ちかちゃん

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最近の記事

人混みへの冒険。

日曜日の雨の日。デパートは人間がひしめき合っている。 それはそうだ、雨だと外で活動ができない。そもそも私が住んでいる地域は公園くらいしか親子連れで遊べる場所はない。デパートは食料品売り場もあれば化粧品売り場もあれば日用品もあれば100円均一のお店も入っていればおもちゃ屋さん、ゲームセンターまである。ちょっと家電だって取り扱っている。そこに足を踏み込めばしばらく退屈はしないのだ。 人混みが苦手な私はもちろんそれを予期していたし、日曜日にデパートに行かなくてもいいように前日に買

    • 散歩の物語その4

      梅雨入り「まさに今の私のような日だ」 そう呟いて私は職場までの道を歩く。仕事は単調でつまらない、4年目ということで日々の業務で失敗をすることもなくなっていた。順調に業務をこなし、新しく提案した企画も無事に通っていた。普通これならやりがいが起こり、『よし、次も頑張ろう」と思えるのだろうが私にとっては何も感情が動かない。昔からそうだ、自分にとって利益になることを優先する人間だった。  幼稚園の発表会では目立ちたくはないけれど、かと言って『〇〇役5人』みたいな人数が多い方が良い訳

      • 散歩の物語その5

        ショーウインドウ 「何年になる?」 「何がですか?」 「ここにこうしていることが何年?」 「そうですねぇ・・・そうは言っても僕たちに時間の概念なんて無いですよ」 「でも時間はわかるだろう?朝になって夜になって、また朝になって。それが何回続いた?」 「いやいや、それこそわかりませんよ。おおよそですけど・・・25年ぐらいですかね」 「25年?そんなにか!?」 「そう、そんなにです。人間の年齢では何歳ですか?」 「あのなぁ、俺が『犬』だからって『人間の年齢にしたら』なんてそ

        • 散歩の物語その7

          商店街の重鎮朝の商店街に自転車を走らせる。土曜日、いつもなら学校は休み。 しかしながら今日は大事な資格検定の日だ。この検定が取れれば進学に、はたまた就職にも有利に働くらしい。担任が言っていた。 「天野君は部活動をしていないから何か検定をとっていたほうが加点されるよ」 と。 だから勉強してきたと言うこともあるが、実のところ勉強に夢中になってしまって成果が出るのが嬉しくなっていた。 僕はそんなところが昔からあって、何かを始めると熱中してしまいそれしか見えなくなる。勉強以外で

        人混みへの冒険。

          散歩の物語その3

          『ハザードランプ』雨、夕暮れの薄暗がり。 車は右折レーンに入り、信号機が変わるのを待つ。 隣に座っている女性が話かける。 「なんか、このレーンと左のレーンで灯っている色んな車のハザードランプってそれぞれリズムが違って、見てて面白いですよね」 僕は心臓が大きくうねる感じがした。その言葉を僕は知っている、いや知っていた。 「うん、そうだね、それぞれのリズムと雨と薄暗がりとでとっても幻想的だよね」 「はい、そうなんですよ」 僕は心臓の鼓動が早くなったのを誤魔化すことができた。

          散歩の物語その3

          散歩の物語その2

          『踵を返す』 すごく嫌なことがあった。すごくすごく嫌なことがあった。何故あんな場面を見ないといけないの? 「クソだるいな」 そう吐き捨てて、自転車を漕ぐ。秋の始まりと冬の始まりが同時に来たような、なんだかよくわからないこの時期の空気を切り裂いて走る自転車は、体は冷えるが心の中は少し気分が変わる。 心の空気を入れ替えるように私は自転車を走らせた。 「あ、そうだ」  私はこんな気分の時には決まっていくところがある。今日のは凄くヘビーだったので忘れてしまいそうだったけれ

          散歩の物語その2

          散歩の物語その6

          『花の香り』今年もこの季節がやって来た。そう思える瞬間がある。 いつも歩いている散歩道。微かに鼻腔を突く匂いがする。 その匂いを感じ取ってそこから数メートル歩いた所に黄金色の小さい花がたくさん付いている木がある。どなたかは存じない家の庭に花開いた香り。 私はこの匂いが好きだ。長袖のカーディガンを羽織って出かけようと思う頃に香ってくるこの匂いが。そしてこの場所にあるこの木が。あの人と2人いつも通ったこの道が。 「え?この木?」 「そうそう、この木。これ秋になったらいい匂い

          散歩の物語その6

          散歩の物語その8

          『故障中』何してんだろう? 心の中で私はつぶやいた。放課後、帰宅途中。いつもと違う道を帰りたいと思い、川沿いの道を歩いている時だった。  目の前には同じ学年、違うクラスの男の子が立っていた。私とは面識は無いけれど、お互いに顔は知っているだろうと思う。  そんな人が私が歩こうとしている前に立っている。しかも川の方にある『何か』を凝視して。  ちょっと怖いな。 そう思って私はその道を避けて別のルートを通って帰った。  次の日。私は昨日の光景が頭から離れずにいた。あれは

