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好きな記事、好きな小説、好きな文体

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個人的に好きな記事や小説や文体。個人的に注目している書き手、活動。
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#小説

【小説】 神様のことなんですけど、

【小説】 神様のことなんですけど、

 風に揺らされた草は乾燥が進んでいるように見えた。それが足首を撫でて痒かった。
 しゃがんで、指先でつまんで擦ってみる。砂のように粉々になると思ったのに、割れるみたいにして千切れた。さっきまで繋がっていた箇所からは、水分が滲み出ている。生きているワタシに何をするの、と怒られた気がして、思わず手を離した。
「あら田町さん、こんにちは」
 明るい声に呼ばれて、弾かれたように顔を上げる。アパートの門の内

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「初めての人生の歩き方――毎晩きみにラブレターを」第420話:今夜は春巻き。

「初めての人生の歩き方――毎晩きみにラブレターを」第420話:今夜は春巻き。

初めまして。小説家と詩人とシンガーソングライターを目指して日々色んなことにチャレンジしている有原悠二と申します。
詳しい自己紹介はこちらから⇒https://html.co.jp/yuji_arihara

〇日記 家に帰ると、春巻きが待っていた。しかも、生春巻きではなく、油でカラッと揚げた中華系の春巻きだった。私は春巻きが大好きなのだ。だから、家に帰って、しかも仕事をして、更に大量のお肉をメガド

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【小説】 Draw Your Rainbow

【小説】 Draw Your Rainbow

 「虹描きは、不要不急です」
 そう、文科省のお偉いさんに言われた楓は激怒していた。
 「たくさんの人々が家に拘束されている今こそ、虹を描かなきゃいけないんです!」
 それでも、先方の言い分は一向に変わらなかった。
「疫病の蔓延を抑えるために、不要不急の外出は控えてください」
 壊れたレコードのようにそう繰り返すので、楓は怒りに任せて電話を切った。

 だめだ、埒が明かない。月読さんに電話しよう。

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【ショートストーリー】三条大橋の男

【ショートストーリー】三条大橋の男

「お母さんおおきに。行ってきます」

兎の結は、タクシーにのって、街から少し遠い料理屋のお座敷へ向かった。 

料理屋につくと、すでに地方の姉さんがたがついていて、一番下っ端の卯の結(うのゆう)は慌てて挨拶をした。

どうやら今日は、舞妓は卯の結一人だけらしい。

お座敷はいつもどおり進んでいき、5、6人の客も、芸妓の姉さんも酔いが回ってきたころ、卯の結は、自身に向けらている熱い視線に気がついた。

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恋の行方はフルスイングの果てに

恋の行方はフルスイングの果てに

そんな綺麗で聡明な女の子と釣り合う訳がないんだよ、僕は。



高校で世界史の教師をしている。授業の評判は普通。寝る生徒はいないけど発言する生徒もいない。僕としては静かに授業が出来れば御の字。

時々隣の教室から盛り上がる様子が聞こえる。現代国語の佐内先生。授業がおもしろいらしい。作文の授業。出だしが良ければ本文を書かなくても「良」以上。でも、この三つを超えるものを出したらの話。

「吾輩は猫で

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【掌編】簑沢さんの話をします。

【掌編】簑沢さんの話をします。

簑沢さんとは高校二年の一年間、同じクラスでした。

簑沢さんは、目立たない女の子でした。
年頃の男子にありがちな、「クラスで誰が可愛いか」といった論争にも、簑沢さんの名前が挙がることはありませんでした。決して、顔立ちが整っていないわけではありません。長い黒髪は艶やかで、白い肌に、おはじきのような黒い目と慎ましい鼻、さくらんぼサイズの唇が載った様は、十分にチャーミングなものでした。多分。そう、多分で

