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この世の果て(短編小説 2)

【あらすじ→ 幽体離脱の動画をフォロワーさんに教えてもらった真希は興味を持った。少し怖いが、自分も試してみることにした。1回目は失敗したが、再度挑戦し、成功した】


空中で四肢を伸ばし、泳ぐような格好で前進してみる。
夜風が心地良い。

(そうだ、北海道に行ってみたいわ)

最後に北海道に旅行してから、もう10年以上経つ。
函館の夜景が見たくなった。
鳥になった気分で夜空を突き進む。眼下には通り過ぎる車のライトの連なりや、繁華街のきらめく夜景。

そういえば昔、悲しみのない自由な空へ飛んて行きたい、という歌詞の歌があった。悲しみが消えるなら、私も空を飛んでみたいと思ったのを思い出す。
今、生身の体ではないが、空を飛んでいる。
地上にいる時には感じることのない清々しさがある。
思い出したくもない嫌なこと、大切な人を失った喪失感、未来への不安、それら全てが消えていくような気がする。
肉体を脱ぎ捨てた人々は、皆こんな心境なのだろうか?

真希は北へ北へと進む。
海峡が見えてきた。
ふと、何かが聞こえてくる。耳を澄ます。
高度を下げ、慎重に下界を見回す。
すると、浜辺に人影のようなものが薄っすらと見えた。

(こんな夜中に誰?)

地面に下り立つと、真希は近づいてみる。
すすり泣きのような声がした。
夜の闇の中で焦点を合わせるように、じっとその一点を凝視する。
人にしては、ずいぶん影が薄い。そもそも、人じゃないのかもしれない。
もっと近づいてみる。
地べたに座りこんだ女性らしい。やはり、泣いているようだ。真希の気配に気づいたのか、顔を上げてこちらに目を向けた。その様子に、ギョっとする。
女性は影が薄いというより、向こう側が透けて見えそうだった。

(もしかして、私みたいに幽体離脱した人? それとも……?)

「あの、どうかしたんですか?」

幽体離脱した真希の声が聴こえてるのか、そもそも真希の姿が女性に見えてるのか分からない。

「私の、私の骨が、海底に沈んでるの。私、ずっと行方不明のままなんです」

女性が答えた。

「えっ?」

意味が分からないため、真希は詳しく話しを聞いてみた。


        つづく






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