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何度も読み返したい、スキ以上の記事たち。
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記事一覧

とんかつエレジー

とんかつエレジー

家を出る前から、今日の夕飯はあの店で食べると決めていた。

昔、近所に住んでいた頃に、家族3人でたまに通っていたあのとんかつ屋さんのことだ。

東京の有名店ののれん分けのお店だから、味はもちろん間違いないけれど、それ以上にひたすらおいしいとんかつを揚げることに集中しているいかにも職人気質な無口のおやじさんとひとりひとりのお客さんの様子を見ながら本当に必要な時にだけ本当に絶妙なタイミングで声をかけて

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【随筆】たまにね、そうじゃなかった世界線を想像することがあるんだ

【随筆】たまにね、そうじゃなかった世界線を想像することがあるんだ

どえらい久しぶりにnoteに戻ってきた。そしていっとうはじめに目についた記事が、とてもよかった。読んでスキをして、僕も、久しぶりに書こうと思った。バラクーダさん、ありがとう。

それでだ、
たまにね、そうじゃなかった世界線を想像することがあるんだ。という話。

直近で言えば、ランニングと筋トレをしなかった世界線だよ。
たぶん、そっちの世界であれば僕の今はきっと、ぶくぶくと太った豚野郎だったと思う。

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短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

 妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。
 わかっているんだ。家族の誰もが。だけど何も言えやしない。
 傷ついても、恥ずかしくても、怒っても、どうしたって、妹の頭は大きくなって、その成長を止めることは出来ない。

 (一)

 妹は僕の八つ下で、ぼくにとっては目に入れても痛くない存在だった。だけど、そんな例えですら口にするのも憚られるくらい、妹の頭は大きくなっていた。
その始まりはた

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『マッドマックス:フュリオサ』

『マッドマックス:フュリオサ』

貴種流離譚としてMAXな出来。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚であるため前作で登場したキャラクターおよび場所および名称が次々と出てきて楽しく、「これがああ繋がってたのか~」という答え合わせ的な喜びがあります。そしてそれは『怒りのデス・ロード』に対して新たな視点、新たな読み方を与えるという行為でもあり、その点で『ゴッドファーザーPartⅡ』が行っていることと近い。楽園から出ることを余儀

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エッセイ | 作品は投稿した瞬間に自分だけのものではなくなる。

エッセイ | 作品は投稿した瞬間に自分だけのものではなくなる。

 もう2年近く前のことになるが、「#作者がコントロールできること・できないこと」という記事を書いたことがある。

 なかなか作者が思ったとおりには作品は読まれることがない。もっと作者の作品に込めた思いに耳を傾けたらどうだろう?、という気持ちで書いた。

 だが、どんな作品であっても、それが古典的な地位を占めるような作品であればあるほど、誤読というか、換骨奪胎したような解釈をされるのはやむを得ないの

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【読書コラム】自分より本や映画に詳しい人を見ると自信をなくしてしまうけど - 『さがしもの』角田光代(著)

【読書コラム】自分より本や映画に詳しい人を見ると自信をなくしてしまうけど - 『さがしもの』角田光代(著)

 うっかり本を借りてしまった。積読が何百冊もあるというのにやってしまった。

 案の定、

「ありがとうございます! 読みます!」

 と、答えて半年近く経ってしまった。1ページも開くことなく。

 読書談義で盛り上がるとこういうことになりやすい。わたしは素直に面白そうと言ってしまうから、好意で、

「よかったら貸してあげるよ」

 と、言ってもらいやすい。そして、つい、感謝の言葉を述べている。

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レタスを食べなさい

レタスを食べなさい

あれは30手前の、
恋に悩んでいた頃のお話。

当時の私は
やたらめったら仕事が忙しく、
彼氏からも放置されており、
「結婚」というものについて焦りと憧れと諦めの気持ちの中でモヤモヤしていた。
このまま仕事だけ頑張って、
恋愛ごとを忘れることができたらどんなに楽か。

わりと切実に悩んでいたところに、
同僚から
「よく当たる占い師がいるらしい」と情報が入った。
恋愛や仕事の悩みをかかえている時の占

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【読書コラム】とどのつまり、文体ってなんなのだ?! プロとアマチュア、男と女、人気のあるなし。その差はいったいどこにある? - 『数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで』ベン・ブラット(著),坪野圭介(訳)

