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【連続小説6】愛せども

「私の友達とは、キミも友達になってね」
僕はリサの友達に会うことになった。僕のコミュニティは遮断してくるが、自分のほうには僕は紹介したいみたいだ。

「前のバイト先で知り合って、当時はバイト仲間数人で会ってたんだけど、私が辞めてからもたまに二人で会ってるんだよね」
「そうなんだ。どこに遊びに行ったりしてるの」
「映画とか、水族館とか。二人とも爬虫類が好きなの」
結構仲が良いみたいだ。リサの友達に会うのは初めてなので、楽しみでもある。

池袋駅の地上出口で、リサと一緒に友達を待つ。リサのスマホが鳴った。
「大丈夫だよ。時間潰してるね」

リサはスマホを切り、僕のほうを振り向く。
「遅れるって。4時間」
僕は息を飲んだ。4時間の遅刻がこの世に存在するということと、それを当たり前のように受け入れているリサの反応に驚いた。

二人で喫茶店で時間を潰していると、隣に人影が現れた。
「リサ、ひさしぶり」
「うん、今日はありがとうね。これ、彼氏のミチ」
リサはそれまで僕のことを名前で読んだことがなかった。初めて僕の名前を呼ぶタイミングが今なのか。
そんなことより、一番驚いたのは、
「シュンです。よろしく」
僕が紹介されたリサの友達は、男だったのだ。リサは彼と仲が良く、たまに遊んでいる。つまり、それはデートだ。

その後、シュンと3人でお茶をしてカラオケに行った。シュンと別れた後、僕は開口一番リサに聞いた。
「これ、どういうつもり?」
「え、なにが」
今日起きたことが異常だということに気付いていないらしい。

「まさか男だと思わなかったよ」
「そうなんだ」
まるで他人事である。自分がやったことなのに。「彼氏に、男友達を紹介するって、普通ではないんだよ」
「黙っててほしかったの?」
「何が」
「私たちが会ってること」
「いや、それは言ってくれて良かったよ。そこじゃなくて…」
「たまにシュンの家に行ってる」
後ろから殴られたような感覚に襲われた。付き合いたてで幸せだったと思っていたのは、どうやら僕だけだったようだ。

僕はとっさに言った。
「別れよう」
リサはすぐに答えた。
「別れないよ」
何の悪気も感じないようだ。いつもの調子で、堂々としている。

「私たちは運命で出会った。ツインレイなの。だから終わることはないよ」
今まで何度それを言われたか分からない。しかし、さすがにこれはもう無理だ。
「耐えられないから。ごめん」
「耐えられるよ」
彼女が笑顔でそう言った理由が家に帰ってから分かった。
精神的な束縛がとけても、物理的なそれがとけないと、鎖でつながれた犬のように、離れることができない。


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