マガジンのカバー画像

変態病院

19
変態大集合のバラエティパック。 #変態病院
運営しているクリエイター

記事一覧

sense

sense

私は、1人のnurseの生態を、
ここ一年ずっと観察している。

依田さんだ。
依田さんは某大学病院のER出身の
エリートナースである。

あ、振り返った。
誰もいない廊下で、
時々彼女は悲しい顔をして
振り返ることがある。

時々、立ち止まり、
遠くから人を眺めていることがある。

人のことは言えないが、
彼女の挙動は、おかしい。

私は、物陰から彼女の挙動を窺っている。
時々話している内容に違

もっとみる
可能性を感じたい

可能性を感じたい

夜勤の仮眠時間は、日によってまちまちで、緊急入院が立て続けに入る時や、急変患者の対応、ナースコールの対応で、ほぼ16時間休みが取れないことが稀にある。

そんな時は、ナースステーションのありったけの椅子を並べてとりあえず足を上げ、一瞬だけ堕ちる、というスタイルを選択する。

次のナースコールがなるまで…
緊急オペのお迎えに行くまで…
救急車が到着するまで…

どんなにアドレナリンが出ていても、

もっとみる
あなたは、誰ですか。

あなたは、誰ですか。

生きていて、不便だなぁと思うことがある。
「初めまして」
と自己紹介されても100%顔と名前が
覚えられないこと。

車を運転していて、
助手席の人に「そこ右」と
言われると左に行っちゃうこと。

じゃんけんの一発目は、
必ずチョキを出してしまうこと。

エスカレーターを降りる時にうまくタイミングが合わず、結構な序盤から前屈みになって、降りるタイミングを測っていること。

と言っても、この中で特に

もっとみる
プロローグ

プロローグ

「物語は、いつからでも、始められる。
それが、人生でしょ?」

私が大好きな患者様の言葉だ。
私は、夜が朝に変わる、
曖昧な時間の空が大好きだ。

5時半。
夜勤明けの朝、
私は外のゴミ捨て場までゴミを捨てにいく。
看護師の仕事ではない。

だだ、私が外に空と外気に触れに行くことを
数人のスタッフは知っている。

そっと、廊下にある捨てやすいゴミ
を持って
私はゴミ捨てに行ってきまーすと声をかけ、

もっとみる
モスキートの夜

モスキートの夜

世界中の雨を凝縮したような台風の影響は、
各地に広がっていた。

カーテンを開けながら、
個室で入院されている吉井さんに話しかける。

「今夜はひどい雨ですね」

ベッドの上で横になっている
吉井さんは、話さない。

吉井さんは、
話せない訳ではないし、
動けない訳でもない。

ただ、だんだんと病気も進行して、
体力も衰え、
一日中ほぼ、傾眠状態だ。

私は話しかけ続ける。
「録画の野球、つけてお

もっとみる
爆弾持ってるから無理

爆弾持ってるから無理

モスキートeriは時々テロリストになる。

度々お話しているが、
M.eriはすこぶる、
うんこに弱い。

今から私がお話するのは、
職員用トイレに向かうという、
至ってシンプルな出来事である。

「く と う て ん」

私は、年に数回「くとうてん」と、
病院コメディカルにご指摘を受ける。

「あ、eri、リハビリ入りたいんだけど、酸素ボンベ空っぽだよ、入れ替えないとリハ室いけないよ!」理学療法

もっとみる
オブラート

オブラート

小児科で働いていた時、
抗生剤が飲めない子供に対して、
アイスクリームに混ぜて服用する方法を付添入院する保護者に指導していた。

クラリスロマイシンという、
顆粒の抗生物質は、
表面はバナナのような甘さはあるものの、
口に含んで、溶け出すと、
強烈な苦味が口に広がってしまう。

点滴と、内服。

この2つの医療行為は、
体力のない子供たちにとって肝になる。

当時総合病院で勤めていた私は、
売店で

もっとみる
おしっこ係

おしっこ係

前回職員健康診断の話をしたが、
その続編である。

数ヶ月後、
再びまた健康診断の季節はやってきた

当時、私は地域の中枢を担う二次救急の総合病院の看護師として勤めていた。
職員数もゆうに1000人を超える。

私は前回の反省から、
ゆとりを持ち、前もって健康診断を受けていた。
今年度より、健診車は廃止され、
院内での職員健康診断をすることに
取り決めは代わり、
職員は普段の仕事と、
健診業務に従

