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巷は

卒業式らしい。「古い場所を離れて新しい風に触れよ」と何かで読んだ気がする。
 変化をする際には新しい事をしなければならない。今まで自分がしてこなかった事をだ。
 
 卒業式は自分にとってどんな物だったか。そこまで強烈な思い出はない。小学校は偏頭痛と小児喘息で休みがちだったのであまり思い入れがない。中学校は嫌いだったので早く終わればいいのにと思っていた。高校はどうだったか。
 長かった記憶がある。そう、長かった。思い出は意外と文章にしてみると思い出すのかもしれない。

 高校の卒業式は式自体は滞りなく終わったがその後クラスに分かれての最後のホームルームで担任から「みんな1人ずつ前に出て喋ってください」との指示があった。出席番号順で始まったそれが長かった。ちょうど僕は出席番号が真ん中で、1人ずつの話はきっと言いたい思いがたくさんあるのだろう、長い。びっくりするぐらい長い。そして真ん中の自分。真ん中というのは所謂「中弛み」で一番退屈する部分だ。そうでなくても前半からずっと長いのだから中弛みに次ぐ中弛み。
 心の中では「もう明日にしませんか?」と言いたくなるぐらい。

 ようやく自分の番、自分の番だが後の残り半分の人たちがいる事を考えると簡潔にそして印象強くが求められる。

 僕は、高校三年生の時に家出をしている。「家出」と言っても今回のことが「家出だった」と後でカウンセリングの先生に言われて気づいたほどその時は切羽詰まっていて何も考えられなかった。

 事の始まるはこうだ。自習の時間でクラスで盛り上がっている中それを見ていた自分は「あれ、僕ってここにいなくてもいいのでは?」と思ってしまった。一応断るがクラスで浮いていたわけではないし、クラスの中心人物とも分け隔てなく関われるポジションではあった。

 そう思ってしまってからはドツボでぐんぐん気分の落ち込みが激しくなる。
もう無理だと担任に相談して先のカウンセリング(学校内に設置された)を受けてみるように勧められた。後は学校を少し休んでみてはどうかと。
 母親にも相談した。母親は涙声で「あんたはきっと周りに支えられているということがわかっていない」と叱られた。その通りだと思う。そう言ったあと「それでも辛いなら休んだらいい」と言ってくれた。

 全て受け入れて学校を1週間休んだ。
特に何も変わらない1週間を過ごしてしまい休み明け学校に行ってみると
「何か問題起こして休学したのかと思った」と友人に言われた。
そんなふうに言ってくれることが安らぎになった。
そして「お!休み中に運動会の応援合戦の参加者募ったけどおまえもやるだろう?」と隣のクラスのやつに言われた。嬉しかった。当たり前にこいつも参加するだろうと思われていたことが嬉しかった。

そこから1週間近く応援合戦の練習をしていく。それは楽しかった。

運動会が終わり僕には反動が来た。燃え尽き症候群だろう。
余計に落ち込みが激しくなった。

「もうここにはいられない」

僕は次の日の朝。自転車を学校とは反対側に進めた。

 そこから1週間僕は家に帰らなかった。
自転車で広島県から大阪まで行って帰ってきた。
詳しいことは長くなるので書かないがいつかその部分を書きたいと思う。

 僕はその1週間で分かったことがあった『ここにいてもいいのか?ではなく自分がどこにいたいのか』だ。僕は「あぁ学校のあのクラスにいたいな」と思った。この考え方はそれ以降自分の考えの根っこになっている。

 次の日に伺ったカウンセリングの先生に「家出したんですね」と先に書いたことを言われる。『そんなつもりが全くなかった』というより、「家出だなんて全く思ってもなかった』だった。それだけ自分は切羽詰まっていたのだ。

 トータル2週間学校を休んだが問題なく卒業できた。

 出席番号が真ん中の自分の番がようやく来る。
話すことは決まっていた。詳しくは覚えていないがこんなことを言った気がする。
「僕は1度しんどくて学校を休んだことがあります。その際に大阪まで自転車で行って帰ってきました。その1週間は心配させてしまってごめんなさい。僕はその1週間で「いてもいいのかではなく自分がいたいと思える場所にいる」ということを学びました。だから僕はここにいます。自分が居たいと思える場所を作ってくれたのがみんなです、ありがとう。そして母さん。あの時泣きながら叱ってくれてありがとう誰かに支えられているということを僕は1人自転車に乗っている時に思い知りました」と伝えた。シンプルで短くそれでいて伝えたいことを伝えた。

 後で友達の母親から「話良かった。一番良かった」と言ってもらえた。順位をつける必要はないと思うが単純に嬉しかった。

これが僕の卒業式の思い出だ。きっとこんな風にたくさんの人が思い出を、良い、悪い全てを含んで卒業していく。

 3月のニュースを見ながら僕は思う。
今まさに自分は居たいと思える場所を目指していく。僕も今の生活を卒業していく。
 これから何があるかわからない。何にもならないかもしれないが冷たい風に触れにいく、自転車で走れば広島から大阪まで辿り着くのだ。きっと新しい場所に辿り着くと信じている。


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