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邪道作家第五巻 狂瀾怒濤・災害作家は跡を濁す 分割版その3

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)



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 運命。
 仮に私は、案外あっさりこの先「成功」し、簡単に「幸福」になる(想像できないが)運命だったとしよう。だが、それをどう知覚する?
 それこそ不可能だ。
 先が見えないと言うのは不安なものだ。例えそれが偽の爆弾(外観のみ本物に見える)を送り、警戒レベルをあげた上で同系列他施設のIDをコピーし進入。メンテナンス業者を装い八ッキングしている最中だとしても、だ。
 合理性をあざ笑うかのようなやり口だと、我ながら思う。ここまで最新鋭のオーバーテクノロジーで守られた最新の要塞、個人情報保護機関ですら、手口を変えずに進入は可能だ。
 偽の爆弾なんて誰でも作れるし、例え偽物でも爆弾が送られれば警戒はあがる。神経質になったところで、つまりは余裕のないところでメンテナンス業者を装い訪問する。
 IDに関して言えば、同系統にある他の施設、警備の優先度の低い職員から、データをコピーすればいい。よく調べれば同じ人間が二人いることは分かるはずだが、警戒を強化した警備は、不思議なことにIDさえ通れば仲間だと認識する。
 我ながら悪魔みたいな手口だ。
 数兆円賭けた施設を、わずか200円の予算で突破してしまった。勿論、コーヒー代だ。
 ハッキングは人工知能に任せればいい。
 こんな暇つぶし感覚で突破できていいのか疑問ではあるのだが、楽であるに越したことはない。 ここからは電撃作戦だ。
 最新型のセンサは、音も温度も紫外線すらも、呼吸音の一つまで、完全に掌握する。
「完全な管理など無いってことかね。先生がこうも簡単に入れるとは」
「当然だ。システムを管理するのは、人間だからな・・・・・・アンドロイドだったところで、警備である以上、どこかに隙は生まれるものだ」
 人間なら居眠りするし、アンドロイドならメンテナンスが必要だ。これがあるから絶対、の警備体制など存在し得ない。
 システムが完璧でも管理する側は完璧になり得ないからだ。究極的には管理する側を、人質にでも取ってしまえば、どんな完璧なシステムであろうが、無駄に終わる。
 世の中そんなものだ。
 フリーの始末屋は組織のバックアップが無いので苦労する。大層な資金援助もないし、作家としても、私の作品は何かしら宣伝に関しても、手を打たなければならないからだ。
「さて、やるか」
 最新型のセンサを欺くことは不可能だ。
 どんな小細工も通用しない。完璧な管理システム。ジャックでも偽装は難しい。だが。
 最新型センサーはどんな小さな変化も見逃さない。だから3745カ所程、小さな爆薬を仕爆破することで、注意を逸らすことにした。
 録音された銃撃音を響かせることも忘れない。これでゲリラと誤解させるのだ。
 警報音で五月蠅い中、私は半ば強引に個人情報を管理しているデータを調べ上げ、ヴィクターを調べることにした。
 だが、何故かここには無かった。
 おかしい・・・・・・そんなはずはないのだが。だが無いモノは無い。故に直接で向くしかあるまい。 私はここの責任者がいるであろう大きな扉をがらりと開けた。
 そこには。
「・・・・・・私の情報ならここだよ」
 そう言って、古びた(ほとんど化石だ)旧時代の記録デバイスを右手で振る、壮年の男の姿が、そこにはあった。
「君が、噂の邪道作家かな」
「だとしたら?」
 ここで仲間とか信頼できる絆とかがあれば奇跡が起こって大逆転したりするのだろうが、私は一人だ。人工知能を併せてすら二人。いや、こいつに関しては鏡みたいなものだ。数えまい。
 私は一人だ。
 彼も一人のようだった。
 心情的にも。
 精神的にも。
 物質的にも。
 一人。
 この時代に産まれ、それでいて時代遅れの人間が、二人、ここにいた。
「まぁ座りたまえ。紅茶でも出そう」
「それは有り難いな」
 実際、完璧なはずの警備をこうもあっさり破りその上、自室に押し入られてと言うのに、彼は慌てふためいたりはしなかった。当然か。
 私でもそうする。
 似た者同士というわけだ。
 私も彼も強いわけではない。むしろ、「愛」とかいう謎のエネルギーが人間を強くするならば、我々二人は強さすらない。
 今更、いらないがな。
 あるのは狂気だけだ。
「君は人間をどう思う?」
「どう、とは? いきなりだな。強いて言えば、身勝手な生き物だろう」
「正解だ。そして、人間というのは身勝手だからこそ斬新なモノを作り上げることが出来る。だがその斬新さは、人類のテクノロジーの進歩が、不要と判断するようになった」
「・・・・・・何の噺だ?」
「人間の弱さについて、語っているのだよ。アンドロイドは夢を見るようになった。だが、人間は夢を見すぎるままだった。理想的な社会を形成するには、不必要なくらいに」
「なら、アンドロイドに取って代われとでも?」「いいや、理想的社会形態のコントロールというのは、理想的な人間が運用することで実現可能となるものだ。従って、私は差別も貧困も苦しみも悲しみも「持たない」強い人類を作り上げたいだけだよ」
「強い人類?」
 そういえば、この男は革命かもどきの行動を繰り返しているらしかったが、さて、それと関係あるのだろうか?
