柴野弘志

1981年生れ。神奈川県横浜市出身。劇団を旗揚げし役者として活動、脚本を執筆。解散後小…

柴野弘志

1981年生れ。神奈川県横浜市出身。劇団を旗揚げし役者として活動、脚本を執筆。解散後小説に着手し、noteでは主にショートショートを投稿予定。 浅田次郎、立川志の輔、古今亭志ん朝、東京03、Mr.Childrenのファン。 趣味はサッカー。特技は日本舞踊(宗家藤間流)。

マガジン

  • 花鳥風月

    「花鳥風月」というそれぞれの言葉に象徴されるキャラクターを描いた掌編連作。

最近の記事

平行線《前編》【短編小説】

「メガジョッキハイボールお二つでェす! お待たせしましたァ!」  頭にタオルを巻き、顎に無精ひげを生やした店員が野太い声でジョッキを運んできた。  カズオは手元のグラスの底に残っているビールを飲み干すと、新たに運ばれてきたジョッキと交換する。カウンターテーブルで隣に座っているタカシも同様に、飲み終わって空になっていたグラスと新たなジョッキを入れ替えた。  二人で同時に特大のジョッキを勇ましく口に運んでハイボールを喉へ流しこみ、傾けたジョッキをテーブルに戻すとカラリと氷が涼しげ

    • 不適切な取材【ショートショート】

       清美の元に一件のタレコミが入った。 『人気俳優Kの不倫疑惑』  久しぶりの大ネタである。  Kは今や押しも押されもしない国民的な人気を誇っている俳優だ。  戦隊ヒーローの主役でデビューしてから、爽やかなルックスに持ち前の明るい性格、さらには気さくな雰囲気も相まってまたたく間に人気を集め、その名を世間に知らしめた。恋愛ドラマには欠かせない存在であり、ドラマや映画だけでなくバラエティ番組にも積極的に出演してキャリアを順調に積み重ね、その人気を不動のものとし、最新のイケメン俳優ラ

      • ティータイム【ショートショート】

         仕事に出る前の朝のティータイムを、夫は大事にしている。  毎朝仕事に出かける二時間前に起き出して、しっかりと朝食を摂ったあと、いつでも出られるように着替えをし、髪を整え、鞄に必要な物を入れる。すべての準備が整ったところでティータイムは始まるのだ。  夫はティータイムにたっぷり三十分の時間をかける。時間にゆとりを持てない人生を過ごしたくはない、この三十分を作れるか作れないかで心が豊かになれるかどうかが決まる、そんな信条があった。お茶をこよなく愛し、お茶を嗜む時間に心の豊かさを

        • まごころAI【ショートショート】

           この作品は大震災に関する描写が含まれています。気分を害される可能性がありますので、ご注意ください。 エレベーターの扉が開くと、中にいた大勢の人々が吐き出された。「ご利用、誠にありがとうございます。またのお越しをおまちしております」と、淑やかで麗かな女性の声がエレベーターのどこかから発せられている。降りる客ひとりひとりに謝意を表すように、くり返し「ありがとうございます」と述べ、中年の紳士が「ありがとう」と言えば「誠にありがとうございます」と返し、母親に手を引かれた子供が「あ

        平行線《前編》【短編小説】

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        • 花鳥風月
          5本

        記事

          リスペクタール【ショートショート】#シロクマ文芸部

          「閏年となる今年も、またあの商品が帰ってくるようです。販売日を一週間後に控えた本日二月二十二日十時から、予約の受付が始まる模様です。こちらには三人の方にお越しいただいて、スマホを片手に予約開始を今か今かと待っています」  女性レポーターがやや興奮するような調子で告げると、モニターの画面は商品説明へと切り替わった。 「その商品とは——『リスペクタール』。X製薬独自の技術で開発された人間関係補正薬です。二つの錠剤をお互い飲み合うことで、二人の関係が改善されるという特効薬。販売は