もっとみる
男とか、女とか、性とか。

男とか、女とか、性とか。

「eriはさぁ、男と、女どっちが好き?」

 川縁の音が心地よい。私達は、カンパイ、と、缶をコツンとあてた。カラカラの喉に甘いお酒が流れていく。

「男でも、女でもどっちでもいいけど、その人の色気みたいなものには弱いかもしれない。実際は男としか付き合ってこなかったから、性の対象は男なんだと思う」

 関谷は、私の二つ年下の言語聴覚士の資格を持つ男の子だった。仕事帰り、私達は、時々こうして缶チューハ

もっとみる
優しさを抱く。

優しさを抱く。

 人が死ぬ直前、もしくは、死にそうになっている場面に私はよく居合わせる。

みかんを喉に詰まらせ、顔面蒼白で咳き込むおばちゃん。
ラーメン屋で、低血糖でぶっ倒れているおっさん。
 田んぼの中で自転車ごと突っ込んでいて、顔面を水に浸す爺様。

 私は、ピンポイントで居合わせる、
間が悪い人間だ。

 このお三方は事なきを得ているのだが、回復した際には、ありがとーー!!っと、皆、爆笑していた。チャンチ

もっとみる
情が、湧くよね?

情が、湧くよね?

「最近さぁ、ミンミンゼミがいないんだよねぇ」

   ーーー へぇ。

「やっぱり、ミンミンゼミ減ったよねぇ?」
 ある男は、首を傾げている。

 月初、夏本番、セミが少ないという。

 翌日、別の男は言う。 
「ねぇ、最近、ミンミンゼミいないらしいよ。」

 ーーーほぉ。確かに最近、ミンミンしてないかもしれない。

「ミンミンしてない自覚、あった?」

 ミンミンしてない自覚は、ない。
 ミンミ

もっとみる
むしろ裸でいい。

むしろ裸でいい。

うっかりと、
職員健康診断の日を
忘れてすっぽかしたことがある。

夜勤に従事する医療職は、
年2回の健康診断を義務付ける法律がある。

悪意はない。忘れていたのだ。
気づいた頃にはもう時は既に夕方で、
病院本部からくる、健診センター用の車両はとっくに帰路についている。
今更慌てた所で仕方がない。

あ、どうしよう!

と慌てたい気持ちも山々であるが、
そんな映像を見せる義理もない。
休みの日にわ

もっとみる
トウガントラップ

トウガントラップ

先日私は、大根と、
三角の小さなはんぺんを3枚食べようとしていた。

夜勤時間が15時間目に差し掛かる頃、
検食が用意される。

腹が鳴る。
心が跳ねる。
廊下で時々小躍りする。

なんてったって、今日は大根だ。
私は大根を心底愛している。

検食前の私は、
スーパーナースに変貌を遂げる。

急変?まかせろ。
点滴漏れ?ルート確保。
なんの薬を飲んでいる?錠剤見れば一発さ。
クレーム?全て鎮めよう

もっとみる
肛門が嫌なんです。

肛門が嫌なんです。

「肛門が嫌なんです」

 お綺麗な先輩ナースは言った。
 以前働いていた病院での話だ。

「どうしても、肛門が嫌なんです」

「元気なおしゃべり人間の肛門を見るのがどうしても嫌なんです」

「私は、弛緩している肛門は許せます、まだ締まりのある肛門は、嫌なんです。」

 悲痛な叫びである。
 ちなみに私は、これを毎回聞かされる。

 彼女は必死だ。
「お元気な肛門は嫌なんです。」

 話を順を追って

もっとみる