カルフォニ村

頭でまとめきれない小説の種みたいものを書けたら。2022年からはじめて、少しずつですが…

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頭でまとめきれない小説の種みたいものを書けたら。2022年からはじめて、少しずつですが、作品を読んだりしています。2024年になりました。今年もよろしくお願いします♪

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  • 短編/掌編小説

    短編/掌編小説のまとめ

  • N市の記憶。もしくはその断片。

    note創作大賞2023 ミステリー小説部門 応募小説まとめ

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つれづれ/汐喰シーサイドホテル

 昨年12月29日に投稿した「汐喰シーサイドホテル517号室」は、フォローさせて頂いている豆島さん、市子さんと書かせて頂きました。同じ設定を共有し、それぞれがそれぞれの物語を書くスタイルです。連続した話ではないので、どの部屋から読んで頂いても問題ありません。お時間があるときに「どんな感じ?」と覗いて頂けたら幸いです。  ホラーです。残虐表現あります(注意!)  あとがきも少し。  私がホラーテイストにしたのは、物語の舞台がホテルに決まったからでした。そうです、気分はシャイ

    • 短編小説/夜行バスに乗って

       帳面町には古いしきたりがあって、四人の童貞が神事を務めなくてはならない。巫男と呼ばれている。巫男に選ばれた男は死ぬまで童貞を守らなければならない。巫男の一人だった武田冨福さんが八三歳で逝去されたのは、暖冬のまま終わると思われた冬が急に底冷えしはじめた二月の終わりのことだった。  四人ということに意味があって、三人では駄目なのだろう。諜報員の眼をした自治会の人が見廻りをしている。心の奥を見透かすような笑みを浮かべて、「今日は雨ですね」と声をかけてくる。彼は黒い雨合羽を着ていて

      • 短編小説/幽霊屋さん

         窓ガラスには河瀬の顔が映っていた。  半透明になった彼女の顔の向こうに、アスファルトの道路が見える。午前中から降りはじめた雨は深夜になっても降り止まず、天気予報を見ると来週まで雨だった。  雨に濡れたアスファルトは、その表面を水の膜に覆われて、生物めいた光沢を放っていた。アパートの前には都市高速が走っており、高架下の中央分離帯には金網に囲まれた空き地が見える。何もない場所を街灯の光が照らしている。  視線をやや上にすれば、都市高速の街灯も見えた。あれは道路を照らすために設置

        • 小説/汐喰シーサイドホテル517号室

           歳を重ねるにつれて、夢と現実の距離が近くなった。目覚めながら夢を見ている。夢を見ながら目覚めている。ホテルの窓から見えるのは、白い空と灰色の海だった。  涸れたプールの向こうにある砂浜を、ホテルの宿泊客と思われる家族が歩いている。痩せた母親とせむし男。その後ろを歩く二人の男の子は合成獣で、顔は人間なのだが、その体は蜘蛛だった。  男の子たちは八本の節足を動かし、大きく膨らんだお腹を引きずって歩いていた。私は覚醒した頭の半分で、それが嘘だということもわかっていた。その正体は極

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        つれづれ/汐喰シーサイドホテル

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          短編小説/イハリ、イハリ、イハリ

           その国には、王様もおらず、指導者もいなかった。所有という概念もなく、通貨もなく、国境も存在しなかった。人々はコカの葉に漬けた林檎を主食とし、眠りたいときに眠り、目覚めたいときに目覚め、喋りたいときに喋った。人々は幸せだった。しかし、わずか三日で崩壊したため、だれも知らない。  イハリ、イハリ、イハリ。  プラスチック製の白いガーデンチェアだ。  肘掛けがあって、放射状にデザインされた背もたれには、大胆な肉抜きが施されている。もっと詳しく知りたければ、ホームセンターのネットサ

          短編小説/イハリ、イハリ、イハリ

          つれづれ/キリンジ弾き語りライブ

           キリンジの弾き語りライブのため、Y県Y市に来ています。  と書きはじめたのは昨日の朝で、そのときにはまだホテルの部屋にいて、書いたのはその一文だけでした。デラックスルームになります、と受付で言われて、どんな部屋かと思いましたが、普通の部屋でした。〈喫煙可〉だったせいか、カラオケボックスの臭いがします。窓の外には空中庭園があります。不気味な風景です。  話を少し戻して、Y市に向かう電車のなかです。連休ということもあって、人が混んでいます。ぽっかりと空いている席があり、なにも

          つれづれ/キリンジ弾き語りライブ

          童話/動物たちの夜

           夜空に輝く星たちは、自分がいままでに食べた動物たちの目らしいです。  自分がどれだけの動物を食べたのか、もう数えきれないほど食べています。  昨日も食べました。  あの右のほうに二つならんでいる星が、昨日食べた鶏の目かもしれません。そう思うと、肉髭をふるわせながら、朝を告げるその姿さえ夜空に浮かんできます。  わたしの左手に鼻先を押しつけるようにして、この地球上でもっとも愛すべき犬種であるジャマイカン・ハスキーが歩いています。わたしの左手は彼女のよだれで濡れていますが、彼女

          童話/動物たちの夜

          掌編小説/読書前夜

           読む時間よりも、本を探している時間を愛している。  駅ビルの六階に入っている本屋の文庫コーナーには、ほとんど誰もいない。いたとしても、新潮に一人、河出文庫に一人、ハヤカワのSFや海外ミステリーの棚に一人。  彼は平積みになっている文庫の表紙を眺めながら、文庫コーナーを一周する。平積みになっているのは、新刊や人気作家の小説やエッセイ。  この本屋には毎週来ているので、その景色が大きく変わるわけではない。恩田陸は恩田陸の場所に、先週から変わらず同じ場所にある。フェアが終われば、