          リスペクタール【ショートショート】#シロクマ文芸部

          「あとがき」のようなもの

           読者のみなさま、日ごろ読んでいただきましてありがとうございます。多くの方から「スキ」をしていただき、ご丁寧にコメントまで残していただけることは、作者にとってこの上ない喜びであります。まずは御礼申し上げます。  さて、無名の作家が書くものですので、当然みなさまにはお気付きにならないと思うのですが、人知れず自主企画を進めておりました。  予てより短編連作を執筆したいと思っておりまして、この度は短編ならぬ掌編での連作を試みていた次第であります。  短編と掌編では少々作り方にちが

          「あとがき」のようなもの

          フォトグラファー ~月の段~【ショートショート】

           防風林を抜け砂浜に足を踏み入れると、冷たい北風が顔をなでた。穏やかなさざ波がほぼ一定の調子で音を奏でている。ダウンジャケットを着こんだ吹越颯真は、浜辺の真ん中あたりに「よっこらせ」と言いながら腰を下ろし、仰向けになって煌々と照らす満月を見上げた。空は雲一つない。燦然と輝く星を従えるように月は空の中心に立ち、海に優しく光を落としている。 「今日は、きれいだ」  しわがれた声で、感じ入るようにゆっくりと颯真は呟いた。顔に刻まれた皺は深く、後ろで結わいた白髪は混じり気がなく真

          フォトグラファー ~月の段~【ショートショート】

          風人(かざびと) ~風の段~【ショートショート】

           大きくうねる波が次々と押し寄せる渚に、ボードとセイルを両手に抱えたウィンドサーファーたちがぞくぞくと入っていった。ボードの上に立ち上がると同時にセイルを立て、吹きすぎる冷涼な秋風を目一杯に受けながら、迫る波を乗り越えて沖へと向かっていく。やがてひとりが海岸と平行するように波に乗り始めると、他の選手たちもそれに追随を始めた。  江籠翔は海岸沿いの歩道からカメラを構え、長く伸びる望遠レンズを海へと向けている。ファインダーが捉えているのは、オレンジ色のセイルを操る吹越颯真ただひ

          風人(かざびと) ~風の段~【ショートショート】

          鵜匠 ~鳥の段~【ショートショート】

           じっとりとむせ返るような暑さも、陽が沈んだ川の上では幾分やわらいだようである。夜空に打ち上げられた花火を合図に、一隻の鵜舟が川下りを始めた。篝火に浮かび上がる舟が近づき、観覧船がゆったりと並走を始めると、金咲紫織は祈るような気持ちで胸の前に両手を組んだ。  黒い漁服に腰蓑をまとい、烏帽子を冠った鵜匠と呼ばれる鵜の遣い手が、「ほう、ほーう」というかけ声と共に、十羽もの鵜に繋がれた手綱をしきりにさばき始めた。鵜は次々と川中に頭を潜らせ、嘴で捕らえた鮎を呑みこんでいく。観覧船で

          鵜匠 ~鳥の段~【ショートショート】

          藤色想い ~花の段~【ショートショート】

           池に浮かぶような朱の映える鳳凰堂を背景に、藤棚からしだれ落ちる満開の紫にピントを絞ってシャッターを切った。構図をいくつか変えてシャッターを切り続けながら、星野明はかつて大学時代の女友達と訪れたときのことを思い出していた。穏やかな陽が降りそそぎ、朱と紫が青天に映え、ほのかに甘く香る空気が、遠い昔の記憶を呼び起こしてしまった。  金咲紫織に誘われて京都へ女子二人旅をしたのは大学生のとき、もう二十年近く前のことである。  ゴールデンウィークの休みを利用して訪れた京都は、百花繚

