山羊的木村

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  • #真夜中インター まとめマガジン

    • 120本

    インターネットで創作するたのしむ文芸誌「真夜中インター」のまとめです。 #真夜中インター ネットで出会うような、あなたの創作とのエピソードをまとめます!

  • さよなら炒飯!収録マガジン

    さよなら炒飯! 収録マガジン

  • 夜空の果てまで

    サイドブレーキを引きながらも、ここではない何処かへ行こうとしているnoteを集めました。 今日も明日も明後日も生き延びましょう。そしてどこかでお会いしましょう。

  • 山羊的小説集

    山羊アンテナ木村 小説全集(2020/6/20~全1巻) 27本収録 ¥0

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28歳

28歳。新卒で入った都内のセールスプロモーションの会社を辞めた。退勤は毎日23時を廻る。時折会社に4日間ほど泊まり込む。そんな勤務は少しずつ身体と頭にダメージを与えた。辞めると定収入が途絶えるのでバイトでつなぐ。学生の時にもやっていたテニスインストラクター。それだけでは厳しい。大学同期のKが家業のビルメンテナンス会社に入っていた。声を掛けてくれた。うちでバイトしないか? 新大久保にある小さな会社。少人数で現場を廻る。社名にビルメンテナンスとあるが、要は何でも屋だ。公共施設や

    • その人の歴史。「ナースの卯月に視えるもの」感想

      僕は療養病棟がある医療法人で働いている。 と言っても現場である医療や介護に関わらない。ITとか購買とか。時折各施設の病棟に出向き、師長さんと延々話をする時がある。大抵「あー、すみません、それ、こちらからの連絡が行き届いてなかったですね」などの話。 (師長さんたちは出来た人たちが多く、ほとんど「いえいえ、こちらも確認不足ですみません」で終わる。ありがたい) ずいぶん前だが病棟をうろうろしていた時、顔見知りの看護師さんが僕に近寄って来た。 「悪いんだけど、あの方の傾聴お願いして

      • 清潔で、とても明るい場所「クリームイエローの海と春キャベツのある家」感想

        「清潔で、とても明るい場所」はヘミングウェイの短編。俺的短編ランキングベスト3に入る。前に小説の様な感想文を書いたことがある。 ベスト3のあと2つ。迷う。 村上春樹「ハナレイ・ベイ」 村上龍「空港にて」 レイモンド・カーヴァー「僕が電話をかけている場所」 フィッツジェラルド「氷の宮殿」 サリンジャー「バナナフィッシュにうってつけの日」 あと20編ぐらいかな。 「清潔で、とても明るい場所」は自殺未遂の老人が深夜のカフェという「しん」とした、清潔な宿り木の様な場所にいる所

        • さよなら炒飯!最終皿 

          朔ちゃん。 中華鍋に炒飯がある。温めれば美味く食べれるはずだ。今は中華鍋にも使えるバーナーがあるのな。凄い火力だぞ。俺の空白の十年間にキャンプ用品も進化していた。炒飯作るのが上手くなったから是非食べて欲しい。そしてここが問題だ。朔ちゃんは必ずここに来てくれる。しかしいつ来るかわからない。でも俺の炒飯は食べて欲しい。 朔ちゃんがいつ来てもいいように毎日炒飯作ることにした。毎日三食炒飯だ。今、俺の体は炒飯でできている。炒飯が手紙書いている様なもんだ。 いろいろ順番がばらけるが許し

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        記事

          さよなら炒飯! 三十二皿目 次回最終回

          コンビニでビールと冷凍の枝豆を買う。 「冷凍の枝豆?何で?今日って結構秋だよ?」 優衣ちゃんが珍獣を眺めるように言う。 「嶋津とよく枝豆食べたんだよ。並木は皮ごと食べてた」 「え?皮ごと?どういう意味?」 「いろいろ意味がある気がするけど。今度聞いてみて」 優衣ちゃんは「三人、頭おかしい。絶対頭おかしい」とつぶやいて車に乗った。ビールは四本買った。いつもの四杯。 刈り取りが終わった田んぼの中を走り、山の中に入っていく。常緑樹に覆われ道が薄暗い。カーブが続き見通しが効かない。

