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良米ダンス

「ヨマイです。よろしく」
「ヨマイ…?」
「良いお米で『良米』です」
 
私はお米しか食べない生活を送っている。脚気避けに飲み物は野菜ジュース、栄養の摂取は基本この二つで賄う。悲愴に満ちた食生活だが、私はこの飢餓を前向きに堪能している。空腹の景色は思いの外彩りに満ちている。そして飢えた身体は私の意思に関係なく、常に何かを求めている。希求する身体、踊り手としては理想的だ。だから、今はこれでいい。
 
毎日どこかしらで舞っていると、注目も上がるらしい。SNSに出回った動画が集客に影響した。次第に私は街で舞うのが困難になって来た。人が集まりやすいということは、警察も集まりやすいということだ。ゲリラスタイルを続けるには限界がある…これは死活問題だった。
 
私はSNSを始め逆に知名度を上げることで固定客を掴み、時に小屋を借りて舞う事にした。金額の増減が大きくなったが、生活の様式に変わりはない。人と関わることが多くはなった。宵越しの銭を減らすのに、日々食べるお米の質もグレードアップした。余ったお米はさらし布に包んで枕にする。その枕の寝心地は存外に良い。私の舞が、私に日々の食事と安眠を齎してくれる。
 
孤独と飢餓の中の細やかな幸福は一際にあたたかみを感じる。一人の舞踏家の米穀菜蔬孤独な循環生活。

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