 私は出されたケーキを口に入れ、紅茶で喉を潤してから、答えることにした。
「強いかどうかなんて、主観によるだろう」
「そうともいえない。聞くが、人間を変えるのに一番手っ取り早い方法は、何だと思うね?」
「洗脳かな」
 一番早そうだ。
 真っ先にその選択肢がでるのもどうかと思わないでもないが、暗闇に閉じこめてしばらく洗脳を続ければ、大抵の人間は壊れるか諦める。 
 私のように最初から壊れていなければ、だが。 狂人はコントロールできないからな。
 狂っているものは、正せまい。
「違うな。要はどのような社会問題も、人間の意識が問題だ。全ての社会悪は、所詮人間の心のありようが表現しているだけに過ぎない。だから人間全体の意識を変えることが出来れば、社会を変えることなど簡単だよ」
「ほう。そりゃ大層な噺だ。だが、どうやって」「革命、という「空気」を与えればいい」
 なるほど。革命というのは言わば免罪符でもあるのだ。免罪符を掲げる人間は、反対勢力に容赦をしない。意見は無理矢理統一される。
 数が多ければ、正義だ。
 世の中そんなものだ。まぁ、数だけでも意味がないだろう。金と権威と実力か。
 結局のところ、どれだけ綺麗事を歌おうが、実際にその綺麗事を現実にするには力が必要だ。それを熟知しているからこそ、この壮年の男、ヴィクターは革命などと言う、実利の不透明な活動に身を投じているのだろう。
 チェ・ゲバラもきっと、そうなのだろうな・・・・・・この男も同じだ。何かを変えようと思うあまり、自信の平穏を望めない人間。悲しいことに、そう言う人間こそが、世界の歴史を変えてきた。 因果な商売、なのだろう。
 きっとな。
 革命も、金が絡むという点では、同じだ。
「空気ですよ。何となく皆が、「こうしていくべきだ」と感じ取れば、それが社会のルールとなるのです。世界を変えるのは貴方達が、私のことを大層に「革命家」などと呼んでいる私のような人間ではなく、「何となく皆がそうしているから」という、理由とも取れない理由こそが、人間の無意識の善性を刺激し、世の中を変えていこうという活力になるのです」
「身も蓋もない噺だ」
「ええ。ですが事実です。合理的に考えれば、その意識を人に言われるまでもなく皆が持つことですが、要は私は、それを実行に移していると言うよりも、皆がそれをやりやすくしているだけ、と言うべきでしょう」
「・・・・・・資料を見たよ。お前の周りには気持ち悪いくらい、お前のことを「正しい」と盲信して疑わない人間ばかりだ。その上、全ての人間がお前に好意を向けていて、反対意見は認められない空気を出している」
 まるで主人公だ。
 そう私が語ると、彼は笑って「そんなものですよ、人間は自分に都合の良い存在を、否定できないものです」と答えるのだった。
 都合の善し悪し。
 それは正義だとか悪だとかそういう下らない事ではなく、そう理由づけて人間が動くための、その前提と言うべきだろう。そして、少なくとも現地における全ての人間の「都合」を満たすことはそれほど難しくはないだろう。
 彼らの夢理想も、結局は彼ら自身の都合が良いか悪いかでしかない。都合を叶える形で、現地の人間達の都合を叶え、反対する勢力を潰す形で言葉を広げれば、それで英雄の誕生だ。
 主人公か。
 なら、私は何だろう?