          さよなら炒飯! 三十二皿目 次回最終回

          さよなら炒飯!三十一皿目

          店の中はボサノバとかジャズとかスターバックスらしいBGMが流れている。体を少し動かすとあちこちの筋肉がこわばっていた。ずいぶん時間が経ってから優衣ちゃんが言った。 「息、していなかった」 スタンドで何か買おうと席を立ったら優衣ちゃんが僕のジャケットの裾を掴んでついて来た。 「あんな怖い思いしたのに、一人にしないでよ」 そうだった。優衣ちゃんはキャラメルフラペチーノとチョコレートのスコーンを選んだ。僕も同じものにする。何かを選ぶ事が出来なかった。 「そんなことより優衣ちゃん、モ

          さよなら炒飯!三十一皿目

          さよなら炒飯!三十皿目

          「朔ちゃんは聞きたいことまだあるでしょ。何で僕だけ捕まったんだって」 ヤン君はその棒のようなものを三回ほど左手の人差し指でなで、また内ポケ ットにしまった。僕は優衣ちゃんを連れて来たことを心から後悔した。僕だけが捕まった事はもうどうでもよかった。聞きたいことは聞いた。ただ、ヤン君は喋りたい。喋ることは彼のストレス値を下げる。僕たちに活路が見いだせるかもそれない。 「警察の動きは把握していたはずだった。でも急だった。僕らはいつでも動けるようにしてた。だから何とかなった。それでも

          さよなら炒飯!三十皿目

          さよなら炒飯!二十九皿目

          「日食の史跡からここまで来るなんて朔ちゃんなかなかやるね。あ、朔ちゃんじゃないのか。このお嬢さんだったね」 ヤン君だ。 店の中から音が消えた。そんな気がしただけだ。音が消えるわけがない。優衣ちゃんはヤン君を一切見ずに席を立ち、ソファーテーブルを回りこんでゆっくりと僕の横に来た。ヤン君に目を合わせず下を向いてマロンカシスフラペチーノを飲んでいる。 ヤン君は優衣ちゃんに目を遣りソファに座った。そのまま沈黙が続いた。 ヤン君は一目で上質とわかる濃紺のスーツに濃紺のタイ。黒のストレ

          さよなら炒飯!二十九皿目

          さよなら炒飯!二十八皿目

          優衣ちゃんはさっきまで使っていたデスクトップではなく、僕が金龍飯館で使っていたノートPCを使っている。プロジェクターに映す必要がなければ、こっちの方が使い勝手が良い。優衣ちゃんは家ではmacbookairを使っているらしい。「あっちのデカイのはキーボードががしゃがしゃして使いにくい」と言う。皆で優衣ちゃんを囲む。 優衣ちゃんはニヤニヤしながらテーブルに転がっていた赤いUSBメモリを差そうとした。 「ちょっと、それアイツの裸踊りでしょ」 「あんなにおもしろいものを一回しか見れな

          さよなら炒飯!二十八皿目

          さよなら炒飯!二十七皿目

          「でも伊能忠敬の史跡もあるけど」 「伊能忠敬は十七年にわたる測量期間中に日食月食の観測を計十三回試みている。だから忠敬の史跡もある意味日食に関係しているの」 由美ちゃんは楽しそうだ。 「ん? ちょっと待って。伊能忠敬は今の測量技師が田んぼや宅地を測ることを日本全国でやったわけだよね、海岸沿いを歩いて縄とか鎖とかで距離と角度を細かく測ったんだよね、なんで日食とか月食なの?」 「測量って計測するその地点が地球上のどこにあるかも大切なわけ。それって緯度と経度でしょ。伊能忠敬は緯度を

