清水貴一(しみずたかかず)

石川県、金沢出身。バーテンダー。1999年、東京、中目黒にbar purpleをオープ…

清水貴一(しみずたかかず)

石川県、金沢出身。バーテンダー。1999年、東京、中目黒にbar purpleをオープン。 現在も営業中。働くこと、人との接し方あり方なんかに興味あり、酒、golf、ユーモア。 男性ファッション誌「OCEANS」(バックバーからの風景)連載中/ 光文社「本が好き」書評連載中/等

マガジン

  • 「若いうちは尻と恥はなんぼでも掻くのだ」

    マヌケとは、一体なんだろうか。迷惑ばかりかけるトラブルメーカーの存在は、結果私たちを飛躍的に成長させてくれる。そのメカニズムを解き明かした時、人類は新たなる時代へと進化を遂げるのかもしれない。

  • 恐怖ノート

    私の実際に経験した恐怖体験。

  • バーテンダー社会学

    夜の飲食で働く人々の生態系と日常の社会生活のギャップを考察。そこから見えてくる様々な問題を考える。

  • 使えるバーテンダースキル

    バーテンダーは、難解な職業の一つである。扱っている酒を提供し、お客を招いて気持ちよく酔っていただき対価をうける。そこにお店の個性(付加価値)を付加させ、他店との差別化を確立させる。このマガジンは僕の付加価値スキルを記載していくものである。バーテンでなくても使えるスキルもある。

  • 毒の荒行

    あなたはタブーを犯したことはありますか? 私は、あります。

最近の記事

  • 固定された記事

「バーテンダーを30年続けていられた理由」

私は現役のバーテンダーである。 キャリアは30年近くになるが、まだまだその真髄には遠く及ばない。 きっとこの仕事に満足はない。もちろん日々の達成感や充実感はある。だが、到達感のようなものは無いものと覚悟しているし、万が一にでも、それに似た感覚を得られるような淡い期待もしていない。 仕事とは、キャリアを上げていくと、能力と責任と収入のバランスが比例していくから、マジョリティーの人々は、キャリアアップをモチベーションとして仕事と向き合っているはずである。 そこから、更に欲を加える

    • 50歳、最後の週末に

      9月11日月曜日、遂に約束を果たした。 「いつか二人で富士山に登ろうぜ!」 中学からの親友と15歳の時にした約束。 およそ35年の歳月を有することになった。 あの頃は、ジャッキーチェンや北斗の拳の影響もあって、少林寺拳法や空手が大好きで、よく二人で道場の厳しい修行を終えた後も、公園に行って修行の続きを反復したものだった。 体力にはそれなりの自信があったことで、日本一の標高を誇る富士山に、ひょいっと軽々と登って来ないか?というようなことだったと思う。 しかし、中学を卒業し

      • 夜叉神峠の亡霊〜夜明け〜10(了)

        ポケットを弄りありったけの金を握り出して祠に置いた。 そして、おでこに合掌を合わせ、擦りつけながら祈り倒した。 「どうか、この峠から我々をお救い下さい!お助けくださいませ」 村田も足元にあった木茶碗に、ジャラジャラと小銭を投げた。心が落ち着いていくのがわかった。 すると、この山を登り始めた昨朝の記憶が蘇ってくる。 登山道を歩いて3キロ地点ほどでこの祠に着いたはずだ。そこから暫くして獣道に入った。 つまり、後少しだけ降りると、夜叉神峠のロッジのはずだ。時計はもう4時になろうと

        • 「夜叉神峠の亡霊」〜跳躍〜9

          我々は完全に追い詰められていた。 だからと言って、警察から逃亡しているわけでも、下手を打った挙句、対抗勢力から追われているわけでもない。 生まれて初めて超がつくほど真剣に逃げていた。 得体も知れない白い靄から私たちは追われていたのだ。 水場を後にした我々は、下山の選択に至った。暫く歩いていると、突然村田が何かを察知して、溜息まじりに振り返った。 つられて私も続いた。 目を擦らさずともわかる。 肉眼で目視できた"それ"は、不自然に揺らめくあの白い靄だった。 それは私たちと補足

