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【連作小説】薬膳cafe五花 プロローグ

       あらすじ

 北海道のとある街で両親と40代まで平穏に暮らしてきたフキ。東京に住む叔母から喫茶店を手伝わないかと声をかけられる。自分の可能性を広げたいと思い始めていたフキは両親を説得し、思い切って上京する。叔母が長年続けてきた喫茶店は店仕舞いをすることになり、フキが新たに『薬膳cafe五花』をオープンさせることになった。来る人々の心がホッと癒されて笑顔で帰れるように…。フキの想いは伝わるのか。下町の薬膳カフェを舞台にほのかに優しい人々の交流を描く。


プロローグ

 振り返ると、比較的平坦な道を歩んできた。

 北海道のある街で生まれ育ち、社会人になってからはファミリーレストランで働いてきた。
 ずっと実家暮らしで、衣食住に困ることはなかった。

 私の名前は倉田フキ。
 性格は真面目で、冒険はあまり好まないタイプ。
 はめを外して遊んだこともない。
 真面目一辺倒かというとそうではなく、すぐおちゃらけたり調子に乗ったりするタイプでもある。
 争いごとは苦手で、角が立たないように、自分の意見を押し込めて、人に合わせがちな性格でもあり、ストレスを溜める事もあった。

 30歳を過ぎた頃から、母から
「いい人いないのかい」と言われるようになった。
 感情的に返すと喧嘩になるので、さらっと話しを変えるか「さぁね〜」ととぼける。
「何がさぁねだ!」と言われるのが毎度のオチだ。
 40歳を過ぎた辺りから言われる回数は少なくなった。

 仕事が休みの日は、両親それぞれから雑用を頼まれる事が多かった。
 車での送迎や、買い物の付き添い、親戚へ届け物などなど…
 やれやれ。
  私が家にいて助かってるっしょ?
と思うが、助かっていると言われた事はない。
 両親も年老いてきたし、自分も体力的に無理がきかない年代になってきている。
 このまま実家で歳を重ねて行くんだろうなぁと思っていた。

 そんな私の日常に、転機が訪れた。

 ふと思い立ち、通信で薬膳の勉強を始めた。
 東洋医学に興味があった事と、自分や家族の体調管理に役立てたいと考えたからだ。  

 勉強を始めると、不思議と自分の可能性を広げたいと考え始めた。
 今なら薬膳に限らずに、どんな分野も勉強出来る気がする。

 年齢的に遅い?
 いや、遅いと思わない。
 誰が何と言おうと関係ないね!
 今が自分のタイミングだったんだ。

 なぜか若い頃より気力が湧いて来るのを感じた。
 少し位の無理もきくような気がするから不思議だ。


 ある時、東京に住む叔母から電話がきて、いつものように長話しをしていた。
 叔母は母の妹で、私が中学生の頃に東京の下町で喫茶店を営む男性のもとに嫁いだ。
 物心ついた頃から何かと面倒を見てくれたように思う。
 今は半年に一度くらいは電話で話し、近況やお互いの推しの話しをした。
 姉である私の母より話しが合うという。

 「ところでフキちゃん。うちに住み込んでお店の手伝いしてくれない?」
 唐突に叔母が言った。

 「えぇーっ、おばちゃん。突然何言うの?」

 最初はびっくりしたけれど、考えれば考えるほど、行ってみたくなった。
 叔母は叔父を病気で亡くしてからひどく落ち込んでいたし、お店を1人で開けるのが大変そうだった。
 娘のかよちゃんは茨城県に嫁いでいて子育ても忙しいので、なかなか帰ってこられないようだ。

 私が家を出ても大丈夫かな。
 東京から北海道じゃそう気軽に帰ってこられない。
 状況を考える。
 弟家族は近くに家を建てて、よく実家に顔を出してくれている。
 小学生の甥っ子と姪っ子にじぃじもばぁばもメロメロだ。
 今なら家を出ても問題ないのではないか。

 心に決めてから、両親を説得した。
 なんせ42年間実家を出た事がないのだ。
 寂しい気持ちはあるが、叔母の家だから安心だよ、また戻って来るよ、と伝えてなんとか了承を得た。

 長年勤めている職場は居心地が良く何の不満もないが、今は冒険したい気持ちが強い。
 職場にも伝え、身辺を整え、晴れて上京したのだった。


𓂃 𓈒𓏸

 上京してからは、薬膳の勉強を続けさらに上の資格を取得し、昼はちゃい夢を手伝い、夜は週3でレストランでアルバイトをした。

 叔母の家は一階が店舗で二階が居住スペースである。
 従兄弟のかよちゃんが昔使っていた小部屋を使わせてもらっている。

 東京での生活にも慣れてきた頃、叔母が
「ちゃい夢はそろそろ潮時だと思うの。私も身体がきついし。再開発で立ち退きするまで、フキちゃんの好きなようにお店を使ってみない?」
と提案してきた。

 期限付きとはいえ、場所も住居も提供してくれるのだ。
 不安はあるものの、挑戦したい気持ちが勝った。

 「おばちゃん、私やってみるよ。薬膳カフェ」

 そしてリノベーションや各種手続きをし、準備期間を経て「薬膳cafe 五花」をオープンさせた。


 オープンして半年。

 少しずつ客足も増え、オープン当初より忙しくなってきている。

 いつかお店を仕舞うその日まで。

 わたしはここで何を残せる?

 無我夢中だが充実している毎日だ。  


 
 遅いプロローグになってしまいました。 
これからもよかったら『薬膳cafe 五花』に気軽にお立ち寄りください(*´`*)ノ.+゚  



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