          散歩の物語その8

          散歩の物語その9

          忘れない 俺の町に女子がやって来た。夏休みが始まってすぐの事だった。 その女子は色白で、俺たちとは全然違くて、話し方も違った。これが東京の、都会の人って言う事なんだろうか。 初めて会ったのは、そいつが引っ越しをしてきて俺の家に家族揃って挨拶をしにきた時だ。 「今日からお世話になります。山下です」 そう言って女子の隣のおじさんが挨拶をした。父親だそうだ。俺でもわかる丁寧な話し方だった。これが都会の人か。そう思った。 「娘の奈緒とは同い年みたいだね。仲良くしてあげてくださ

          散歩の物語その9

          散歩の物語その1

          散歩をしているといろんな風景、さまざまな人を目にすることがあります。自分が目にしたもの、こと、ひとを想像しながら作り上げた短編小説集です。 『春と月』 鼻水が止まらない。この時期は目も痒いし、薬を飲むと眠たくなるし、大変だ。毎年の事ながらもう嫌になる。 「父さん、明日の朝のパンがないわ」 ぐったりしている中、息子の声がした。 そうだ。仕事帰りの買い物で買い忘れていたのを思い出した。重たい体を起こしてリビングに向かう。 「ごめん、明日はパン無くてもええか?」 「え、嫌

          散歩の物語その1

          見上げてみれば。(散歩の物語)

          radikoで聞いていた天気予報で「午後から一時的に雨がザッと降る時間がありますね」と言っていた。 「そうなの?」 と窓越しから空を見上げてみる。 全くの晴れ空で夏の雲が悠々と流れている。 「こんな天気なのに?」と呟いてみると 「え〜こんなに天気良いのに?」と天気予報を同じブースで聞いているであろう平日午前のワイド番組のパーソナリティが驚いた声を挙げていた。 同じことを言ったことに嬉さを感じて「フフフ」と笑いながらパソコンに目を戻し仕事の続きをする。 そこから少し時間

          見上げてみれば。(散歩の物語)

          渚にて

          海を見にいくことが増えた。夜に向かう海は青が深く、どこまでも沈んでいってしまうようだった。 海を見にいくことが増えた。自宅から徒歩で30分、聞こえる音は波の音と魚が跳ねる音。 海を見にいくことが増えた。隣では犬と散歩をしている若い女性がスマホを自分に向けてダンスの練習をしている。 海を見にいくことが増えた。歩くことを楽しんでいる老夫婦がいる。 海を見にいくことが増えた。「仕事ばっかりじゃん!」と怒っている女性とそれを宥める男性がいる。 海を見にいくことが増えた。暑い

          梅雨

          梅雨が始まると雨が降る。 なんと当たり前なことを言っているのかと思うが、改めて梅雨が始まると雨が降る。なんとも不思議だ。もちろん夏でも秋でも冬でも春でも雨は降るのだが、梅雨になると雨が降る。  「雨は好きなんですけど〜」と言う芸能人は多い。実は私も雨は嫌いじゃない。傘に当たる雨粒の音、傘を差すことで自分の世界がちょっと狭くなる感じ。他人の傘と自分の傘がぶつからないように距離を空けなければならない空間。結構好きだ。  だけど生来の天邪鬼な性格なので「雨は好き」と言う人を何人も

          映画「あんのこと」多少のネタバレと澱

          映画「あんのこと」を見た。 登場人物が主人公のあん以外全員が異常で誰かに寄り添おうとしないと生きていけない人間ばかり、その中で生きていかざる得なかったあんが選んだ最後は自責の念などではなく、自分を含めた全てへの失望、空を飛んでいくブルーインパルスの目的を知る由もなく。 救いがなさすぎる。何かを手にしたと思えば全て指の間からこぼれ落ちる。「こんなことならあの時のあのままで良かった」とあんには思っていて欲しくない。  母親はきっと親離れができなかったのだろうと思う。祖母がああ

          映画「あんのこと」多少のネタバレと澱

          花粉症と筋肉痛

           4月になり、目に見えない花粉が目に見える形で体に悪影響を与える。  3、4年前は4月になると目が痒くなったり、くしゃみが出たりすることがあっても「いや、風邪気味かな」と周りに説明しながら自分を偽ってきた。  しかしながら最近は自分を偽ることを諦めて「これは花粉症の症状だ」と認めるようになった。  朝起きるとまず鼻声だし、鼻水は出るし、目ヤニは酷いし、ベランダに出るとくしゃみが激しい。全くもって大変な症状だ。  戦後の政策で山にたくさんの杉の木を植えたことが日本人に花粉

          花粉症と筋肉痛

          巷は

          卒業式らしい。「古い場所を離れて新しい風に触れよ」と何かで読んだ気がする。  変化をする際には新しい事をしなければならない。今まで自分がしてこなかった事をだ。    卒業式は自分にとってどんな物だったか。そこまで強烈な思い出はない。小学校は偏頭痛と小児喘息で休みがちだったのであまり思い入れがない。中学校は嫌いだったので早く終わればいいのにと思っていた。高校はどうだったか。  長かった記憶がある。そう、長かった。思い出は意外と文章にしてみると思い出すのかもしれない。  高校の