今日も今日とて私を生きる(短編連作)#01「絶望の11番」

茉紀の手からひったくった5センチ四方の紙片をぐしゃっと握りつぶす。目を見開き口をあんぐりさせた親友を前に、萌は頭の中でつぶやいた。

 あー、もう人生終わった。
 

 机を移動させる音がぴたりとやみ、クラス中の視線がふたりに向けられる。教室を満たしていた笑い声はしゅるしゅると小さくなった。

 あーあ、ここまでうまくやってきたのに。
 あと1年と4か月だったのに。

 「もうこんなことやめようよ

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ありがとうございます!あなたにいいことありますように!
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終着点は、出発点である

高校の卒業式、高橋は語る。
 
「香川…実は、隠してたことがあるんだけど」
「なに?」
「私、彼氏いるんだ」
 
まじかぁ、『ブタゴリラ』があだ名の高橋に彼氏か…結構衝撃だった。
 
「誰?私の知ってる人?」
「あの、ほら。『残響六ロール君』彼」
「まじかぁ」
 
その変な名前の彼は以前昼休みの校内放送にいきがった手紙とハードロックな選曲を送り、放送部内で話題になった年下の根暗少年だった。高橋が後

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内海くん

二年の片思いは長いのか?調べてみたら割と普通らしい。
 
私の普通の片思いは普通に潰えたのかというと、存外普通じゃない気もする。これから綴るのは掌編の記憶の記録の恋話譚。
 
遡ること青き日々、恋も華やぐ女学生たるワタシは一人の男子学生に恋をした。ブルーエポックのハムレット、名前は『内海くん』私と同い年である。孤独を好み知己に富む、健全な青少年とは一線を画する剣呑な思想家、神童・内海くん…それが私

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世界の果てまでさようなら

『唐突だが、僕は今日を持って筆を置く。君に限ってじゃない、何にたいしてもだ。僕はこの手紙を最後に二度と、この指先から、言葉を綴らない。ここに宣言する。
 
僕達は餌食という名の生を襲名し、逃げ場の無い薄氷の上で滑稽に踊り続けている。酢漬けの心臓、捕食者の保存食として。香川さん、僕はそれでも、人間は満足してると思うんだ。何故なら僕たちは『空腹という概念』を教えられてはいないから。
 
規範とは人間の

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3・春「マカロンな彼と桜色のあたし」

テレビのニュースによれば、景気はやんわりと回復傾向にあるそうだ。
それは何処か違う世界の人の話で、中堅未満のあたしにとって就活の向かい風は、予想以上に冷たく厳しいもので。

あなたの長所は
あなたの課題は
あなたが感銘を受けた本は
あなたを雇用する当社のメリットは

今回もまた想定されるだろう質問パターンを頭で反芻しながら、スーツに着替えているところ。

自己分析なんてはっきり言って、もうこれ以上

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ありがとうございます
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2・もうひとつの冬「バレンタイン・すとらてじー」

「くるみちゃん!サンキュー!」
「ホワイトデーはお返しくれるんだよね?」
「あったりまえじゃん!」

気前いい返事がオレの口から飛び出した。
ランドセルにはまずこのチョコレートを、それからあわてて教科書類をつめこんで帰りのあいさつ、みんなでせーの。

「さよーなら!」

とびっきりのスタートダッシュで教室バイバイ。階段かけおり、
「ヒャッホー!」
校門出たら、通学路も全身全れい全力疾走。
「やった

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短編小説『二兎を追う朝』6

前回(5)はこちら



 「よかったじゃねえか、クリームソーダ」娘がコーヒーのお湯割りをすすった。それからまだ手をつけていないレア・チーズケーキの皿を片手で俺の方にそっと押した。「やんな」
「やんな、って──?」
「食べな、ってことさ。こっちはいいからよお」
「しかし、お前、いいのかい」
 娘は無言でうなずき、ポケットからたばこの箱を出すと一本くわえて百円ライターで火をつけた。箱を見るとキャメ

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花粉症の人は、鼻の入り口に「ワセリン」を塗りましょう。
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キャラ

バレンタイン間近、学内情報誌の取材でスカッシュサークルに顔を出した時、奇妙な光景を目にした。内海くんが友人らしき人物と談笑していたのである。
 
内海くんと言うのは私の想い人で、出会ってからもう一年半は経つ。基本のやり取りは文通で、顔を合わせるのは稀だ。その指折りの機会、私は内海くんの笑顔を見たことが無かったのだ。内海くんは私に気付くと、少し驚いたような顔をして、コートに向かっていった。
 
代表

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1・冬「結びのことば」

今朝起きたらすごく寒くて、磨りガラスから射す光がやけに明るいなーと思った。

都心から電車で2時間ほど山間部に向かう里山に、住処を借りてもう5年。
裏庭に沿って流れる澄んだ沢に魅せられて決めた物件だったけど、住んでから気がついた。この土地は冬になると太陽の日差しが山々に遮られて一日中薄暗いんだ。
隣り合わせた杉林は地主が手入れする気配も無く年中鬱蒼として、ジメジメした湿り気で滅入りそう。南向き日当

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短編小説『二兎を追う朝』5

前回(4)はこちら



 娘に続いて狭い階段を登ると、やはりそこは喫茶店だった。カウンターと、テーブル席が3つだけの狭い店内。客は誰もいなかった。カウンターの中にベストをきた小柄な老紳士がいる。「お好きな席にどうぞ」と言われ、娘は奥のテーブル席に腰掛けた。

 俺が向かいの椅子に座ると、娘はカウンターの向こうのマスターに「コーヒーお湯割りで。それと、チーズケーキ。レアで」と声を飛ばした。
「そ

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