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【連続小説13】愛せども

見知らぬ少年の顔写真が、スマホの背景に設定されている。
「これ、だれ?」
なに食わぬ顔でスマホのゲームをしているリサに訊く。

「シュンと私の子ども」
アプリでシュンと自分の子どもの画像を生成し、彼氏である僕のスマホの背景写真に設定したのだ。やっていることの意味が分からなすぎて、理解が追いつかない。

間違っていることはわかっている。引き下がり終わらせるべきだということもわかっている。しかし僕にそれはできない。これから先、幸せの道が待っているのだから、今は耐えて、未来に望みを託そう。今までもそうしてきたじゃないか。

この頃、僕は2つの夢をよく見た。

一つは、豪雨の中を歩く夢。ものすごい向かい風で、服はバタバタと音を立てて暴れ、雨を吸い込んで重さが増す。靴の中にも水が染み込み、どろどろの靴下が足の指にへばりつき、歩くたびにぐちゅぐちゅと不快な感覚がある。歩くのをやめると一瞬で後ろに倒れ、そのまま遠くに飛ばされてしまう気がするので、体を前傾姿勢に倒し、一歩ずつ足を前に出し続ける。歩いているというよりは、左右の足を順番に出し続けるという、物理的な作業のような感覚。歩き続けないと、死んでしまうかもしれない。

もう一つは、手足にいくつもの枷を付けられ、チェーンでがんじがらめになっている夢。チェーンどうしも絡まっていてぐちゃぐちゃだ。動けば動くほど、解けなくなっていくので、途中ですべてを諦め、手足を放り出す。その瞬間、ふっと楽になる。枷が付けられていないような感覚になる。しかし目を開けるとチェーンまみれになっている現実が突きつけられる。チェーンの尾は頭上で一箇所にまとめられていることに気づく。見上げると、そこには半紙に筆で書かれた「嘘」という字が、御札のように貼り付けてあった。

冷や汗をかき、叫びながら目が覚める。悪夢から覚めても、現実も悪夢のように辛い。どこに行けば、夢が見られるのか、そもそも僕の未来には夢や希望なんてあるのだろうか。

ベッドの上で、枕を口にあてて大声で叫ぶ。それでも足りずに、三度繰り返す。枕で防音しないと、築40 年の木造ボロアパートの隣人からクレームが来てしまう。精神的に限界な状態なのに、そんなに気配りは利くのかと、滑稽になる。地獄みたいだ。きついことがあったあとは幸せが待っているんじゃないのか。リサといることは、僕にとっての幸せに結びついているのか。いや、結びついているに違いない。みんなそうやって幸せになっていくんだから、僕もそうなれる。


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