じゅり

オリジナルストーリーと、エッセイ、お手紙の3種類 の「想いを伝えるストーリー」を書いて…

じゅり

オリジナルストーリーと、エッセイ、お手紙の3種類 の「想いを伝えるストーリー」を書いていきます。 ファンタジー大好き。一番好きなお話しは「霧のむこうのふしぎな町」。 応援お願いいたします。 (HP)https://chiisana-fushigi.jimdofree.com/

マガジン

  • オリジナルな創作童話集。

    わたしが制作した童話系のお話をまとめています。

  • 実話をもとにしたエッセイ集。

最近の記事

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迷いの森(2)

ある日僕は隙間に落ちた。 その隙間は、毎日通っている 駅の改札口の目の前にあった。 みんな気が付かずにきれいに 隙間をまたいで通り過ぎていく。 僕も、その隙間に気が付いても、 他のみんなと同様に 隙間をまたいで通り過ぎていた。 隙間は "ニタっ" と笑う 大きな化け物の口のようだった。 底が見えない真っ暗な口。 僕は、毎日変わらずにある隙間が 気になって気になってしょうがなかった。 その日僕は、隙間が変わらずあることを確認して、 改札口から少し離れたところに立ってい

    • 小さな弟

      「ちょっと、あんた待ちな!」 夏休みになり、仲の良い友人と 七ヶ宿町へ遊びに行っていた時だった。 七ヶ宿町は、その名の通り7つの宿場があった町。 昔は多くの旅人が行きかった場所だ。 現在は高齢化がすすみ、 行きかう観光客が町のにぎやかさを 保っているようにも感じる。 大きなダムがあり、底には昔の村が沈んでいる。 水の中にある町、考えると恐ろしくも浪漫がある。 夏にピッタリの大きな滝もあり水遊びもできる。 友人とその滝を目指している途中に 立ち寄った自動販売機で声をかけ

      • "虹のかけら" と "花のゆりかご"

        「ねえねえ、おやつちょうだい?」  いつものように高い声で呼びかけて、  体をすり寄せても知らんぷりされてしまいます。 「いったいどうしたのだろう?  撫でてもくれないし、おやつもくれない」  僕はしょうがなく、いつものように  ゆっくり家の中を確認して回ることにしました。  家の中は、この時間いつも静かです。  僕と僕が一番好きなこの人しかいません。  いつもはどんな時でも、  甘えにいくとすぐにかまってくれていました。  仕事中は邪魔しないの!と軽く叱られても、

        • 魔法使いの修行になるらしい?「自分で決める時間」

          何度も繰り返し読んでいる作家さんの本がある。 「梨木果歩」さんの本で 「西の魔女が死んだ」という本だ。 学校で居場所をなくし、 ”扱いにくい子”という 両親の言葉に傷ついた女の子が、 魔女の力を少し持っている祖母のもとで過ごし、 その後の心の移り変わりを描いたお話しだ。 このお話しの中で、 この子は祖母から魔女修行を受ける場面があるが、 密かに一緒に真似をしている。 ・自分でスケジュールをたて、  周囲に惑わされずに成し遂げる。 ・知りたいと思った情報だけを  受け取る

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        迷いの森(2)

        マガジン

        • オリジナルな創作童話集。
          9本
        • 実話をもとにしたエッセイ集。
          8本

        記事

          迷いの森

          「旅人さんにあの木は何に見える?」 彼女は旅人の顔を見て、 少しハッとしてから微笑み、同じように木を眺めました。 旅人の顔にはやっと一筋の光が見えました。 旅人は、旅人ではありませんでした。 一人雑踏の中を呆然と歩いていたただのスーツを着た男でした。 これからどう生きていいかもわからなくなり、 誰を信じたら良いかわからなくなり、 なぜ自分が歩かなくてはいけないのかもわかりませんでした。 信号待ちをしていたら、急に目の前が暗くなり、 「あっ何も食べてなかった、貧血かな・

          迷いの森

          キジトラ猫の決意

          今年の冬は一段と寒い冬でした。 葉っぱも凍り付き、大地に芽吹く草花もすっかり身を隠しています。 このあたりの縄張りを取り仕切る大きなキジトラ猫と このあたりの縄張りでは一番の古株の大きな白猫は 調子に乗りすぎている誇り高き北風を 諫めるように睨みながら身を寄せました。 「白じいさんよ、おれは人間の元へ行こうと思う」 キジトラ猫は、はっきりと口にしました。 もう絶対に揺るがない言葉に白猫は目を見開きました。 「お前、くるったのか?  人間につかまればどうなるかわからん。

          キジトラ猫の決意

          娘の履歴書

          死んだおばあちゃんから 「電話でちゃんと言わなきゃだめじゃない」と叱られてからは、 妊娠を隠さず話したおかげで 10キロも体重が落ちた悪阻の時もサポートしてもらい、 当時所属していた団体の子たちもサポートしてくれた。 心配していた時期も過ぎ、 無事に安定期に入った。 戌の日に出産間近となった親友と、 昔から通っている祈願寺に安産祈願に出かけられた時は、 本当に嬉しかった。 自分のことのように喜んでくれた。 安定期が過ぎ、 お腹も大きくなって出産日もまもなくのころ。 夢