 悪役か。
 悪人か。
 いずれにせよ、楽な配役であって欲しいものだが・・・・・・この世が仮に舞台だったところで、私は自信の利益にしか関心がない。どうでもいい。
「それで、どうしますか?」
「始末を依頼されている」
「ならばこれでどうです?」
 言って、懐から何かを取り出した。武器かと思ったが、違った。金のクレジットチップだ。
「このチップに2000万ドル程、入金されています。税金もかからない上、裏金利での預け入れになっているので、ご安心を。銀行と政府の癒着がある限り、つまりは政府形態がある限りは、貴方の金銭面での不安は無くなります」
「ふん、それで」
「取引をしましょう。貴方も、寿命を取引材料としている以上、ここで引き下がれるとは思いません。ので」
 言って、彼は銃を取り出した。
「この私、だけを始末するというのは」
 都合が悪いでしょうか、と訳の分からないことを言った。
 いや、分からないことではない。
 私はすでに、それを経験している。
「合理的に考えれば、肉体一つに縛られるのは下らないことです。便利ですよ。自分の体が複数個体、あるというのは」
 シェリーホワイトアウトと同じ、肉体を複数個持っているという事だろうか・・・・・・しかし、アンドロイド並の演算能力など、あるはずがない。
「・・・・・・どうやって、動かしているんだ?」
「簡単ですよ。外注するか、自分の資金で外付けの演算装置を買えばいい。私の場合、ここから数光年離れた惑星で、演算装置を管理してます」
 私の代わりに考えてくれる訳です。
 そんなことを平然と言うのだった。
 なるほど、確かに主人公だ。
 自分の痛みを何とも思わず、世界全体が平和になればいいと本気で信じ、その上敵対者には容赦せず、思想を植え付け社会を操る。
 ヴィクターの場合、それが機械を通しているだけだ。そして世界が平和になればいいと言うよりは、合理的に「その方が便利だから」なのだろうが。
 自覚的に人を、自分をも、踏み台にする。
 この上「俺は正しいことをやっている」だとか女のためだとか綺麗事を言えば完璧だが、彼の場合単純に合理的思考の果てに革命を起こそうとしているのだろうから、笑えない。
 自覚ある邪悪か。
 本来主人公とは邪悪で醜悪なものだ。何せ女のためにあれこれ策を弄する悪人の邪魔をして殺したところで、何一つ悪びれない。
 しかしこの男は己の行動を「正しい」とすら思っていないのだろう。
 合理的に考えて。
 世界は平和であるべきだ。
 だから殺す。
 この壮年の紳士は。
 まぁ、私には関係ないがな。
「・・・・・・いいだろう。私の依頼はお前という個人を始末することだ。別に革命を止めてくれとは頼まれていないしな」
 ただ、流石にそれだけでは、依頼人が納得しないだろう。条件を付け加えることにした。
「加えて、しばらくの間、革命活動をやめて貰おうか」
「構いませんよ。もとより、私にはもう活動する意志がありませんし」
「どういうことだ?」
 彼は笑ってこう言った。
「世間の流れは、もう「革命を起こす」という空気に変わっています。私がこの先何をしようが、すでに彼らは動くでしょうから」
「流行の曲みたいなものか」
「ええ。どうしたところで、彼らはそう行動するでしょうね。扇動したのは私ですが、この惑星も他の惑星も、いや自我を持つ全ての生き物は、考えるのが苦手ですから」
「だから「革命家」に、考えること、やるべき事を模索することを「委託」していると?」
「その通り」
 喉が渇いたのか彼は紅茶を啜った。私もそれに習って少し飲んだ。
 私は席を立ち、
「いずれにしても私には関係ない。精々利用させて貰うさ。お前の思想も、依頼人も、金になればどうでもいいしな」
 銃を握って、ヴィクターに向ける。
 だが。
「違いますね」
 と答えられて、私は少々気が抜けた。
 どういうことだろう。
 何が違うというのだろうか。