【読書コラム】とどのつまり、文体ってなんなのだ?! プロとアマチュア、男と女、人気のあるなし。その差はいったいどこにある? - 『数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで』ベン・ブラット(著),坪野圭介(訳)

 高校生の頃、幸運にも、大江健三郎さんとお話しする機会を得た。最初、有名な小説家ということで、

「大江先生」

 と、お声かけしたのだが、「先生はやめてくれ」と言われたことが印象的だった。

「大江さんと呼んでください」

 当時、大江さんの初期作品にわたしはハマっていたので、どうしてこんな現実離れした設定を書くことができたのか、いろいろ質問させて頂いた。「そんなむかしの話を聞かれても」と言いつ

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Fマニアクス

Fマニアクス

F先生といったらそりゃもちろん藤子・F・不二雄先生のことである。まあ呼び方については「藤子先生」とか「藤本先生」とかケースバイケースで言いかえているのだけど、私にとって「先生」といったらこの人のことなのだ。なんでか藤子先生には先生って付けたくなるんだよな。手塚治虫も萩尾望都も鳥山明も三浦建太郎も伊藤潤二も「先生」とは付けずに呼んでいるのだけどこの方に関しては先生と付けて呼びたくなる。不思議。すこし

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『ファイト・クラブ』から出された宿題

『ファイト・クラブ』から出された宿題

「ファイト・クラブ」のルールその1にも2にも、語ってはいけないとあるが。今回は、『ファイト・クラブ』について語る。

この映画を観て、「過剰な男らしさ」に眉をひそめる人も……男女問わず……、少なくないだろう。

しかし、この作品のコア・メッセージは、「男はいつでも好きに攻撃性を発揮していい」といった類のものではない。

では、『ファイト・クラブ』のメイン・テーマとは何なのか。彼ら(ジャックとタイラ

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【ショートショート】事故物件ですよね? (2,573文字)

【ショートショート】事故物件ですよね? (2,573文字)

 その日、化粧品が届く予定になっていたから、ピンポーンの音に警戒ゼロでわたしは扉を開けてしまった。当然、佐川の青い制服を着た人が立っていると思ったら、山伏みたいな格好をしたおじさんがそこにいたので戸惑った。

「遅くなってすみません。こちらがご連絡頂いた事故物件ですよね?」

 もちろん、そんな連絡はしていない。ただ、違いますと答えるには度肝を抜かれ過ぎていたし、山伏が問答無用で室内へ入ろうとする

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サイトマップ | 青い豆の世界より

サイトマップ | 青い豆の世界より

はじめまして。
(いつも仲良くしてくださる皆さま、こんにちは💞)

青豆ノノです。

2023年3月に創作を始めたことをきっかけに、発表の場を求めて翌月4月にnoteを始めました。
主に短編小説、ショートショート、日記、エッセイ、20字小説を書きます。

この度、はじめての方にも作品に触れていただきやすいように、サイトマップを作りました。一部ですが、ぜひご覧下さい。

内容は随時更新していきます

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短編小説/濡れ鼠

短編小説/濡れ鼠

 南口のバスターミナルで、名古屋行きの夜行バスを待っている。不運なことに傘はない。急に降り出した大粒の雨を五分ほど浴びた後、びしょ濡れの体でバスに乗り込んだ。
「寒いですね」
 と隣の席の女性に声をかけられる。雨で濡れた髪をタオルで拭きながら、「雨が降るとは思いませんでした」とため息と共にその人はいう。
「そうですね、予報では晴れだったと思います」
 そう言って、僕も長く息を吐く。
「実は今日、彼

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童話/動物たちの夜

童話/動物たちの夜

 夜空に輝く星たちは、自分がいままでに食べた動物たちの目らしいです。
 自分がどれだけの動物を食べたのか、もう数えきれないほど食べています。
 昨日も食べました。
 あの右のほうに二つならんでいる星が、昨日食べた鶏の目かもしれません。そう思うと、肉髭をふるわせながら、朝を告げるその姿さえ夜空に浮かんできます。
 わたしの左手に鼻先を押しつけるようにして、この地球上でもっとも愛すべき犬種であるジャマ

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