代島ヤス

【小説・定期更新中】17歳でうつ病、ひきこもりを経験。高校を中退したのち、高卒認定試験…

代島ヤス

【小説・定期更新中】17歳でうつ病、ひきこもりを経験。高校を中退したのち、高卒認定試験で大学に進学。卒業後、ある業界に飛び込むも挫折し、書籍編集員として就職。その後フリーライターに。バツイチ。ADHD / HSP。

最近の記事

【連続小説13】愛せども

見知らぬ少年の顔写真が、スマホの背景に設定されている。 「これ、だれ?」 なに食わぬ顔でスマホのゲームをしているリサに訊く。 「シュンと私の子ども」 アプリでシュンと自分の子どもの画像を生成し、彼氏である僕のスマホの背景写真に設定したのだ。やっていることの意味が分からなすぎて、理解が追いつかない。 間違っていることはわかっている。引き下がり終わらせるべきだということもわかっている。しかし僕にそれはできない。これから先、幸せの道が待っているのだから、今は耐えて、未来に望みを

    • 【連続小説12】愛せども

      世田谷区の外れにある木造アパートに、リサと僕は住んでいる。地下の改札から地上に出て、駅前の繁華街を抜け、スーパーの脇を通り、住宅街に入っていく。電車に乗れば都心にもすぐに行けるし、最寄り駅付近にだってアパレル店、雑貨屋、たくさん店があり、欲しい物はだいたい手に入る。 ここに越してきた頃、休日になるとよくリサとこの辺を散歩した。家の近くを歩くだけだが、デートみたいなものだった。 引っ越してすぐ、僕は池袋のコールセンターでアルバイトが決まり、毎日電話営業に明け暮れていた。ほぼ全

      • 【連続小説11】愛せども

        激しい罵り合いにになる言い合いや、時には取っ組み合いになってしまう喧嘩をしたこともあった。しかし、その後リサが落ち着くと、お互いに冷静に話し、仲直りをした。繰り返す度に、自分たちは深く結ばれていく気がした。逃げ出したくなる束縛や、こんなに苦しい想いを乗り越えたのだから、その分、幸せを手に入れることができるはずだ。 誰から聞いた話だっけ、映画で見たんだっけ。人生という缶からの中には、不幸と幸福の飴玉が同じ数だけ入っている。最終的には、実はみんな幸福度は同じになる。先に幸福を手

        • 【連続小説10】愛せども

          「でもね、お父さんは、暴力を振るう人だったの」リサはうつむきながら続ける。「ここの傷、気づいてないかな」 ブラウスのボタンを外し、鎖骨の下あたりを見せる。そこには少し茶色く変色した傷跡があった。大きくはなく、暗い部屋だと分からないくらいだ。 「お母さんとお父さんが喧嘩すると、私は怖いから台所から奥の部屋へいつも逃げていたの。でもその日はなんだか雰囲気が違って、その場を離れることができなかった。二人が言い合いをしているうちに、お父さんの怒鳴り声がいつもより大きくなって、お母さ

        【連続小説13】愛せども

          【連続小説9】愛せども

          リサは一通り怒鳴りちらすと、先ほどまでの様子が嘘だったみたいに、泣き出した。 「ずっと一緒にいるんだから、スマホくらい買ってよ。壊したのそっちじゃん」 確かにカッとなって物にあたってしまった僕が悪い。しかもリサのスマホを壊してしまった。弁償するのは当たり前かもしれない。とはいえ、貯金なんてほとんどない僕にとって、スマホを購入するということは、僕のクレジットカードを使ってリサの買い物のローンを組むことになる。 僕のスマホで、値段を調べてみた。 「ちょっとずつ渡すんでよければ、

          【連続小説9】愛せども

          【連続小説8】愛せども

          「クレジットカード貸してくれない?」 唐突な提案に、僕は驚きを隠せない。先ほどまで恋愛の話をしていたのに、急に現実的な話になった。リサはどういう感覚なのだろうか。 「実はね、もうすでにネットでアクセサリーとソファーを買っておいたの」 「僕のアカウントで?」 「そうだよ。ソファー、前の私の家のやつを使ってるから、もう結構古いもんね」 「それなら相談してほしかった。アクセサリーはなんで僕のクレカで買ったの?」 「私が欲しかったからだよ」 言っていることがめちゃくちゃだ。話し合い

          【連続小説8】愛せども

          【連続小説7】愛せども

          二人で賃貸している世田谷区の外れにある木造アパートへ帰る。空はどんよりと曇っており、いつ雨が降ってもおかしくなさそうだ。折り畳み傘なんて持っていない。子どもの頃は天気予報を見た母親が持たせてくれたが、今はもうそんな人は近くにおらず、計画的に生きる習慣がない僕は、雨が降ったら濡れるだけだ。僕の隣にいるリサも、当然折り畳み傘を持っているわけがない。雨が降ったらコンビニなり店舗の前に置いてある他人の傘を盗ればいいくらいにしか思っていないだろう。 家に着き、定位置のベッドに座りリサ

          【連続小説7】愛せども

          【連続小説6】愛せども

          「私の友達とは、キミも友達になってね」 僕はリサの友達に会うことになった。僕のコミュニティは遮断してくるが、自分のほうには僕は紹介したいみたいだ。 「前のバイト先で知り合って、当時はバイト仲間数人で会ってたんだけど、私が辞めてからもたまに二人で会ってるんだよね」 「そうなんだ。どこに遊びに行ったりしてるの」 「映画とか、水族館とか。二人とも爬虫類が好きなの」 結構仲が良いみたいだ。リサの友達に会うのは初めてなので、楽しみでもある。 池袋駅の地上出口で、リサと一緒に友達を待