「貴方自身、自覚はあるのでしょうし説明は省きますが・・・・・・人間は合理で生きられない生き物です。金銭は重要ですが、それこそを全て、とは元々考えられない生き物なんですよ」
 人間はね、と。
 彼は言った。
「だから、何だ?」
「いえね。貴方は非合理と合理の間で悩んでいるように見えます。なら、いっそどうでしょう? そこにある金銭、2000万ドルを捨ててみる、というのは」
「冗談はよせ。みすみす金を捨てられるか」
「でしょうね。だが、貴方自身分かっているのでしょうが、それそのものには何の意味もありません。価値はあっても、意味はない。結局のところ意味を見いだせなければ、幾ら金銭を持とうが無意味そのものですよ」
 合理的に考えて、必要であっても欲する物には成り得ないですから、と言うのだった。
 大きなお世話だ。
「・・・・・・金が余ってから探すとするさ」
 銃を向けながらそんなことを言った。
「あろうがなかろうが、同じ事ですよ」
「なら、満たしてから見つけるさ」
「見つかりますか?」
「さぁな。だが、例えそれが必要なだけの物だとしても、私は「それこそが全てだ」と言い張るさ・・・・・・人生を楽しむのは、それからだ」
「貴方は、世界が楽しいですか」
 興味深そうに、彼はそんなことを聞くのだった・・・・・・私は少し考えてから、こう答えた。
「金次第さ」

    4

 依頼も終わったし金にもなった。
 だから考える。
 人生の楽しみ方について。
 私は宇宙船の座席シートに座っていた。ホットカフェオレとチョコレートドーナツを頼み、私は席に深々と沈み込む。
 最近金は幸せでは無いと言う噺を聞かされることが嫌に多いが、宗教でもあるのか?
 金のない幸せなど、嘘くさい噺だ。
 金で幸せは買える。少なくともおいしい食事、豊かな生活、それら普遍的な幸福を「金では買えない」などと抜かすなら、それはただ単に金で買えない不幸せを、知らないだけだ。
 金のない苦痛を知らないだけ。そして苦痛を死りもしない人間の言う綺麗事は、ロクなことにはならないものだ。ならなかったところで、彼ら彼女らは高いところから眺めるだけでいいしな。
 責任のない助言ほど、迷惑な物は無い。
 いずれにせよ私は、作家として背負った業を、全うするまでだ・・・・・・必要なのは自認と自覚。
 自分こそは大傑作を書く作家だ。
 そう意識的に自覚し、自認することが肝要だ。自分で自分の作品を卑下している人間が、人々の心を鷲掴み、握りつぶすほどの影響を与えられる作品を、書けるとは思えない。
 思わない。
 とはいえ、これは矛盾する考えでもあるのだ・・・・・・何かについて考えているうちは、その何かを極めたとは言い難い。私もあくまで自信の作品へはポーズとしてそう考えているだけで、実際作家ならどうあるべきか? なんて考えたことは一度もないしな。
 そんなことを考えていては、読者のご機嫌を伺っていては、ロクな作品が書けまい。いや作家に限らずそういうものだろう。
 自覚して自認して、そう振る舞い、しかし深くは考えない。行動の結果として、作家としての結果は、出なければならないからだ。
 出ればいいのだが。
 金に関しても似たようなものか。金があれば幸福である、そう言い張ることで私は自信の在り方を固定しているのだ。無論必要なのは事実だが。 金で買えない物は無い。
 売っていればだが。
 私が欲しいのはあくまでも平穏な生活であり、金に関してはある意味「ついで」なのだが、まぁ深く考える必要もあるまい。私は哲学者ではないのだ。
 コーヒーを飲みながら考える。このコーヒーにしたって金がなければ買えないのだ。金に関しては「無くても良い」なんて戯れ言を聞くつもりは一切無い。
 あるだけでも駄目と言うだけだ。
 目的に添って使わなければ、意味がない。
 当たり前の噺だ。
 そう言う意味では、目的もなく生きる任絵gんたちの多いこと多いこと。社会的な成功を目的としている人間は多いのだが、そもそも社会的な成功というのは自信の生き方、その末に得られる物であって、組織に属して報酬として貰うものではあるまいに。
