目白にメジロはいるのか(小説)
🕊️北条李の鳥の談話室🕊️
第46回(2024年8月号):目白にメジロはいるのか
この原稿を書いているのは暦でいえば夏至(6月22日)、このコラムを載せた雑誌が書店に並ぶのは立秋(8月7日)とのことだ。
8月の上旬、立秋といえども秋とは程遠い酷暑で、野鳥好きの読者のみなさんも辟易しているだろう。なにせ暑い。外で鳥を探すには適さない気候だ。
長野市某所、林の中にある自宅の窓を開けると、渡ってきたばかりの夏鳥がリサイタルを開いている。特に早朝はホトトギスをはじめ賑やかだ。
それを聞くと外で鳥を探したくてうずうずするのだが、近くの山でも熊の目撃情報が相次いでいるので、林には分け入らず、仕方なくベランダで鳥の声を聞いている。
さて、今回は4月号で募集したお題、「鳥の名前がついた地名」にたくさんのお便りが寄せられたので、それを紹介しようと思う。
鳥の名前がついている地名と聞いて最初に思い浮かぶのは、おそらく「目白」だろう。
実は私は十数年前、東京に住んでいた時期に「目白にメジロはいるのだろうか」と興味本位で目白駅で降りたことがある。駅の近くにある公園か街路樹の花の蜜を吸っているメジロを見かけ、満足して帰った覚えがある。
だが目白は別にメジロが地名の由来ではない。同様に目黒の由来はメグロ(小笠原諸島固有種の野鳥)ではないし、同じ東京都でも目黒区にメグロはいないだろう。
このように「たまたま鳥の種名と同じだけで由来は違う」地名が日本中にあるのではないか、というのがこのお題を募集することになったきっかけだ。
むろん、直接鳥が由来の地名もあるだろうが、開発など環境の変化で今はその鳥がいない場合もある。
そのため、鳥の名前がついた地名(日本の野鳥でなくても可)を募集し、同時にその地名がある土地の環境や地名の由来を読んだ上で、その地にその鳥がいるかどうかを好き勝手議論するコーナーとした。
それでは早速、紹介していこう。
刈蒲生(かるがも)
先日ハイキングに行った際に見かけた地名です。近くに池もありました。ガイドマップによるとガマがよく生えていた土地とのことなのでそれが由来かもしれません(PN:マイタケ)
(コメント)
漢字といい音といい、水辺を想像させる名前だ。水深は浅く、様々な水生植物や藻が生えている池が頭に浮かぶ。実際池があるそうなのでカルガモはきっといるだろう。
山柄町(やまがらちょう)
職場の住所です。山柄氏という武家の屋敷があった場所らしいです。今はごく普通のオフィス街なので、ヤマガラがいるかはわかりませんが。(PN:アシモフモフ)
(コメント)
ヤマガラの好物といえば松ぼっくり。オフィス街でも公園などに松の木などが植えられていれば、ひょっとしたら飛来するかもしれない。「雀」がつく地名はいくつかある「カラ」と読ませる地名は見かけない。一方で「雲雀(ひばり)」と読ませる地名は多いのは不思議だ。
八色町(やいろちょう)
地元にある地名。ヤイロチョウという鳥の存在を知るまでは普通に見ていたが知ってからは見る目が変わった。由来はヤイロチョウとは関係ない(八種類の作物を育てていたからとか何とか)ようだが、今も昔も自然豊かな土地なので、もし飛来していたらとても嬉しい(PN:キョウジョシギ大好き)
(コメント)
ヤイロチョウ。絶滅危惧種の珍鳥だ。いないとは言い切れないがいたらかなり驚きだ。そのような珍しい鳥の種名とぴったり同じ名前の地名があるというのは、運命めいたものを感じる。
黒佐木山(くろさぎさん)
中学校の校歌にも出てくる地元では有名な山。中二病発症してたので「黒鷺......かっけえ」と思ってたけどよく考えたら字が違う。由来は不明だけど近くに湖がある(PN:銀次)
(コメント)
クロサギは海岸にいる鳥なので山にも湖にもおそらくいないだろう。それはそれとして、「黒鷺山」という山は創作物の中に出てきてもおかしくない響きがある。何か事件が起きそうな予感を感じさせる。
蜂隅(はちくま)
珍しい名前だなと思っていましたが調べたら同じ名前のタカがいるとのことで驚きました。蜂隈神社という神社もあります。地名の由来は昔養蜂が営まれていたからとか、諸説あるそうです。今は住宅地です(PN:千夜一夜)
(コメント)
ハチクマは森林に住み蜂の巣を襲って蜂を食べるタカだ。普通の住宅地にはいないだろう。
かつて養蜂が盛んだった町の蜂隈神社と聞き「スズメバチなど肉食性の蜂を好むハチクマを、ミツバチの天敵を食べてくれるとありがたがって祀った」というストーリーが浮かんだが、さすがにそれは都合が良すぎる。
青鳩町(あおはとまち)
有名なビーチがある街で、名前に似ているというか由来もちゃんとアオバトという鳥らしいです(駅前に鳩の銅像がある)。でも見たことはありません(PN:北浜加美)
(コメント)
アオバトは森に住んでいるハトだが、塩分補給のため海岸で海水を飲むことがある。その姿を見て名付けられた地名ということだろうか。観光地化しているとアオバトも警戒して飛来しないかもしれないが、是非探してみてほしい。
菊冠(きくいただき)
地名の由来は、母親の実家があるので祖母に聞いてみましたが昔は農村で菊を育てていたからじゃないか、とのことでした。昔は蛍がいるくらい自然豊かだったらしいですが、今はマンションが立ち並び虫もあまりいません(PN:マシュマロ犬)
(コメント)
「冠」と書いて「いただき」と読む、というのがまず変わった読みだ(確かに”冠“は”いただく“ものだ)。洒落た地名をつけたご先祖様がいたものである。キクイタダキは森林に住む、日本最小と言われる小鳥だ。名前の通り菊の冠を被ったようなその鳥は開発された住宅地では見られないだろう。お祖母様にもよろしくお伝えください。
家鴨館(あひるだち)
日本の野鳥じゃなくてもいい(ペンギンとかでもいい)とのことなので。実家の住所(住宅地)ですが、「近所にアヒルなんていないよなあ」と子供の頃から思っていました。由来は地元の有力者が家鴨を飼っていたから、らしいですが...…(PN:ちくわの天ぷら)
(コメント)
「家鴨館」とはいい響きの地名だ。ペンギンは流石にないだろうと思っていたが、身近な家禽として鶏や家鴨は地名に入っているのだろうか。野生化したアヒルがいては困るが、君がアヒルを飼えば、「アヒルが実在する家鴨館」にできるぞ!
鳥の名前がついた地名を見てその鳥がいるか想像するコーナー、いかがだっただろうか。
名前を見るだけで景色とそこに住む鳥が浮かぶ、そんな地名もあれば、「なぜこの鳥の名前を……?」と言いたくなる(その場合、鳥の名が由来ではないのだろう)地名までさまざまだった。
また、地名をつけた当初は「名は体を表す」状態でも、土地の開発など環境の変化により、実態に則さない名前になることもある。もし今、身近に鳥の名がついた地名があるなら、そこに住む生き物についても、思いを馳せてみてほしい。
ここで紹介できなかった投稿も全て興味深く読ませてもらった。お便りをくれた皆さん、ありがとうございました。
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架空の作家だけでは飽き足らず架空の野鳥雑誌まで創刊してしまった...…次回は「鳥」と「白」をテーマにした小説を9月に更新予定です(とらつぐみ・鵺)