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[1分小説]

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ショートショートな短編集 800字〜1500字くらい。 愛欲・男女・頽廃・愛人・金銭… 人様にお見せできない、あれこれの置き場です。 (たまに純粋なラブストーリーも)
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[1分小説]  毎日が、エイプリルフールのような世の中で

[1分小説] 毎日が、エイプリルフールのような世の中で

「なんだか私の人生って、
常にエイプリルフールみたいだよなぁ」

そう思いながら、野田栄美(21)は
今日も健気に店に立っていた。

彼女の勤めは「こんな世の中にぴったりだもの」という仕事、水商売である。

栄美は家庭の事情で、高校卒業と同時に働きはじめた。

どうして自分には父親がいないのか。
どうして母親の銀行口座は借金ばかりなのか。

誰がこんな冗談みたいな人生を自分に与えたのか、考えない日

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逮捕しちゃうぞ。┃僕の妄想物語

逮捕しちゃうぞ。┃僕の妄想物語

…このお話は性的な表現を含みます♡…

「・・・な、カケルのLINE見た?」

「うん。LINEでこの長文って、あいつバカなんじゃないの」

「ほんとだ。頼むつもり、微塵もないだろ。
ついでに風邪ひいて寝込んでるって絶対ウソ」

ブーブブッ・・・

「あ、また来たぜ」

「「「 なんだよあいつ・・・って、うお!? 」」」

「エ、エロいなぁ……!」

ガラガラガラ・・・

「早く見てぇぇ!!!・・

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盗っ人。┃僕の妄想物語

盗っ人。┃僕の妄想物語

…このお話は性的な表現を含みます♡…

空気の澄んだ夜だった。
まもなく警察署は当直の時間に入る頃だろうか。

ヒマそうな制服姿の警察官が立つ署のエントランスをこっそりと迂回し、僕は裏手の駐車場から 被疑者 押送用の外階段を上った。
踊り場へ辿り着き、そっと鉄扉を押し開く。

扉の先の「刑事一課」には、私服姿の刑事たちと、
書類が山積みになった机が並んでいた。

「高梨ミクさん、いますか」

鉄扉

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お世話になります。┃僕の妄想物語

お世話になります。┃僕の妄想物語

…このお話は性的な表現を含みます♡…

歩き慣れた夜道を、
前方から一台の車が曲がって路地に入ってきた。
白と黒の車体。パトカーだ。

15mほど先からヘッドライトが近づいてくる。
また職務質問だろうか? ・・・めんどくさい。

どうして俺はこんなに頻繁に「職質」に遭うんだろう。
引っ越して3年、いまだに冷蔵庫なしで暮らして
昼夜問わずコンビニ行っているのがいけないのか?