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        記事

          「夜叉神峠の亡霊」〜撤退〜8

          村田は男の忠告を聞かなかった。 「今すぐ静かに山を下りなさい……」 結果的に私も村田と同じ行動をしているから、村田ばかりを責められないが。 村田の「忠告はありがたいが先に向かおう」と言った真剣な表情に気押されてしまった私に、反論の余地などなかった。 だが私は、村田と同じ意見ではなかった。 白い靄の男は、私たちになにを伝えたかったのだろう。山に棲む悪霊なら、あの時点でとっくに生きてはいまい。 ならば、あれは悪霊ではないのかもしれない。 山の神かなにかが、私たちを生かすために現れ

          「夜叉神峠の亡霊」〜撤退〜8

          「夜叉神峠の亡霊」〜遭遇〜7

          私たちは夜叉神峠小屋を目指し重たい腰を上げた。立札に左と書かれている道を、書かれた通りに歩き出した。 懐中電灯に備え付いているラジオをつける。 周波数を合わせるとプロ野球の実況アナウンスが流れていた。野球は好きだが、当時はセリーグが主流でパリーグはあまり詳しくはなかった。西武と近鉄の試合は、まるで他団体の見知らぬ試合のように聞こえたが、それでも気はまぎれた。 もう、獣や虫の音に飽き飽きしていたからだ。今回も私が先頭を歩いた。 村田は静かに呼吸を整え、体力の回復に努めていた。時

          「夜叉神峠の亡霊」〜遭遇〜7

          「夜叉神峠の亡霊」〜洗礼〜6

          獣道は想像をはるかに超えて過酷なものだった。息は乱れ、呼吸法は己の鍛錬不足を痛感するほど使い物にならなかった。 さすがの村田も呼吸を保つのが精一杯といった感じだ。 もうどれくらい歩いているのか? 時計はいつのまにか16時を回っていた。 獣道に入り、世界が一変した。 真夏の太陽光が遮断された森。 人が介在できない場所とは人々にとって無力で過酷な環境だからだ。 この森はまぎれもなく、人間以外の為に存在していた。 まず想定していなかったのは湿度だった。 粘りつくような緩い空気。

          「夜叉神峠の亡霊」〜洗礼〜6

          「夜叉神峠の亡霊」〜入山〜5

          家出をしてから3日目の朝になった。 村田と2人でホテルをチェックアウトしたのが早朝6時。店はまだどこも開いていない。 つまり、完璧な準備もままならないまま南アルプス行きのバスに乗り込むことになった。 バスに揺られること2時間、我々の夢の入り口、南アルプスの夜叉神峠登山口に降車した。 真夏だというのになんて涼しいんだろう、バスから降りて私が最初に感じたのは、濃密な空気の透明度と街に溢れた常識の無意味さだった。 ロッジはすでに開いていた。お茶や食料が売っていたから顔を極力出さな

          「夜叉神峠の亡霊」〜入山〜5

          「夜叉神峠の亡霊」〜甲府ステーションホテル〜4

          眩しい陽射しがカーテンの隙間から射していた。部屋の埃が、差し込んだ陽射しの強い太陽光に、まるで群がるようにうねうねと密集している微生物のようだ。エアコンが相当に効いていたから真夏ということを一瞬忘れた。 ビジネスホテルのツインルームで村田は腕を組んで眠っていた。私と言えば、酷く気持ちが悪く、ヨタついた足取りでユニットバスの便器に頭を突っ込んで、昨夜に摂取した茶色い水分をしこたまぶち撒いた。 喉が痛い。胃酸が信じられないほど苦く、うがいをすると水が甘く感じられ、その味がしばらく

          「夜叉神峠の亡霊」〜甲府ステーションホテル〜4

          「夜叉神峠の亡霊」〜甲府駅〜3

          甲府駅に到着した私たちが目指すのはホームセンターだ。 電車の中で揃えなければならない必要なものを書きだした。軽量の折り畳みノコギリ2本、大中小の釘、トンカチ、ロープ、ジッポオイル。 数えるとキリがないということで、現地に行って値段と荷物の重量との相談ということになった。 いくら必要だからと言って、すべて一度に持ち運べるわけではないのだ。 私は勤めて冷静さを保った。知らない街、知らない人々。私たちは家出をしているのだ。 妙な行動や振る舞いは謹まなければならないし、余計なトラブル