          掌編小説/読書前夜

          映画感想/アステロイド•シティ

           午後七時からのウェス•アンダーソン監督『アステロイド•シティ』を鑑賞する。なぜ感想文を書こうと思ったのか問われれば、観終わった後からモヤモヤしているからだ。  設定はおもしろい。アステロイドシティという架空の町を舞台にした芝居をしているその舞台裏を映すテレビのドキュメンタリー番組で、嘘が何層にも積み重なって、観客は映画という虚構を観ながら、スクリーンに映し出されるテレビ番組を通して展開するアステロイドシティという芝居を観ることになる。 (説明が難しい。映画を観た本人でさえ何

          映画感想/アステロイド•シティ

          掌編小説/裸族

           私は裸族である。  四十二歳、妻子あり。  家では隠れ裸族である。風呂あがりに上半身裸でうちわを扇いでいるだけで、妻には露骨にいやな顔をされる。娘はこれみよがしに嗚咽し、頼むから消えてくれと懇願してくる。家には解放できる場所がない。  会社の都合で出張が多い。月曜から金曜まで出張で、土日を家で過ごし、また月曜の朝から出張に行くケースも少なくない。目的地は本社のある大阪で、そんなに出張があるなら引越したほうがよさそうだが、繁忙期を過ぎると本社に行く必要がなくなるので、こう

          掌編小説/裸族

          短編小説/ショッピングモール

           目を覚ましたとき、雨はまだ降っていなかった。  身支度を整えてマンションを出たとき、腕に水滴があたったような気がして、ショッピングモールに到着したときには、どしゃ降りの雨になっていた。  屋外の平面駐車場に車を停めて、しばらくフロントガラス越しの雨を眺めていた。ショッピングモールの壁に取り付けられた衣料品ブランドの看板が輪郭を失って滲んでいる。黄色い雨合羽を着た子どもが車の前を駆けていく。ワイパーが雨模様の景色を右へ左へ掻き乱す。  ショッピングモールに到着したときには、す

          短編小説/ショッピングモール

          感想/君たちはどう生きるか

           物語は、戦時中、空襲にて母親が亡くなるシーンから。母親がどんな人だったのかの説明は無し。それでも主人公の眞人が入院している母親の元に駆けつけようとするシーンだけで、母子の関係、少なくとも眞人の母親に対する想いがわかる。  印象的なのは、炎の描写。  今回のテーマは〈火〉かな、と思う。というのは、以前に〈風立ちぬ〉のときだったと思うが、宮崎駿は〈風〉を描いているときは調子が良く、健康的で希望がある物語を描くが、〈もののけ姫〉以降の〈水〉を描いている作品——彼にとっての〈水〉と

          感想/君たちはどう生きるか

          掌編小説/桃を壊す

           この人、わかってる。  一つだけ傷んだ桃のことだ。  近所のスーパーマーケットは、歩いて五分、自転車で二分。集会所の前を少し早足で駆けぬけて、レンタル家庭菜園みたいな横を通って、コンビニを一つ歩き過ぎたところにある。今年できたばかりのスーパーマーケットだ。広い駐車場があり、クリーニング店と散髪屋が併設している。  日に一回は必ず行くようにしている。午前中と夕方、日に二回行くこともある。暇だからだ。  桃は、そのスーパーマーケットの自動ドアが開いてすぐの棚に陳列されている。

          掌編小説/桃を壊す

          掌編小説/風葬都市ガイドマップ

           街の名前は知らない。  知っているのは、何百年前に滅んだ街というだけ。  入口には錆びた看板があり、かろうじて〈…隊を希望され……〉の文字が判読できる。しかし、仮に文字が判読できたとしても、読む人がいなくなった現在となっては、わずかにできた日陰にしか価値がない。  風に含まれた砂が金属板にぶつかり、絶えずかすかな音をたてている。  見渡すかぎりの砂の色。アスファルトも、コンクリートも、砂の色。  一面の砂の色にあって魚の鱗のように輝いているのは、溶けたプラスチックの塊である

          掌編小説/風葬都市ガイドマップ

          小説/N市の記憶。もしくはその断片。#end 六月六日 #2

          「ろ、六月六日にUFOが?!」 「そうです。六月六日にUFOです」  私はいわゆるムー信者ではない。未確認飛行物体を目撃したこともないし、宇宙人に遭遇したこともない。それでも〈古代の宇宙人〉を楽しめるだけのユーモアは持ち合わせているつもりだ。 「おそらく、黄魂山に眠っているのはUFOです。現在の言葉でいうUAP(未確認空中現象)ではなく、UFO(未確認飛行物体)そのものです」  富井教授が言うには、ある時代にUFOが不時着した。縄文、弥生の時代からUFOが目撃され、神聖な場所

          小説/N市の記憶。もしくはその断片。#end 六月六日 #2

          小説/N市の記憶。もしくはその断片。#25 六月六日 #1

           戸塚絢という生贄を拒否したが、私が知るかぎり何も起こらなかった。  N市で地震が起こったとか、電車の脱線事故があったとか、そういうこともない。新しい殺人事件もいまのところ起きていない。  訂正。  この世界上から殺人事件はなくならない。事実、N市でも殺人事件は発生している。痴情のもつれ、介護疲れ、悪質な交通事故——殺人事件が起きていないというのは、黄魂山との関連性がないという意味で、呪いや祟りがなくても、人間は殺人を犯す。  私の体調は戻りつつある。薬で治すことは諦めて、

          小説/N市の記憶。もしくはその断片。#25 六月六日 #1