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つれづれ/キリンジ弾き語りライブ
キリンジの弾き語りライブのため、Y県Y市に来ています。
と書きはじめたのは昨日の朝で、そのときにはまだホテルの部屋にいて、書いたのはその一文だけでした。デラックスルームになります、と受付で言われて、どんな部屋かと思いましたが、普通の部屋でした。〈喫煙可〉だったせいか、カラオケボックスの臭いがします。窓の外には空中庭園があります。不気味な風景です。
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話を少し戻して、Y市に向かう電車のなかです。連休ということもあって、人が混んでいます。ぽっかりと空いている席があり、なにも考えずに座りました。空いていた理由はすぐにわかりました。四人がけの座席のはじに白髪のおじさんが座っていて、おじさんの前にはたくさんの紙袋が置かれています。紙袋の中身はどうやらゴミのようです。少し臭います。
いや、おじさんにとってはゴミではないのでしょう。私は〈ゴミと旅する男〉という小説を考えます。思い浮かんだのは、漠然としたイメージだけです。おじさんがあれだけの紙袋をどうやって運んでいるのか確認しようと思ったのですが、眠っているうちにいなくなっていました。たくさんの紙袋も一緒に消えていました。
世界遺産の島に渡る駅で、観光客のほとんどが降りていきました。空席だらけになったので、私たちは好きな席に移動します。Y市までは三時間の道のりです。ローカル線の旅を選択したので、風景に緊張感がありません。学生さんやおじいちゃんやおばあちゃんが乗ってきます。
「私たちがアンドロイドということに、だれも気づいてませんな」
妻に小声で言います。退屈しはじめたときの私の悪い癖です。
「明日には征服されるというのに、えへへへ」
妻はあいかわらずノリがいいです。
Y駅に到着し、駅前の道を歩きはじめましたが、なにもありません。ローソンさんが設置してくれている灰皿でタバコ休憩しながら「こんな駅前ってある?」と私は言います。
「ここにあるがな」と妻が答えます。
(※少し歩いていくと商店街ありました)
途中、兄弟堂というお店で、ういろうとロシアンケーキを買いました。通常とミニがありましたが、「味はどれも同じ」と店番のおばあちゃんが教えてくれました。ういろうとロシアンケーキは、夜のデザートとして美味しくいただきました。
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というわけで、キリンジの弾き語りライブです。
弾き語りライブとして全国をまわっていますが、通常のライブハウスではなく、寺などで演奏しています。堀込高樹氏は、日本に結界を張ろうとしているのかもしれません。Y市の会場は寺ではなく、旧県会議事堂という場所です。
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午後六時、堀込高樹氏が照れくさそうに登場します。照明が暗くなって、雰囲気が増します。第一声は覚えていません。「拍手が気持ちいいですね」だったかもしれません。
曲がはじまると、そこは異次元の小宇宙です。
弾き語りというと、ちょっと長閑な牧歌的なイメージもありますが、キリンジの曲はドラマチックなので、なんだか不思議な感じです。レコードではさまざまな音色を積み重ねている印象なので、弾き語りになると、どうなるのだろうと思っていましたが、シンプルに声とギターだけになっても、かなりよかったです。バンド編成のときよりも歌詞が明確に伝わってきて、キリンジの曲でありながら、また違う世界観でした。
No fate 真夜中の海
引きずり込まれそう
月の光でも虹は架かるという
手繰りよせ まとえば
君なら夜を越えるよ
と歌詞を抜粋させていただきましたが、テキスト情報では魅力が伝わりづらいですね。この曲のとき、となりに座っている女の人が、ぐじゅん、ぐじゅんと鼻を啜りはじめ、「鼻炎かな?」と思ったのですが、そんなはずもなく、私としても、この曲がいちばん印象に残りました。
休憩時間があって、もしかしたら質問コーナーがあるかもしれない、と思い、私は質問を考えはじめました。
昔の曲をやりたくないと思うとき、それは音楽的な面ではなく、歌詞によるものが多いですか?
私は岡村靖幸も好きなのですが、たぶんステップアップという曲のなかで「こんなになった僕が言うんだ、信用しようよ」という歌詞があって、するする!という気持ちなのですが、同じように、キャリアを重ねて説得力が増したという曲はありますか?
質問コーナーはありませんでした。
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ライブが終わると、私は旧県会議事堂のまわりを散策しました(妻はグッズを購入し、堀込高樹氏のサイン会があるというので会場に残った)。
旧県会議事堂のまわりにはお堀があって、黒い水面を眺めながら、あてもなく歩いていると、短い橋の上に青年が立っていました。暗がりではっきりとは見えなかったのですが、学生服?上は白シャツ?の青年だったと思います。青年は食パンみたいなものを千切ってはお堀に投げ入れていました。鯉に餌をやっていたのかもしれません。しかしそれが毎回、全力の投げ方なので狂気です。
「こ、怖」と思って引き返しました。
翌日は予定を決めてなかったのですが、Y情報芸術センターというところに行きました。大友良英氏の『Without records』という展示を観るためだったのですが、会場が変わっていて(商店街の方でやっていたらしい)、エレベーターの前にぽつんと展示があるだけでした。
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その後は、ずっと電車に乗っていました。妻がロンギヌスの槍を見たいというので、U駅に向かいました。しかしロンギヌスの槍が刺さっているのは、U市のときわ公園というところで、ぜんぜん場所がちがいました。
電車に乗っているうちに日が暮れてきました。
「これはあれやね、もうダメかもしれんね」
「そうやね、諦めよう」
というわけで、そのまま帰宅の途につきます。またしてもローカル線三時間の移動です。その間に、私のお尻はずいぶんみすぼらしくなりました。
(おわり)
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