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コピーライティングにおける「書く」ということ。

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せっかくなので、広告文(コピー)を切り口に、「書くこと」を見つめてみました。 noteであまり見ない「文体」についても考察します。
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ひとかけ、ひとかけ、一粒、一粒、噛みしめて味わい、飲みこんで、神事の如く我が命に届ける。 

ひとかけ、ひとかけ、一粒、一粒、噛みしめて味わい、飲みこんで、神事の如く我が命に届ける。 

■病床を知らぬ男の病床もちろん食べ終わって「何が入ってた」と訊かれ
口にした食材を言えないなどという鈍感な対応は
なるべく避けるよう料理に向き合ってきたつもり
だったが、この20日ばかりは、それがより鋭敏に
研ぎ澄まされクローズアップされた感覚だった。

約3週前に新型コロナウイルス陽性と告げられた。

感染後は喉が痛く声も出ず薬も飲めなかったが、
それでも「命」なる言葉が大袈裟なのは承知だ。

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古今亭志ん朝の口調で読む芥川龍之介「鼻」(3)。~コンプレックスと向き合う

古今亭志ん朝の口調で読む芥川龍之介「鼻」(3)。~コンプレックスと向き合う

人並み外れて長く垂れ下がった「鼻」を持った僧侶・内供の
顛末を描いた芥川龍之介の小説を、二代目古今亭志ん朝の口調で綴る
3回目は、この僧侶が悩みを超えて何とかコンプレックスから逃れようとする姿を語る。

■苦悩する内供
しばらくしますってぇと内供は、内典外典という仏教や儒教の書物のなかに自分と同じような鼻の人間を見つけて、せめてものなぐさめにしよう、なんてことまで考えた。
しかしねぇ、目連や、舎利

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古今亭志ん朝の口調で読む芥川龍之介「鼻」(2)。~劣等感との闘い

古今亭志ん朝の口調で読む芥川龍之介「鼻」(2)。~劣等感との闘い

人並み外れて長く垂れ下がった「鼻」を持った僧侶・内供の
顛末を描いた芥川龍之介の小説を、二代目古今亭志ん朝の口調で綴る
2回目は、この僧侶の涙ぐましい鼻との闘いを描く。

■長い鼻が短く見える方法
まず内供の考えましたのが、自分の長い鼻を見た目より短く見せる方法だったようで。

人のいない時を見計らってね、鏡へ向って、こう、いろんな角度で顔を映しまして、それはもう熱心に工夫を凝こらして見た。どうか

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古今亭志ん朝の口調で読む芥川龍之介「鼻」(1)。~長い鼻による苦悩

古今亭志ん朝の口調で読む芥川龍之介「鼻」(1)。~長い鼻による苦悩

これは、人並み外れて長く垂れ下がった「鼻」を持った僧侶が、
そのコンプレックスに悩み、悪戦苦闘しつつ新たな境地を迎える物語だ。
語り手は三代目古今亭志ん朝、かの六代目三遊亭圓生をして
「将来、三遊亭圓朝を継ぐとしたら、この人です」と言わしめた
早逝の噺家。私が最も大好きな噺家で、高校の落研時代、何度も
“志ん朝落語”を演じていた。私の脳裏に刻まれた、その志ん朝の語りで、
芥川龍之介の「鼻」を綴る。

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8つのトーンで枕草子_文章のトーンを変える(8)古今亭志ん朝口調で

8つのトーンで枕草子_文章のトーンを変える(8)古今亭志ん朝口調で


「文章のトーンを変える」8回目は、これまで通り「枕草子」現代語訳を
原文(一般的な現代語訳を私的にアレンジ)に、落語口調で、
と言うより、私の大好きな古今亭志ん朝口調で書いた。

■私と古典落語
私は高校時代、古典落語研究会に所属し、3年次には先輩の芸名を継いで五代目隆遊亭武生(りゅうゆうていぶしょう)として襲名披露も行った。社会人になっては「日本社会人落語連盟(JARA)」に入会し、いまはな

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7つのトーンで枕草子_文章のトーンを変える(7)ハルキムラカミ風に

7つのトーンで枕草子_文章のトーンを変える(7)ハルキムラカミ風に

「文章のトーンを変える」7回目は、
これまで通り「枕草子」現代語訳
(一般的な現代語訳を私的にアレンジ)を
原文に、
村上春樹さんを意識したテイストで書いた。

私はある不動産広告で
およその内容が書かれた文章を渡されて
「小説風に書いてほしい」
と依頼されたことがある。
しかし結局、オーダーの意図は、
ただ硬い文体を陰影のある高尚なトーンに
してほしかった、ということだった。
コピーライターへの

