#短編小説
掌編小説 | 梅の花 | シロクマ文芸部
梅の花がいいと言ったら、渋いねと言った。その女は、オフショルダーのカットソーを着ていた。肌には、背中から肩へ這い上がってきたような格好のヘビが彫られている。悪戯な表情のヘビは、もう少しで彼女の鎖骨を丸呑みしそうだ。
「テスって呼んで。ヘビじゃなくて、アタシのこと」そう言って笑った。外人の男の子のような顔。色白で、後ろを刈り上げた金髪のショートヘアがよく似合う。
テスに、わたしはタトゥー入れそ
短編小説 | いつまでもあなたを | カバー小説
一冊の本を埋めた。誰からの便りも途絶え、使われなくなった、古びたポストの横だ。
365日書き続け、真っ白だった本のページが全て私の字で埋め尽くされた今日、一冊の本を埋めるには大きすぎるくらいの穴を掘って、私はそこに、本を埋めたのだ。
本を埋めた日から、私は毎日水やりをした。
本であろうが、なにであろうが、土に埋めたものには水をやる。そうすることは、私の気を紛らわせるから。
「もしかして、本当に埋
短編小説 | 黒の代償
いつもの朝だ。いつもの私だ。大丈夫。
いつものキッチンに立ち、鼻の奥から何度も生まれてくるあくびを、何度でも噛み殺す。
狭い我が家のキッチンにはガラス扉の食器棚がある。その前で立ち止まり、扉に映った自分の姿に目を凝らす。今日の私に、どこか変わったところの一つでもないだろうかと、ガラスに顔が付きそうなくらいに近づいて自分を凝視していた。ちょうどその時、リビングに夫が入ってきた。
起きがけにコッ
Happy birthday。
幼なじみの香月は優しい子だった。
そして、頭の良い子だった。
故に変わってしまった。
高校に入ってからの香月の口癖は『生きてる事に意味あるのかな?』になった。
憂うべき時代。
憂うべき環境。
人の罪悪が蔓延る世界を憂い、自分を否定する様になった。
香月誕生日前日。
「なぁ、香月」
『なに?』
「明日誕生日だろ?」
『そうみたいね』
「また他人事みたいにさぁ……」
『誕生日が来る度に思うわ