          さよなら炒飯!二十七皿目

          さよなら炒飯!二十六皿目

          生徒たちが優秀で、資産形成の話は一時間もかからなかった。サンドウィッチを摘まみながら最近の中学受験の話をしていると、優衣ちゃんがそれをぶった切る様に言った。 「それにしても行方不明の嶋津くんはどこに行ったのかな」 「元気でどっかでやってるよ」僕が言った。 「サンタの片割れでしょ?そんな冷たいこと言っちゃだめじゃない。私、初めて行方不明の捜索をするんだから。探そうよ」 「そうか。俺たちは二回目だな。嶋津が一人で二回だけど」並木が言う。 「優衣、事情ってものがあるんだから」由美ち

          さよなら炒飯!二十六皿目

          さよなら炒飯!二十五皿目

          前の日の雨が街の埃をあらかたぬぐいさった秋の日だった。空気が澄んで、窓からの景色の輪郭がくっきりしている。 並木と由美ちゃん、そして優衣ちゃんが僕の部屋に来た。 朝八時から資産形成のお勉強会。プロジェクターまで持ってきている。 「朔ちゃん、もう一人のサンタは元気?」 優衣ちゃんから火の玉ストレートを投げ込まれたので行方不明と答えた。 3人は大量のサンドウィッチをラタンのバスケットで持ってきた。フルーツサンドまである。朝早く親子3人で作ったそうだ。 並木と優衣ちゃんがプロジェク

          さよなら炒飯!二十五皿目

          さよなら炒飯!二十四皿目

          嶋津に連絡を取ろうとするが、通話もメッセも何も通じない。 とりあえず僕らの証券口座にログインした。 証券口座にあった九千万が五十万になっていた。株式はほとんど換金され、僕の銀行口座に移されている。メインの銀行口座にアクセスする。前にチェックした時にあった三億近いものが二百万しかない。ゴールデンウイーク前に全て引き出されていた。サブの信用金庫にある三億六千万は二十万に減っている。この口座は苦労して偽の名義で開設したものだ。 今までのアクセス履歴を消す。何が起きているかわからな

          さよなら炒飯!二十四皿目

          さよなら炒飯!二十三皿目

          第二報が続く。 「カウンセリング事業、収益に特化したマニュアル発覚」 それは僕らの予想を遥かに超えるろくでもない話だった。 最初に受け持つカウンセラーはクライアントのセンシティブな部分を丁寧に「突く」。どこを「突く」かはカウンセラーの腕の見せどころだ。 相談したクライアントは、自分の弱さを巧妙に突かれることでたった一人で自分と正面から向き合わなければならない。 自分と向き合うのは大変な作業だ。ヤン君もよく言う。金龍飯館のカウンターで一人で食事をする。それは自分と向き合う事

          さよなら炒飯!二十三皿目

          さよなら炒飯!二十二皿目

          次の打ち合わせ、嶋津が「場所を変えて欲しい。いつもの居酒屋がいい」と言う。 「金龍飯館じゃダメなのか」 「酒が入っていたほうが楽なんだ」 嶋津の顔はやけに白い。 「何かあった?」 相変わらず凍ったままの枝豆をかじり、それを諦めて嶋津が言う。 「あの社長から凄いの喰らって」 「何それ」 「美人でカリスマ、影響力のあるやつから叱責を喰らうとダメージが二乗でやられる。一瞬自分が悪いのかと思ったぜ」 声がかすれている。 「社員もみんな彼女に惚れ込んでいる。俺だってこんな短い期間しかい

          さよなら炒飯!二十二皿目

          さよなら炒飯!二十一皿目

          「これ、どうかな」 僕が提案する。話をしているのは三十代から四十代男性。その前にも同じ案件と思われる似たような話がいくつか流れて来た。 「お前覚えてる? あの女」 「あの女でわかるやついるのかよ」 「お前の大学でも有名だったって前言ってた、むちゃくちゃ上昇志向の高いカウンセラー気取りの女」 「いたな、そんな奴。あちこちの大学に顔出して、いたるところにサークル作ってたな」 「そうそう、結構美人だったけど付き合いたくはないよな」 「付き合うとなんか取り込まれそうじゃん。で、そ

          さよなら炒飯!二十一皿目