 洗脳されている。
 幸せのテンプレート、こうであるべきだという考え方に洗脳され、馬車馬のように働き、死ぬ寸前に社会が、他人が、家族が、別に自分の人生の何を保証してくれるわけでもない、ということに気づくのだから、笑えない噺だ。
 人に言われた生き方で幸福になど成れるわけも無いだろうに・・・・・・社会的に成功したところで、目指す物がなければ意味があるまい。
 以外と、有能な人間にこれは多い。
 なまじ中途半端に出来てしまうから、能力的に不足を感じることなく人生を「こなし」てしまうのだ。そのくせ、何か夢があればだとか、このまま組織の中で埋没していいのかだとか、行動はせずに愚痴を言う人間は、多い。
 社会的には立派なのだが、別に社会的に立派だから、だから何だというのだ。自分で自分の生き方に「納得」し、目的を持ってそれを「達成」し「私はやり遂げたのだ」と言うことがないならばただの惰性だ。
 生きるだけならそれでいい。
 だが、決して幸福には、なれまい。
 数が増え、人間は「代わりが効く」ようになってしまった。だからこそ「己の生きる道」を確立するのは難しい。難しいだけでなく、選ぶ人間の数も、随分減った。
 成功しているからと言って、選んでいるわけでもないのだ。偶々能力があった成功者、運と環境だとか、才能の有る無しで、勝者が決まる。
 これでは、上を目指す人間が減るのも当然という気がする。私は最初から狂った人間だったので「自分には無理だ」とか、そんなことは考えずに無理なままやり続け、不可能なまま断行し、出来ないまま長らく続け、出来たところで売れなければ意味がないと考えてきた人間なので、あんな風にはなれないと諦める人間の心情が共感できないが・・・・・・しかし、能力差がありすぎれば、誰だってそう考えるだろう。
 私みたいな人間が多くいても、社会が混乱するだろうしな・・・・・・自分でもやめられないし、やめたくてもやめられないし、生き方と癒着しているからそれこそ諦めることも出来ず、出来るまで、計算を命じられたコンピュータの様に、やり続けるというのも、実際利益がでるのは稀だ。
 無論、世界を買えてきた偉人にはそういう類が多いのも事実だが、成功せずに、つまり日の目を見ずに終わった人間の方が、多いだろう。
 狂人の末路は、大概そうだ。
 成功すれば社会全体を変貌させるくらい影響を持つ奴もいるのだろうが、逆に言えば普通の天才ではその領域には絶対に届かないし、狂人でなければ成し遂げられないのもまた、事実だが、成功して幸福な結末を迎えることが、その分非常に難しいのもまた、事実だ。
 やるせない噺だ。
 才能だけではたどり着けないと言えば聞こえはいいのだが、生き方と密接な、業として背負った人間というのは、認められるのが難しい。
 だからこその異端だが。
 いずれにせよ物語を書くか、読むかしていれば退屈しないで済むのは確かだ。
 精々楽しむさ。
 金の力で・・・・・・そして私なりの楽しみ方でな。 いずれにしろ、人間は己が没頭できる「何か」を成し遂げるために生きるべきだ。私が読者共が絶望し、人を信じられなくなる物語を書くことに対して、私自身はやるべき事とやりたいことを両立させている以上、苦労が無いのだ。
 無いわけではないのだろうが、苦労を苦労と感じない。可能な限りそれが少ない。成し遂げるべき未来を考えられる「目的」だ。
 それが人生を充実させる「コツ」だ。
 無論、金になるに越したことはないがな。金にならなければやりがいがあろうと意味がない。実利ばかり追い求めると人間は破滅するが、実利が無ければ形にならない。
「なぁ、ジャック。聞きたいことがあるんだが」「何だい、先生」
「なぜ私は怖がられるんだろうな?」
 恐怖。
 恐怖というのは大抵、強かったり恐ろしかったり、自信の生命の危機を感じさせる存在に抱くべき物ではないのか?