          「夜叉神峠の亡霊」〜甲府駅〜3

          「夜叉神峠の亡霊」〜出発〜2

          前日は興奮して眠れなかった。生まれて初めての家出に緊張と不安が無い混ぜに絡まった。 計画がバレたらどうなるのか?バレるとしたら何が綻びの原因になるだろう。 バレた時の家族の気持ちはどうだろうか? 警察に捕まるのだろうか?捕まったらどんな刑罰が待っているのか?命を失う可能性もあるだろうか?南アルプスに安住の地は存在するのだろうか?私たちの立てた計画に落ち度はないだろうか? 計画を企てた犯人が、実行前夜に想起する心持ちが少しだけ解ったような気がした。 ふと、蝉の鳴き声に気がつくと

          「夜叉神峠の亡霊」〜出発〜2

          「夜叉神峠の亡霊」〜準備〜1

          1988年の夏、私と村田はある計画を実行した。 あの夏に体験した不思議な出来事は32年を経った今でも鮮明に記憶している。 私と村田は16歳だった。アルバイトで多忙だった私と、毎日の部活に勤しむ村田は、週に一度だけ町道場で汗を流した。当時は少林寺拳法を学び、二人とも初段の真新しい黒帯を腰に巻いたばかりだった。15歳の秋頃、近所の体育館に少林寺道場が新しくできると知った村田は、私を誘った。その気になった私の思惑は、ただ喧嘩が強くなりたいという安易なものだったが、修練を重ねるにつれ

          「夜叉神峠の亡霊」〜準備〜1

          「バーテンダー褒め学」実践編

          褒めるべき優れた人が、その褒められるべきポイントには誰一人気がつかず、私だけが見抜いていたら嬉しいだろう。つまり誰にでも褒めるべきところがあると思えば、それを探しだそうとする好奇心が湧き上がるというものだ。 反対に探しても捜しても一向に褒めポイントが見つからない迷宮のラビリンスのような人がいる。これは相当に厄介だが、ただ単に私自身がその人の「良さ」を見抜けない未熟者の可能性も否めない。 褒めるべきところを褒めるには、その人の内と外の二面にコンタクトしたい。内面と外見である。私

          「バーテンダー褒め学」実践編

          「バーテンダー褒め学」基礎編

          バーテンダーにとって「褒める」ことは、重要なスキルだ。いや、これはバーテンダーに限ったことではないだろう。生きていく上で、存在を否定されるか肯定されるか、あなたはどちらがよろしいか?などという議論は、深掘りしなければテーマにもならない。案外、深掘りをしたらおもしろいのではないかと思ってしまった。 大半の人は、肯定されたいだろうし成果を認めてもらいたいものだ。中には、「お前如きが私を評価しやがって、私を褒めるとは図々しい!」とかいう天邪鬼もいるのだろうが、それもその人なりのキャ

          「バーテンダー褒め学」基礎編

          最善の選択

          人生は、死ぬまで「選択」の連続である。我々は朝起きて寝る間にどれだけ選択をしているのか? 9000回だそうだ。1日でだ。 2日で、18,000回。3日で27,000回と、我々の選択に終わりがないわけだが、日常のなんでもない選択から人生を左右する重要な選択まで、しっかりと意識をしておこなっているのか甚だ疑問である。 選択を意識的にできるのは1人でいる時が多いだろう。他者が介在すると自分の選択が通らない時があるからで、この時に重要な選択ミスをしてしまったら誰を責めるのか?判断を下

          「サイドミラーに映る死神」

          16歳になり、真っ先に原付バイクの免許を取得した。村田とは別々の高校になったが週に2度の空手道場で汗を流した後、2人で原付バイクをを走らせた。 道場のない日は、アルバイトをした。 私は、学校が終わると急いでバイト先に向かう。アルバイトは17時から22時までで、天ぷらがメインの和食居酒屋のような店だった。 帰り道は15キロほどの距離だったから、原付バイクでも充分に通える距離だった。 ある日、3つ上の板前の先輩が、 「清水、今日ワシの車が納車したんや、ちょい乗っていかんか?」 と

          「サイドミラーに映る死神」