          【連続小説6】愛せども

          【連続小説5】愛せども

          それからというもの、リサの束縛の日々が続いた。初めのうちは苦痛で仕方がなかったけれど、不思議なことに段々と慣れてくるもので、異常なはずなのに、自分にとって普通になってくる。    眠い眼をこすりながらスマホを開く。ラインをチェックすると、表示される画面がいつもと違う。昨晩は地元の友だちのグループチャットが動いていたのだが、それがなくなっている。 「どうしたの」 隣で寝ているリサが覗き込んでくる。寝起きでいつもより顔がむくんでいるはずなのに、それでも美しい。僕はこんな綺麗な女

          【連続小説5】愛せども

          【連続小説4】愛せども

          リサは時折、くるくると回る。その度に部屋着の白いブラウスの裾がふわりと広がり、すぼまる。 「それ、なにしてるの」 「幸せで、どうしたら良いか分からなくて」 自分と一緒に住んでいるだけで、そんなふうに思ってくれるのが嬉しい。僕は絶対にこの生活を手放したくない。 台所で、毎日夕飯をつくってくれる。僕が食材のカットや下準備をして、リサが調理するパターンが多い。料理のアシスタントのような気分で、他愛もない話をするのが楽しい。 意外と言うと失礼かもしれないけれど、リサはレパートリー

          【連続小説4】愛せども

          【連続小説3】愛せども

          リサと会うようになってから3ヶ月ほどが経った。楽しく遊んでいるときに、急に行きたい場所が変わったり、全然喋らなくなったり、少し変わったところがあるようだったが、以前精神的にムラがある子と付き合ったことがあるので、特に気にならなかった。 その日、僕たちは渋谷駅で待ち合わせし、水族館が企画する期間限定の特別展へ向かった。世界中から毒を持った生物を集めた展示だ。 「これずっと来たかったんだよね」 リサは言う。 「ならよかった。楽しみ」 歩を進め、会場に着く。 予想よりも見た目

          【連続小説3】愛せども

          【連続小説2】愛せども

          東京郊外、駅から徒歩15分ほどの住宅街に、Yは拠点を構えている。もともとは柔道の道場だったが改築し、今は和洋折衷を模した外観で、明治から大正期に広まった建物のような風貌だ。独特な雰囲気はその地区でも異彩を放っており、人々は近寄ろうとしない。そこに出入りしている人物の変わった風貌も相まって、余計に。 一人掛けの革のソファーに腰掛け、Yは12年物のアイリッシュウイスキーで唇を濡らす。黒く分厚い生地の和服を着ており、壁には同じくらいの大きさで、紺とグレーの和服がそれぞれ掛かってい

          【連続小説2】愛せども

          【連続小説1】愛せども

          気持ちばかり開いた引き戸から、薄明かりがこぼれている。 中の様子をしっかり見るには足りないが、店の雰囲気を察するには足りている。 空席があることを確認し、僕はのれんをくぐった。 わざとらしくならない程度に口角を上げ、軽く会釈をしながら人差し指を立てる。 「おひとりで」 恰幅が良く、日本酒の銘柄の前掛けがよく似合う店主が、のそのそと厨房から出てくる。 店内にカウンター席はなく、ひとりではあるがテーブル席を案内された。 手書きの文字が印刷された品書きから、人間味が感じられる。

          【連続小説1】愛せども

          孤独を知ってるから、しがらみを楽しめる

          2〜3年前、僕たちには、とてつもなく孤独な時期があった。 人と話したくても話せない。 会いたくても会えない。 外の空気を吸って、友人とリフレッシュしたくてもできない。 そんなストレスがあった日々を、もう忘れつつある。 「この資料のまとめ、急遽明日のミーティングで使うことになったんだ。部署で協力して、今日中に終わらせてもらえるかな」 上司からそう言われ、分厚い資料を手渡されたのは午後4 時。  退勤の6時までに残された時間はごくわずか。 おまけに今日は水曜日。 当社のノ

          孤独を知ってるから、しがらみを楽しめる

          ショートショート【虚像へ向けた真実の愛】〜わたしが愛した彼はニセモノ?〜

          全部どうでもよくなっていた。 小学校、中学校とまじめに勉強し、高校はそれなりの進学校に入り、ここまでは順調だった。 くずれたのは高校2年の夏。 交通事故に遭った。 それから3カ月の入院生活。 友達が毎日ノートを届けてくれたし、オンラインで学習する方法もあった。 でもなんか、どうでもよくなってしまったんだ。 周りの期待に応えるために努力を続けてきた17年間。 学校に行かないと、普段考えない色々なことを考える。 楽しかったことってなんだっけ。 これがやりたいことなんだっけ。

          ショートショート【虚像へ向けた真実の愛】〜わたしが愛した彼はニセモノ?〜

          【諸悪の根源は見えないアイツ】〜パクりパクられ抗争〜

          雨の日に、ある娯楽施設を訪れた。 短時間しか滞在しない予定だったので、傘はキーロックを使わずに、傘立ての端に置いた。 帰るとき、自分の傘を探すが、なくなっていることに気付く。 「くそ、やられたかあ」 盗まれたことに苛立ちながら、僕が傘を置いていた一角の隣に雑多に置いてあったビニール傘を掴み、その場を出た。 僕の傘はわりと新品だったのに、今手にしている他人の傘がボロいことにも苛々した。 家に帰ってビニール傘をしまうときにふと思った。 このビニール傘の持ち主も、自分の傘が盗ま

          【諸悪の根源は見えないアイツ】〜パクりパクられ抗争〜