 私のような、ただの一個人に、恐怖する理由が分からない。私個人の思いこみなら楽なのだが、しかしどうもそうではないらしい。
 不思議なことに。
 私は怖がられるのだった。
「そりゃ、そうさ・・・・・・先生には、なんて言えばいいのか、そう、普通の人間に通じる物が、肩書きが、強さが、仮初めの強さが通じないからだろうさ」
「なんだそれは?」
「たとえば、肩書きだよ。社長とか次長とか、まぁ何でもいいんだが、所謂「普通」の人間はそれらのわかりやすい「強さ」腕っ節でもそうだが、それらに権威や力を感じる。だが先生にはそれがないからだ」
「だから、何だ? 現実に力を持っているのは事実なんだから、問題ないじゃないか」
「いや、違うね・・・・・・会社は潰れるし腕っ節なんて怪我すれば終わりさ。画一的な「強さ」の基準なんて、ないんだよ。当人が強いと思いこんでいるだけ、優れていると思いこんでいるだけで、そんな「強さ」は簡単に剥がれる」
 先生はそれを簡単に剥いじまうから怖いのさ、なんて分かった風なことをジャックは言った。
「ふん、なら強さとは何だ?」
「当人の意志の強さだろうな・・・・・・分かっているくせに俺に聞くなよ。正直理解している人間に、説明するのって面倒だぜ」
「分からないさ。現実にはそういう、例え借り物どころかただ運が良かっただけでも、当人に何の意志も執念もなくても、強い立場は強いだろう」「分からなくもないが、それは立場が強いわけであって当人が強い訳じゃない。そして先生みたいに開き直れる人間はかなり少数派なのさ」
「開き直ればいいだろうに」
「そうもいかないさ。思うに・・・・・・皆、自分に引け目を感じてしまうんじゃないのかな。先生の前だと、そういう立場だとか強さだとか仲間だとかと言った、自分以外の物を無視して「自分だけ」を見られるからな。中身に自信がない奴は、恐怖を感じて当然だろうよ」
「そんなものか」
 良く分からない話だ。
「心がないってことはつまり、心の外側を装飾して、自分の心を綺麗に見せたり、自身の内側の醜い部分を見なかったり「しない」ってことだ」
「それがどうした」
「弱みが存在しない人間の方が、強みはあるが弱みのある人間よりも、強くはなくても恐ろしくはあるものさ。だから、先生を皆、恐れるのさ」
 恐れられたところで、何も出ないが。
 金なら払わないぞ。
 払う義理もないはずだが。
「弱みか、確かに・・・・・・誰を人質にされようが、例えそれが愛とやらを向ける相手でも、あっさり捨てる自信があるな」
 もっとも、それを強さとは言うまい。
 大切な物を持たない人間を、強いとは言わないらしいからな。
「だから怖いのさ・・・・・・先生は何一つ持たないと嘆いているが、裏を返せば「何だって捨てれる」ってことだ。なぁ、おい、これ以上恐ろしい人間がいるか? どんな権威を見せつけようが、どれだけの力の差を見せつけようが、どれだけ奪おうが、まるで等価に捨てられる、人間。そんな相手に対して、何をすれば勝てるのかすら、誰も思いつかないだろうよ」
 個人的には嬉しくもないが・・・・・・まぁ大抵の人間は「捨てられない」ことで悩むらしい。恋人だったり家族だったり、地位だったり名誉だったり権力だったり・・・・・・・・・・・・何かにしがみつくことで自分の精神の平穏を守る人間か、自分の在り方を確立し、その在り方を基準に生きる人間か、ただのそれだけ。違いはそれだけだ。
 どちらが正しいのか、それは知らない。
 正しさなんて人によって変わるものだ。
 だが。
「私からすれば、大した自分もないのに、人の権威や実力で、人生を知った気になる人間の方が、余程恐ろしいがね」
 なんて、盗作から執筆活動を始めた私が言っても、説得力があるのか分からないが。だが、私には確固とした自分がある。
 少なくとも、作品には。
 などと適当なことを言ったが知るものか。どうでも良い噺だ。金の多寡に比べれば。
 心の底からどうでもいい。
 心があるのかは、知らないがね。
 さて、何か機内サービスでも頼もうかと思ったが、私は金があれば幸福だと公言してはいるが、金遣いが荒いわけでもない。そもそも、人間普通に生きていれば山ほど金を使う機会は、かなり少ないだろう。
 珍しい物がいい。
 金を使って絶対に後悔しないのは食べ物だ。何せ腹の中にはいるのだから、良かれ悪しかれ自身の糧になるだろう。
 何を頼もうか。
 私は悩んだあげく、「宇宙弁当」なる奇っ怪な弁当を頼むことにした。要は、駅で売っている名物商品を、宇宙でも売り出しただけだが。
 瓶のような大きい丼に鰻、そぼろ、茹でた牡蠣(腹を壊さないだろうな)が入っており、実に美味しそうではあった。
 美味い。
 ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活のためには、やはりこういう時間こそが肝要だ。ストレスというのは「幸福」の対局に位置することが多いからな・・・・・・無論「張り合い」だとか「やりがい」と言ったモノの元になることはあるが、そうでもない限り不要だろう。
 念のためコーヒーを飲む。殺菌作用があるし、食後に飲むことでしょうかの手助けになる。私はコーヒーを飲み、くつろぐことに

 手

 した。が、まて、何だ今のは?