眩しい光が俺の体

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[1分小説]  ウサギ

[1分小説] ウサギ

小学1年のとき、飼っていたウサギが死んだ。

夏休み、私が祖父母の家に行っている間に
死んでしまった。
毎日、エサをやるのが大好きだったのに。

だから小学4年で委員会の活動がはじまると、
私はまっさきに飼育委員を選んだ。

「同じ委員会はやめましょう」と先生が言うから、
5年生では、園芸委員。

問題は、6年生だった。

人と関わらずに済む委員会が、もうなかったのだ。

困った私は、結局、
清掃

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[1分小説]  適材適所

[1分小説] 適材適所

ベッドの上で目を覚ます。

カーテンの隙間から、うっすらと弱い光が射し込んでいた。

『もう、明け方だろうか?』

ぼんやりした頭で、律子は思う。

体が底なしにだるい。

横を向くと、愛欲を満たしたと見える男が寝息を立てて転がっていた。

痛む頭を押さえながら、彼女は昨夜のことを思い出す。



大理石の床、高い天井、壮麗なシャンデリア。

どこを見渡しても眩い光を放つ、豪華なホテルのロビー。

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[1分小説]  あの日の恋

[1分小説] あの日の恋

大事なことは、いつだって小声で囁かれる。

「俺たち、もう終わりにしないか」

青井くんは、何食わぬ顔でポツリと言った。

ようやく人だかりがはけた学生食堂。
そのテーブルのひと隅に、彼と私は居た。

空になった皿を載せたトレーが、カランと音を立てる。

トレーと共に立ち上がった青井くんが告げた「もう終わりにしないか」という言葉は、
提案、というよりはすでに採択された決議のように、とても静かに私の

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[1分小説]  ホラー

[1分小説] ホラー

「ねぇみっちゃん、怖い話ききたい?」

「えぇ〜、なんで突然ホラーなのぉ?」

みっちゃんが「えぇ〜」と言って口を開く時は、
たいてい話の先を待っている時である。

「サチったら、あたしが怖い話苦手なの知ってるでしょ〜」

会話を切り出したはサチ続ける。

「そういうホラーじゃないから」

サチの話はこうだった。



休日、閉店間際の夜9時少し前に、チェーンの喫茶店に入った。街でよく見かける、

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[1分小説]  きもち

[1分小説] きもち

月曜日の6限目の授業中、佐山 美弥子は、窓の外を見るともなく眺めていた。

『陽が傾くのが早くなったな』

終業のチャイムが鳴るまで、あと3分。

すでに宿題のページを終えた彼女は、ぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。

中学生の頃、両親が離婚した。

「ママね、パパとお別れすることにしたの」

両親の壮絶な言い争いを見続けて数ヶ月が経つ頃、母親が口にした言葉である。原因はパパの浮気らしい。

「美弥

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[1分小説]  こころ

[1分小説] こころ

風が校庭の落ち葉を散らす、10月の最後の火曜日。

瀬川は、半年間付き合った恋人に切り出した。

「ごめん、別れてほしい」

放課後、いきなり昇降口に呼び出された香澄は、
下駄箱の間に立って、ただ言葉を失っていた。

「お前、させてくれないじゃん。俺もう限界」

そして、最後にこう付け加えた。

「俺、佐山と、しちゃった」

香澄を捉える視界が、滲みかけていた。

自分から別れを告げてしまった。

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[1分小説]  からだ

[1分小説] からだ

金曜日の18時半を過ぎる頃だった。

駅へ向かう人で混雑する道を、制服姿の香澄は歩いていた。

『綺麗な人だな』

ふいに、勤め人らしき女性が横を通り抜けていった。

自分より10歳くらい上、20代後半といった年齢だろうか。
艶のあるロングヘアーをなびかせて歩く女性の後ろ姿を見て、香澄は思う。

大人っぽいジャケットは、まだ高校生の自分には着こなせない。
ブラウンの長いフレアスカートと細いヒールの

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[1分小説]  もしも私が鳥だったら|#青ブラ文学

[1分小説] もしも私が鳥だったら|#青ブラ文学

カッカッカッカ...

  " If I were a bird, "

「いいか、今書いたのは仮定法という文法だ」

カテーホー?

「仮定法は本来であれば中学3年で学習する単元だ。
しかし我が校では2年生のうちに概要だけやる」

ガイヨー?

「一昨年から公立入試の出題範囲となった単元だ。しっかり聞いておけ」

おけー!

・・・な、わけないでしょ。
はぁ。早く終わらないかな授業。

「こ

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[1分小説]  哀|#言えなかった『ごめんなさい』

[1分小説] 哀|#言えなかった『ごめんなさい』

秋が来た。
貴恵と別れて、今年でちょうど5年になる。

人はなぜ、一番楽しかった時間のままで生きられないのだろう。

滅多に笑わなかった彼女がはじめて笑顔を見せた時の表情が、今もまぶたの裏で焦点を結ぶ。



大学3年次のことだった。
2回振られて、3回目の告白で、ようやく貴恵は俺と付き合うことを認めた。

人に頼ることが苦手な彼女を、誰よりもそばで見て、支えたかった。
いや、そんな理由はきっと

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[1分小説]  哀|#言いそびれた『ありがとう』

[1分小説] 哀|#言いそびれた『ありがとう』

眞と別れて、この秋で5年が経つ。

同じ大学を卒業して1年半が経つ頃、
私から別れを切り出した。後悔はしていない。

でも、彼はとても誠実でいい人だったと、今でも思う。



夏が影を潜め、秋が本格的に日常を覆う頃だった。

眞の部屋の空気が、妙に冷たかったことを覚えている。
私が靴を履いていると、背後で嗚咽が聞こえた。「貴恵、行くなよ」

「他人の気持ちは分からないんだよ、分かっているつもりな

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