          娘の履歴書

          ばあちゃんからの電話

          午後の日差しがじりじりと刺さるのが気になりながらも、 頭が重くて吐き気が止まらず ベッドから起き上がることができないでいました。 どうしようと考えているうちに目を閉じては、 また天井を見上げてを繰り返しているうちにスマホが鳴りました。 眼鏡をはずしているのでぼんやりとしか見えません。 漢字の羅列に見えた表示に、 私はとりあえず電話に出ました。 「・・・もしもし?」 「言わないとだめだって!!!!」 電話口から飛び出してきそうなはっきりした声に、 まどろんでいた目もパッ

          ばあちゃんからの電話

          虫さんのお知らせ

          私は虫が苦手だ。 どれくらい苦手かというと、発見すると動けなくなる。 蛇ににらまれたカエルになる。 つまり、心理的力関係は”虫の方が上”だ。 なんでこんなところにいるんだおまえは~!! と 心の中で悪態をつきながら、 絶対に目を離さずに主人を大声で呼ぶ。 どんなに喧嘩していても主人を呼ぶ。 喧嘩に負けるプライドなどなんてことない。 だって、力関係は虫が蛇で私がカエルだから。 背に腹は代えられない。命がかかっている・・・メンタルの。 そういう意味では、 夫婦円満のあ

          虫さんのお知らせ

          夫婦のカタチ

          夫婦ってどうすれば良いのかな・・。 私は鏡に映る自分の顔をじっと見て 所在なげに前髪を直しました。 そしてまた、大きく息を吐きだします。 --------------------------- 夫婦とは、元々血のつながりのない赤の他人です。 その他人と、生まれてから大人になるまでの間で 出会う誰よりも同じ時間をともに過ごし、 そして、血を繋ぐ家族となる。 すごいことだなと思うのです。大変なことだと思うのです。 実際、この広い宇宙の中から、 たった一人のパートナーと

          夫婦のカタチ

          わたしの小さな宇宙

          「もうイヤだ・・・。」 日が傾き、自分の細長く伸びる影ですら憎らしく感じる。 進むのが怖い。 この先にあるのは、闇か安定した生活か。 先がわからない。これは夢追い人の宿命か。 夢という甘美な時間と 見えない先を追う苦しさと 天国と地獄のような精神状態を繰り返している。 じんわりとにじんで ぼやけた靴をじっと睨んで足を止めた。 ぽたぽたと夕立ちのような音をたてて、 足元が見えなくなっていく。 今自分には足元も見えない。進む足が見えない。 先を見ることがぐっと遠ざかった

          わたしの小さな宇宙

          こねこの子守唄

          「ふぁ~。う~ん!よく寝た~。  ここは、なにもしなくても  おなかいっぱいにごはんをくれるし、  雨も全然あたらないし、いつでも暖かいし  本当に楽ちんな場所だなぁ」 小さな子猫はその小さな口で 大きなあくびをしてから 子猫用のお布団から飛び出して 大きな窓辺にやってきました。 窓ガラスに映る自分の姿にちょっと驚いてから、 恐る恐る外を眺めます。 外はいつの間にか真っ暗になっていて、 いつもはにぎやかな声もまったく聞こえません。 遠くの空には、キラキラと金色に輝く

          こねこの子守唄

          自動販売機のお話

          毎日通っている道なのに 今まで全く気がつきませんでした。 見てはいたのでしょうが 普通の自動販売機だと思っていたのです。 たまたま喉が渇いたなと、 辺りを見渡したときに近くに見つけたのが この自動販売機だったのです。 お茶が欲しいなと思って見てみましたが お茶がありません。 それどころか知っている飲み物が一つもありません。 コーヒーもお茶もジュースも。 そしてペットボトルすらありませんでした。 あったのは缶のみです。  「なんなんだ、これは」 缶のラベルを見て思わ

          自動販売機のお話

          雨の香り(エッセイ)

          思いきり息を吐きだしてしまったから、ツンとした雨の匂いがダイレクトに鼻に入ってきてしまった。 むせてしまって咳き込む。 それでも娘は泣き止まない。 傘の向こうに見える雪に変わりそうな暗い空をちらっとみて、抱っこひもの中で泣き続ける娘に巻き付けた毛布をぎゅっと巻き付きなおした。 肩にくいこむバッグの中身は、日に日に増えている。 いつでも家を飛び出してもいいようにと考えているうちに、お泊りバッグくらい大きくなってしまった。 あやしても、ゆすっても泣き止まない。 真っ赤な顔で小

          雨の香り(エッセイ)

          ちいさな桜の木

          川沿いに沿って咲く何百本もの桜並木が有名な町がありました。 その桜並木の中に一本だけ、 とても小さな桜の木がありました。 枝が折れ、今にも地面にもたれかかりそうになっています。 満開の見事な桜並木に隠れて、 ひっそりと痛みに耐える その小さな桜の木に気づく者は誰もいません。 しかし、そんなある日のことでした。 この町に住む一人の少女が通りかかります。 少女は辛そうな桜の木を見つけて、 急いで家に戻り包帯を持ってきました。 そして折れた枝を包帯でぐるぐると巻き、 優しく枝を

          ちいさな桜の木

          時計の涙

          寂れた海辺の町の大きな広場に一本の大きな時計が立っていました。 昔からこの場所に立っている時計で、強い海風にも負けずにどんなときでもまっすぐに立ち、そして、正午になると町中に響き渡るくらい大きくて澄んだ美しい鐘の音を響かせることができる立派な時計でした。 時計の前には毎日たくさんの人が集まってきます。 待ち合わせをする人、広場で遊ぶ親子、たくさんの子供たちに、観光客、そして美しい海を前にプロポーズする人もいました。時計はどんな人にも、昔から変わらないきっちりとした歩みで時を刻

          時計の涙