 女の手だ。
 宇宙船内で私の「貸し切り」だというのに、女の手が一瞬、「外から生えて」いた。宇宙船の事故で死んだ幽霊かと思ったが(幽霊なら切り捨てれば良いだけだしな)そんなわけがない。この宇宙船は製造されて日が経っていないし、だからこそ私は乗ったのだ。
 「カネ」と「女」と「謎」が絡むとロクな事にはならないものだ。そして今はその三つが絡んでいる・・・・・・さて、どうするか。
 私は作家だ。
 戦う者ではない・・・・・・とりあえず、相手が何であろうが「作品」の「ネタ」にしてくれる。
 足下をリニア・モーターのように音を立てず接近し、私の足を掴もうとしてきたので、私はとりあえず椅子の上に避難することにした。
「何だコイツは・・・・・・」
 不気味だ。
 だが、行動パターンからして誰かが操っているのは明白だ。そして窓側から壁をすり抜けて進入してきた女の姿を見て、確信に変わった。
「・・・・・・よぉ」
 とだけ、女は言った。布一枚着ていない姿、引き締まった筋肉、恐らくは工作員の類だろう。
「お前は」
 何のようだ、と聞こうとしたのだが、女は取り合うつもりは無いようだった。
「チップを寄越せ」
 持ってるんだろ? と、柄の悪いチンピラのような態度で凄む。だが、凄まれたところで私には渡す義理は無い。
 問答無用で斬り伏せることにした。
 一太刀目をあっさりかわされたので、様にならなかったが。
「成る程。理屈は分からないが、貴様「幽霊」に「成る」ことが出来るんだな? ああ、いいぞ喋らなくても。私が勝手に調べるから」
 な、と言おうとしたところで私は引きずり込まれた。無論、地面にだ。女は幽体化、とでも言えばいいのだろうか。幽霊に成って地面へ潜り、私の足を右手で掴んだのだ。
「・・・・・・自分以外の物体まで幽体化できるのか」 私の地面は、半径3メートルほどが、底なし沼のようにドロドロに溶けていた。あの女、触れたモノも幽霊に出来るらしい。
 まずいぞ・・・・・・何とかしなければ。このまま幽霊にされたらどうなるんだ? あの世(そんなものがあるのか?)へ行くのか? それともただ消滅するのか・・・・・・どちらにせよ御免だ。
 なので。
「動くな。クレジットチップを破壊するぞ」
 と脅した。
 私は作家であって戦士ではないのだ。戦えば勝つだろうが、無意味に疲れるのは御免だ。だから欲しがっているチップをネタに脅すことにしたというわけだ。無論、破壊する気なんてさらさら無いのだが。
「いいのか? お前が何者かは知らないが、カネが欲しいのだろう?」
「ふざけんな。お前みたいな拝金主義者と一緒にすんじゃねぇ。第一、ここでお前をブチ殺せば済む噺だ」
「それは無理だろうな。私は「サムライ」だ。こと純粋な戦闘で張り合えるのは同じサムライか、ニンジャだけだ。私はお前を殺せるが、しかし何者かも分からないまま始末したところで、また襲われないという保証も無い。だからどうだ? とりあえず会話のテーブルに着くというのは?」
「信用できると思うか?」
「いきなり殺しにかかってきた常識知らずの台詞とは、思えないな。いいか、勘違いしているようだが会話の主導権を握っているのは私だ」
 実際にはそんなことは無いのだが、それこそ会話の主導権を握るための、テクニックみたいなものだ。
 これも一つの話術だろう。
 あるいは、戯れ言か。
「・・・・・・いいぜ、聞いてやるよ。だが、そのカネは必ず、必ず私が貰う」
「何だ。拝金主義者の私と同じではないか。何が買いたいんだ? 権力か? 男か? 地位か名誉か?」
 実際には違うのだろうが。こうやって挑発すれば当然、苛立って何のためかを彼女はあっさり話してくれるだろうという企みだ。
 企みは当たったが、しかしその答えは私にとって、期待はずれもいいところだった。
「妹の為さ」





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