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「繰り返しネーミング」調査。

「繰り返しネーミング」調査。

“単語や音の繰り返し”という形式で作成されたネーミングを
勝手に「繰り返しネーミング」と呼んで、
ずいぶん前から当社WEBサイトで掲載していたのですが、
http://www.present-inc.com/monthly/049.html
noteで紹介したいと思います。

とりあえず50音の各行別に事例が揃った段階のまま進んでおらず、
有名ブランドで記載されていない事例も多々あり、逆に誰もが知

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6つのトーンで「枕草子」_文章のトーンを変える(6)スノビッシュに

6つのトーンで「枕草子」_文章のトーンを変える(6)スノビッシュに

「文章のトーンを変える」6回目は、
これまで通り「枕草子」現代語訳
(一般的な現代語訳を私的にアレンジ)を
原文に、
スノビッシュなトーンで書いた。

スノビッシュ。

辞書的に言えば、
上品ではなく「上品ぶった」、
「教養・知識などを鼻にかけた」、
などの意味になるが、
私は一度
「スノビッシュなトーンで書いて」と
コピーをオーダーされたことがある。
兵庫県宝塚市にあるホテルの婚礼パンフレットの

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5つのトーンで「枕草子」_文章のトーンを変える(5)社史の文体で

5つのトーンで「枕草子」_文章のトーンを変える(5)社史の文体で

「文章のトーンを変える」5回目は、
これまで通り「枕草子」現代語訳を
原文(一般的な現代語訳を私的にアレンジ)に、
「社史」のトーンで書いた。

社史とは文字通り会社の歴史で、
一般的には10年、20年、30年などの節目の年に刊行する。
ライターが書く場合が多いと思われ、
純粋にコピーライターの仕事という訳ではないが、
私はこれまで5社の社史を書き、
業界トップの某社50周年史では、
現社長への2

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文章のトーンを変える(4)話し言葉で_4トーン比較

文章のトーンを変える(4)話し言葉で_4トーン比較

「文章のトーンを変える」4回目は、
これまで通り「枕草子」現代語訳を
原文(一般的な現代語訳を私的にアレンジ)に、
女性の口語体に変えて書いてみた。

コピーライターの仕事で言えば、インタビューを行わずアンケートへの
回答をもとに、これを想像で補いながら話し言葉に変換して書くことが
ある。ここでは、その工程を「枕草子」の書き言葉をもとに実践してみる。

既に(1)やさしく(2)硬質に(3)ドキュメ

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リライト論[第一章]「リライト」について

リライト論[第一章]「リライト」について

一般の方にとっては、あまりなじみのない言葉かもしれない「リライト」について書きたい。
試みにYahoo!検索をするとウイキペディアをはじめ、「リライト」を
説明しているページはもちろん存在するが、ごく普通の方がブログや
ツイッターでよく使うような言葉でないのは、検索結果からでも分かる。
リライト(rewrite)という言葉は和製英語ではなく「書き直す」という
意味のれっきとした英語だ。一度書いた文

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リライト論[第二章]リライトの定義(1)トーンを変える

リライト論[第二章]リライトの定義(1)トーンを変える

広告制作におけるリライトとは本来、「元となる一つの文章を(1)内容は変えずにトーンを変える。(2)内容は変えずに字数を変える(増減する)。(3)内容は変えずに文章を整える。(4)内容は変えずに一定の情報を削除あるいは追加して文章を変える。」。

以上であると考える。ここで重要なのは「元となる一つの文章」という点だ。複数の文章ではない。ある別の人物(あるいは自身の場合もある)が書いた、元となる一つの

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文章のトーンを変える(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく

文章のトーンを変える(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく

(1)(2)で展開した
“やさしいトーン”と
“硬質なトーン”。
通常、広告で求められるのは、どちらかです。
次は、「枕草子」の現代語訳[原文A]を、
“ドキュメンタリーの冒頭のようなトーン”に変えてみます。

これはあまり一般的ではありませんが、
「ドキュメンタリーみたいなタッチで」というオーダーを
出されることはあり、私は実際にMRのインタビュー集の
コンセプトコピーや、周年パーティで使う

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文章のトーンを変える(2)硬質に

文章のトーンを変える(2)硬質に

硬質な文章トーン“やさしいトーン”の次は、「枕草子」の現代語訳
[原文A]を、“硬質なトーン”に変えてみます。
「枕草子」がそもそも逆の世界で、
広告に適当な事例はないのですが、
一般的には、B2Bの機械や車輌、
自動車などもその範疇に入るかもしれません。
ここでは「硬質」を演出するために、
「である調」と言われる「常体」を採用し、
トーン

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