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【SS】兎の罠

【SS】兎の罠

巣穴から子兎が頭を出した。

自慢の長い耳。
どんな音でも聞き分ける。

風のざわめき、鳥のさえずり、猟師の足音。

「くれぐれも罠には気をつけるんだよ」
巣穴の奥から、母兎の声がした。

「もう子どもじゃないよ。罠なんか平気さ」

子兎は巣穴を飛び出した。
日差しがまぶしい。

元気に山を駆けまわる。
罠を見つけると、小枝を使って壊した。

一日中遊びまわった。

子兎が遊び疲れて帰ってみると 

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【小説】 つぎのおはなし

【小説】 つぎのおはなし

「ゆうちゃん、もうおしまい。帰るよ」
 そう繰り返す私の声は、徐々に厳しくなっていった。

 それは、入院している父を見舞いに行った帰りのこと。病棟の来客スペースにあるテレビを食い入るように見つめる二歳の息子は、一つのことに熱中しだすと、なかなか次の行動に移ってくれなかった。
「お母さん、これから買い物行かなくちゃならないの。はやくして」
 無駄だと分かっていても、イライラしてしまう。もうちょっと

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小説の一行目で好きになれる

小説の一行目で好きになれる

小説を読むとき
最初に目にする文章のことを「書き出し」という。

「メロスは激怒した」や「吾輩は猫である」みたいに、もはやタイトルに匹敵するぐらい有名で誰もが知っている文章もある。

この書き出しがすごく好きなのだ。
むかしむかしに読んだ本でも、この書き出しが頭に残っているものがあるぐらいには好き。

ちなみに、書き出しは作者によって全くもって異なる。

単純な状況描写であったり
すぐに主人公の視

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【小説】道楽サンタのいない家

【小説】道楽サンタのいない家

「大変申し訳ないんだけど、真白を少し預かってほしい」
 紅を差した口元がそう言い残して、妹は行方を晦ました。悪趣味な毛皮のコートを着て、足元は赤いハイヒールだった。からりと晴れた十一月二十三日のことで、音信不通のまま、もうじき一ヶ月になる。実に嘆かわしい理由に違いなく、恐らく新しい男ができたのだ。何か事件に巻き込まれたとしても自業自得に他ならない。誰が同情するものか。野垂れ死んでしまえ。
 けれど

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【小説】レジスマイル開運化

【小説】レジスマイル開運化

「あそこのご主人、乗せてるのよ」
「ああ、分かります」
 立ち話の中で私がそう答えたのは、前髪の不自然な生え際を思い出してのことです。
「この前エアコンの修理に来てもらったら二万五千円。びっくりしちゃった」
「ああ、そっちですか」
 小首をかしげるご近所さんを見て、私は笑いをこらえました。
 仕入れから金額を上乗せするのは商売の鉄則ですが、その塩梅を誤ると、消費者に不快感をもたらしてしまいます。

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フィルモア通信 New York Seiji&Huberts going going gone.

フィルモア通信 New York Seiji&Huberts going going gone.

セイジ、ニューヨークタイムス、ぼくらの手

 セイジさんは日本の大企業から在米駐在としてニューヨークにやってきた。そして何年か後アメリカ永住権を取得して会社を辞め、四十歳を前にして料理の道に入った。当時アメリカでは最高峰の料理学校、ニューヨークアップステートにあるCULINALY INSTITUTE OF AMERICA 通称CIAは授業料も高く基本的に全寮制なので除隊補助でもないと自力でやるしか

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[38日後はお月見🌕]  noteでお月見コンテスト開催

[38日後はお月見🌕]  noteでお月見コンテスト開催

お互いの距離を保ちながら皆との共通体験が楽しめる「お月見」。 #新しいお月見プロジェクト の準備を始めてから私も夜空を見る機会が増えました。月の形の変化や明るさの変化に気づくようになり、改めて「これまで本当に月を見てこなかったんだなぁ」とひとり反省しました。

そんな私のように、これまでお月見と全く接点がなかった方が、
・今年はすこしだけ月を眺めてみる、とか
・今年はちょっと月を見ながら食事やお酒

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砂男さま、登場。

砂男さま、登場。

noteを始めて2ヶ月が経過した。
とにかく最初はある程度のクオリティを保ちながら、2日に1度は書くことを目標にした。

書き終えると、当然のことながら記事の反応が気になり、3分に1度のペースでチェックし、反応がないと溜息を漏らした。
自分の記事が少ないことが恥ずかしくて、書いては予約投稿、書いては予約投稿を繰り返し、明日が来るのを待ちわびた。

少しずつコメントがつき始め、皆さまの記事を読める余

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