

毎日通っている道なのに
今まで全く気がつきませんでした。

見てはいたのでしょうが
普通の自動販売機だと思っていたのです。

たまたま喉が渇いたなと、
辺りを見渡したときに近くに見つけたのが
この自動販売機だったのです。

 お茶が欲しいなと思って見てみましたが
お茶がありません。
それどころか知っている飲み物が一つもありません。
コーヒーもお茶もジュースも。
そしてペットボトルすらありませんでし

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