見上げてみれば。(散歩の物語)

radikoで聞いていた天気予報で「午後から一時的に雨がザッと降る時間がありますね」と言っていた。

「そうなの?」
と窓越しから空を見上げてみる。
全くの晴れ空で夏の雲が悠々と流れている。

「こんな天気なのに?」と呟いてみると
「え〜こんなに天気良いのに?」と天気予報を同じブースで聞いているであろう平日午前のワイド番組のパーソナリティが驚いた声を挙げていた。

同じことを言ったことに嬉さを感じて「フフフ」と笑いながらパソコンに目を戻し仕事の続きをする。

そこから少し時間が経ち、「お腹すいたな」と立ち上がる。
近くのコンビニに昼食を買いに行こうと思い立ち準備をする。最近はスマートフォンでお会計ができるので近場のコンビニくらいにはスマートフォン一つ持っていけば良い。

「身軽になったなぁ」と思いながらスマートフォンを持ち上げると画面が立ち上がった。通知の欄に「これから雨の降る予定です」と書かれてあった。

落胆したがその通知は30分くらい前の通知だったので天気予報アプリで今の様子を確認してみる。
13:00は雨と書かれていたが、雨雲レーダーを見てみるとどう拡大しても雨が降る雲は『現在地』にはかかっていない。

逡巡する。どうしたものか。

傘を持っていけばいいのだがスマートフォン一つでコンビニに行ける身軽さを失いたくないし傘を持っていかなければならないくらいならコンビニに行く選択肢も消える。お腹が減っているのは家にあるなにかで満たされるだろう。

「30分前に雨が降る通知が来て、今来てなくて雨雲レーダーでどこにも雲がない。。。行くか」

逡巡の後の決断。スマートフォン一つ持ってコンビニに向かう。
歩いて片道5分ちょっと。

手頃なコンビニ弁当とシュークリームを買って会計をする。
「お弁当温めますか?」
「はい、お願いします」
「レジ袋入りますか?」
「あ〜お願いします」
「シュークリームは別にしますか?」
そうか、温めた弁当の上にシュークリームを置くのか。一瞬の逡巡。
「大丈夫ですよ、同じにしてください」
「わかりました」
歩いて5分なんだ正直どうでもいい。

会計の全てを終え、弁当が温まるまで待つ。後に人も待ってないので店員さんと自分。レジが置いてあるカウンターテーブルを挟んで異様な気まずい雰囲気が流れる。レジの液晶画面に出ている『おすすめ品』や『公共料金はコンビニで!』を漫然と見つめながらいると電子レンジの音が鳴る。

「お待たせしました〜」
「ありがとうございます」
そう言ってコンビニの出入り口へ向かう。

「蒸し暑いな」独言を言いながら歩いていると半袖Tシャツを着ている右の腕に冷たいものが当たった。

「うへ?」
変な声を出しながら天を見上げる、確かに黒い雲が出てきてはいるがまだ真上に来るには時間がありそうだ。なのに今雨粒を感じた。

 僕は雨を確認するが早い。昔から体に雨が当たるのを周りにいる誰よりも早く気づく人間だった。「あ、雨」と呟いた時は決まって周りの友達なり家族なりが訝しい表情を送って「降ってないでしょ」と言う。しかしその数分後に「雨だ」言って傘を差すなり、走ることを要求してきたり、お店に避難したりとそれぞれの行動をする。僕がはじめに気づいたことなど忘れてしまっているように。

この役にも立たない雨粒が自分の体に当たるのを感じるのが早いというものが特殊能力なのかなんなのか。これが特殊能力なのなら神様よ、もっと他の能力を身につけさせてもらいたかったよ。

 今回も目の端々に認める人たちは気づいていないようだった。各々自分の為だけの行動をしている。しかし正面を歩いていた女性だけ違った。自分と同じように見上げていたのだろう顔を下ろし振り向いた。

 一瞬目が合った気がした。僕と同じ特殊能力を持つ人がいたことが嬉しかった。雨粒が他の人より一瞬早く自分に落ちる能力。こんな能力大して役に立たないのだが同じ能力を持っている人がいた。それだけでこんな能力でも持っている意味があるのだなと感じる。
心がときめいたがそのときめきを洗い流すように強く雨が降ってきた。

「降ってきたな」雨が僕の頭を冷ませるように自分は冷静に戻り家まで足早で帰る。歩いて5分なのだ問題はない。

走って家に帰り着替えをしてからコンビニで買った昼食を食べる。
スマートフォンも多少濡れていたが「多少濡れている」くらいなら今のスマートフォンは平気だ。安心して使える。

あの子は大丈夫かな?と窓から空を見上げると雨は上がっていた。



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