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文章のトーンを変える(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく

(1)(2)で展開した
やさしいトーン”と
硬質なトーン”。
通常、広告で求められるのは、どちらかです。
次は、「枕草子」の現代語訳[原文A]を、
“ドキュメンタリーの冒頭のようなトーン”に変えてみます。

これはあまり一般的ではありませんが、
「ドキュメンタリーみたいなタッチで」というオーダーを
出されることはあり、私は実際にMRのインタビュー集の
コンセプトコピーや、周年パーティで使う
動画ナレーションをこのトーンで書きました。
「枕草子」の世界を多少離れますが、
ドキュメンタリーっぽいイメージで書いてみました
(書き手の思い入れが若干、減っています)。
あなたのドキュメンタリーのイメージと違っていたら、
ごめんなさい。

春は、夜明けにまず指を折る。
世界が、徐々に白んできて、稜線のラインを引かれた空が、
明るさの容量を増して、
淡い紫色に染められた雲は、細くたなびくように形を変えて流れる。

夏は、夜の魅力が満開となる。
月が美しく輝く日はもちろん、新月も負けてはいない。
たくさんの蛍が交差するシーンも、
わずか一匹二匹が、精一杯の光を放って夜に浮かぶ場面にも
心奪われる。もちろん、
音を絞った雨が闇に溶け込むのを、目をとじて聴き入るのも自由だ。

秋は夕暮れにこそある。
赤々とした夕陽が、山と夕空の境を染め上げて、
古巣へ向かう烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぎながら羽ばたく情景は、
心に沁み入る。
まして、列を成してはばたく雁が、遠くに模様のように
刻まれる景色には、思わず瞳を動かすのを忘れる。
日が落ちて陰影を濃くし、風の音、虫の音などが空気を震わせる頃など、
言葉を忘れさせてしまう力を感じる。

冬は、明けて間もない朝。
雪降る朝、そして一面に白いベールがかかる霜の朝も、
身震いするような夜明けに、大急ぎで起こした炭火を
運んで回る動きにも、冬がある。
昼を迎えて、いつの間にか寒さがどこかに消えてしまう頃、
火鉢の炭火は白く灰をかぶるようになって、心動くことはなくなる。

これまでの二つのトーンと元となる原文~比較のために

今回は、“やさしいトーン”と“硬質なトーン”の2タイプを
両方とも改めて記しました。
違いがどこまであるか、あるいはないか。
ご興味がある方は比べてみてみてください。

まずは「やさしいトーン」から。

(1)【やさしいトーン】

春は、夜明けがいい。
窓の外がゆっくりと明るくなって、
遠くに見える山が空と溶けあうあたりが、
ほんのりとあたたかくて、
淡い紫色に染まった雲が、
細くたなびくような景色もたまらない。

夏は、夜がすき。
月がきれいな日はもちろん、新月もいい。
たくさんの蛍がふんわりと飛ぶ姿も、
ほんの一匹二匹が、ちいさく光りながらただようのもいい。
雨がしっとりと降るなかで感じる闇も、すき。

秋は夕暮れにうっとり。
夕陽の赤が空を染めて、いまにも山にかくれそうなとき、
なじんだ巣へ帰る烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぐうごきにさえ、
じんわりとする趣があって。
もしも連なってはばたく雁が、
遠くに小さく見える景色に出合うときには、おもわず見とれてしまう。
日がすっかり落ちて、風の音、虫の音などがひびく時間は、
もう言葉になんてできない。

冬の朝は早いほどいい。
雪が降る日はもちろん、霜がいちめんに白く降りても、そうでなくても、
こごえるように寒い夜明け、大急ぎで起こした炭火を
運んで回るうごきは、とても冬の朝らしい。
昼になっていつの間にか寒さがゆるんで、
火鉢の炭火が白く灰につつまれてしまってはつまらない。

次に硬質なトーンを意識して書いたのが下記です。
(2)【硬質なトーン】

春は、夜明けを推す。
外が徐々に白み、稜線で切り取られた空が少し明るさを帯びて、
淡い紫色に染まる雲が、細く横に移動するような景色が好みだ。

夏は、夜だ。
月が美しい日は無論だが、新月も格別である。
多くの蛍が飛び交かう様も、
僅か一匹二匹が、幽かに光りを放ちながら
飛ぶ風情にも心動く。
雨が静かに降る闇の中も好きだ。

秋は、夕暮れが一番である。
夕陽が赤々と射し、山の輪郭に今にも沈むかという瞬間、
古巣へ向かう烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぐ状況さえ、
深い感慨に満ちた趣がある。
まして、連続して飛ぶ雁が、
彼方に小さく見える景色には胸躍る。
日が完全に落ち、風の音、虫の音などが反響する時間は、
言葉で表現不可能なほどだ。

冬は、早朝と言える。
雪が降る朝は言うまでもないが、
霜が一面に白く降りている朝も、そうでなくても、
凍えるように寒い夜明け、瞬時に起こした炭火を
運んで回る過程は、いかにも冬の朝だ。
昼が来ていつの間にか寒さが落ち着き、
火鉢の炭火が白く灰に覆われる段階に至っては失望する自分を感じる。

(3)[原文A『枕草子』自己流訳]

さて、元にしたのは前回と同じく
下記の[原文A]です(インターネットの内容を自分で表現し直しました)。

[原文A]
春は、夜明け。
あたりがだんだんと白んで、
稜線で切り取られた空がほんのりと明るくなって、
淡い紫色に染まった雲が、細くたなびくような景色がいい。

夏は、夜。
月がきれいな日はもちろん、新月もいい。
たくさんの蛍が飛び交かう情景も、
ほんの一匹二匹が、ほのかに光りながらただようのもいい。
雨が静かに降る闇にいるのも好きだ。

秋は、夕暮れ。
夕陽が赤々と射して、山の輪郭にいまにも沈もうというとき、
古巣へ帰る烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぐ風景さえ、
しみじみとした趣がある。
まして、連なってはばたく雁が、
遠くに小さく見える景色はたのしい。
日がすっかり落ちて、風の音、虫の音などが響く時間は、
言葉に尽くせないほどだ。

早朝こそ、冬だ。
雪が降る朝はもちろん、霜がベールのように白く降りている朝も、
そうでなくても、間違いなく引き付けられよう。
凍えるように寒い夜明けに、急ぎ足で起こした炭火を
配りながら巡る動きは、いかにも冬の朝らしい。
昼になっていつの間にか寒さが緩んで、
火鉢の炭火が白く灰をかぶってしまっては興ざめだ。


「トーン」については、こちらのnoteでも語っています。
リライト論[第二章]リライトの定義(1)トーンを変える  

「文章のトーンを変える」は、
4回目のトーンを、いま考えているところです。

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