          藤色想い ~花の段~【ショートショート】

          雪化粧かぼちゃ【ショートショート】#シロクマ文芸部

           雪化粧かぼちゃを目一杯つめこんだダンボール箱を抱えて、芳井さんは玄関口で大きな声を張り上げた。 「タキさん。今年もコレ、初物だ」  芳井さんは重そうに、玄関のあがり框にそのダンボール箱をドスンと下ろした。 「あらー、いつもありがとうね」 「なんも、コレができたらまず最初に食ってもらわにゃ」  芳井さんは誇らしげで屈託のない表情を浮かべた。 「こんなに——食べきれないよ」 「そんないっぺんに食わなくたっていいべさ。日持ちすんだから」  惜しみなく届けてくれるこの芳井

          雪化粧かぼちゃ【ショートショート】#シロクマ文芸部

          至高の酒【ショートショート】

           若い男が、グラスに注がれた眩いばかりに輝く琥珀色のウィスキーを口に含むと、満足げに唸った。 「素晴らしい! 実に深みのある味わいですよ。爽やかでありながら、なめらかさもあって、品のある香りが華やかさを醸しだしている」  ひと口ずつ含ませて味わいを確認しながら言葉にしている。やや腰のまがった熟練の主は「そうですか」と、控えめに応えた。  テーブルには蒸留所で造られたいくつものウィスキーと、飲み干されたグラスが並んでいる。そこに新たな飲み終わりのグラスが加わり、男は別の銘

          至高の酒【ショートショート】

          トントゥにご用心【ショートショート】

           たくましい体をした若い男が顔の汗を払うように拭い、立ち上がって室内から出た。  ドアから一番遠く、且つ一番高い場所に座っていた老人は、体中から滝のような汗をしたたらせ、出ていく若者の後ろ姿を眺めながらこう呟いた。 「我慢が足らんな……」  顔には多くのシワが刻まれているが、体の方はしっかりと鍛え上げられていて隆々としている。口まわりには白いヒゲをびっしりと生やし、頭をツルリと剃りあげ、鋭い眼光で直立して腕を組むさまは、まるで老いてもなお戦場に立つ将軍のようである。  

          トントゥにご用心【ショートショート】

          出会いがしら【ショートショート】

           出会い頭によく人にぶつかる男だった。  せっかちな性格で落ち着きがなく、後先を考えるより目の前の起きている出来事で頭は一杯なのであった。  仕事に遅刻するとなったら、まず家を飛び出すなりぶつかり、道路の曲がり角を走り抜けてはぶつかり、電車に乗り込もうと階段を下りたところでぶつかり、会社のエレベーターに乗り込もうとしてはぶつかった。  男は厄年を迎えると、「オマエはそそっかしくて危ないから絶対に厄払いに行った方がいい」と周りから言われた。  せっかちで面倒くさがり屋な男

          出会いがしら【ショートショート】

          プレゼント 〜Giver SIDE〜【ショートショート】

           尿意でふと眠りから覚めた。  便所で用を足しベッドに戻ると、時計は六時十一分を示している。  ベッドでは安らかな表情をした彼女が寝息を立てている。僕が寝ていた場所を向いて布団を胸にかき抱いているが、白い肌の背中はまる見えである。  今日は彼女の誕生日である。  昨夜ホテルに入ってから、プレゼントを渡しお祝いした。彼女に贈ったのは、「サマンサベガ」のハンドバッグだった。  これと決めるのには大いに時間がかかった。  彼女のファッションを観察して趣味趣向を把握し、さらに

          プレゼント 〜Giver SIDE〜【ショートショート】

          プレゼント 〜Receiver SIDE〜【ショートショート】

           隣で彼が、今にもいびきになりそうな寝息を立てている。その表情は穏やかで、一仕事終えた安堵感と満足感で溢れていた。  彼がプレゼントをくれた。  今日はわたしの誕生日で、夕食を済ませたあと日付が変わる前にホテルに入り、買ってきたケーキとシャンパンを用意して午前零時を回るのと同時にお祝いしてくれた。  「Samantha Vega」と書かれた箱に入っていたのはスイートピンクの皮のハンドバッグだった。台形のようなシルエットで広がった裾は巾着袋のように丸くなっている。フロント

          プレゼント 〜Receiver SIDE〜【ショートショート】