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記事一覧

【エッセイ】砂漠のきみへ

【エッセイ】砂漠のきみへ

きみは砂漠の真ん中。
あれほどまでに夢見ていた景色が
今では蜃気楼でかすんで見えて
自分の向かうべき先を見失いかけている。

あの子はめきめき昇進して
あの子はひょいっと転職して
あの子はするりと結婚指輪をはめて。

自分は今もここでくすぶっている。
「今が最高に幸せ?」
いや、別に。
「何かやりたいことでもあるの?」
いや、特に。

きみは砂漠の真ん中。
日々を生きるだけのために
息を切らして喉

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【エッセイ】拝啓 元恋人へ

【エッセイ】拝啓 元恋人へ

拝啓 元恋人へ

お元気にしていますか?
今は誰か別の人の隣で
幸せに過ごしていますか?

おかげさまで私の方は
別にあなたが隣に居なくても
充分に幸せに過ごしています。

安心してください。
あなたへの未練なんてものは
微塵もありませんよ。

ただ、本当にたまに、
今の私の「当たり前」は
そういえばあなたがつくったものだと
ふと気が付かされることがあるくらいです。

シャンプーは未だに
黄色のH

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父と暮らせば

父と暮らせば

午前4時、隣の部屋で鳴り響く
アラームの音で目が覚める。
電話から漏れる機械的な女性の声は
各地の波の高さや風速を知らせている。
どうやら今日の海は凪のようだ。

むくりと起き上がり毛布をはがした父は
そそくさと寝間着を脱いで仕事着に着替え
凍てつく冬の朝へ出かけて行った。
まだ薄暗い坂を下った先には、
静かな日本海が広がっている。

私が物心ついたころから
もう20年も父はこの暮らしを続けている

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【短編小説】命短シ愛セヨワタシ

「30歳になった時、
お互い相手がいなかったら結婚しようよ」

愛の告白にしては
なんとも打算的な不気味さを醸し出す
根本的な熱情に欠けるこんなプロポーズは
巷で割と耳にするセリフかもしれない。

『君のことは嫌いじゃないし
むしろ全然アリなんだけど
今の自分の状況を投げやってまでも
側に居たいと思う存在ではないよ』

缶ビールを4本空けた後、
煙草の煙と共に吐き出された
その奇妙なプロポーズには

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あの子が好きな彼と私の話。

「ねえねえ、
あの子のどんなとこが好き?」
私は彼に問いかけた。

彼は半分ふざけて、
半分まじめに私に答えた。
「あのね、足が速いとこ」

思わず笑みがこぼれた私は
彼の言葉に深く、何度も頷いた。

あの子は小学生の頃から
いつも1番にゴールテープを切っていた。
そしてその場で立ち止まり
そっと後ろを振り返って
私を気長に待っていてくれた。

足が速くて泳ぎも上手くて
そろばん教室でもすいすい進

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【短編小説】ハイライト・ブルー

【短編小説】ハイライト・ブルー

今日は朝からスマホの通知が鳴り止まない。
部屋の片付けの手を止めて
懐かしい人たちから寄せられた
お祝いのコメントをついつい読み込んでしまう。

Instagramのフォロワー数
高々数百人程度の一般人の私でも
ひとたび結婚報告の投稿をすれば
こうして、どっとお祝いの通知が溢れる。

社会人生活にもなれば
日頃こまめに連絡を取っている人なんて
ごくごく数人に限られるというのに
この手のSNS投稿に

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【短編小説】私じゃなきゃどうするの?

「ホットコーヒー1つと、
あとカフェオレお願いします」
「私、今日はブラックでいい」
「あ、すいませんじゃあコーヒー2つで」

席に着いた恭子はいつになく不機嫌で、
和樹と目も合わせようとしない。
別れ話にはこういう表情がお似合いだろうと
玄関の鏡の前で不機嫌のマスクを着けて
待ち合わせの喫茶店まで歩いてきたのだ。

和樹はいつも通りの
眼鏡が張り付いた穏やかな表情で
先に席に着いて恭子を迎えた。

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また逢えると言って欲しい

また逢えると言って欲しい

毎年12月30日は決まって、
我が家のワゴンは父の運転により
白銀の高速道路を走り抜ける。
6時間のドライブの後、
後部座席で眠い目をこすると
見慣れた日本海はいつしか
太平洋に姿を変えていた。

母の実家へと帰省する道すがら、
必ず聞いていた曲がある。

この季節には少し不釣り合いな
『真夏の果実』から始まる
2000年11月22日発売のサザンオールスターズ、
『バラッド3~the album 

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【短編小説】キミが好きだよ、エイリアン

【短編小説】キミが好きだよ、エイリアン

あぁ、もう。
あんなことするんじゃなかったよ。
大切な星空を汚してしまった僕に
キミは呆れて怒って、
自分の星に帰っちゃったんだね。

だけどやっぱり僕
キミが好きだよ、エイリアン。

星が降る夜、彼女は現れた。
今夜はオリオン座流星群が見られると
Twitterで知った。
ちょうどいいデートの誘い文句だと思い
僕はマッチングアプリを開いた。

恋愛なんて別に興味はない。
酒とタバコと講義とバイト

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"Gift"

"Gift"

「お前には文才がある!」
社会人1年目の冬、
居酒屋でべろべろに酔っ払った上司が
急にそんなことを言い出した。

私は照れ隠しの苦笑いで
「え、どうしたんですか急に」
そう一言返した。
上司は続けて
「毎週読んでるよ、あれ面白い」
「あ、ありがとうございます」
そうして2人の会話は
ものの2往復で終わった。
上司はまた他の部下たちに絡みに行った。

それから2年が経ち、
その上司はどこかへ転職して

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二十歳前後の失恋について

二十歳前後の失恋について

映画『花束みたいな恋をした』

公開後すぐに女友達と二人、劇場で鑑賞しました。
リアルすぎて恋人と一緒に観ると別れる
みたいな前評判を聞いていたので
壮絶な大恋愛とその終わり、みたいな
悲しい恋のお話なのかなと思っていましたが
観終わった後には

あぁ、なるほどな。
これはカップルの前向きな別れを
後押ししてしまう作品だなぁ。

と、当初の想像とは違った角度の感想でした。

また同時に、二十歳前後

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今日が人生で1番若い日だから

今日が人生で1番若い日だから

今日もいつも通り、20時に仕事を終えた。
私の都合なんてお構いなしに、
メールフォルダに降ってくるタスクの山。
納期の迫っている業務から裁き
やっとメールフォルダが数件に迫った頃、
20時のアラームとともに画面が暗転、
パソコンがシャットダウンされる。

はぁ~、終わった。
そう言って、ワンルームの部屋で
一人椅子にもたれて背伸びをする。
そして、気になるトピックも別にないが
なんとなくSNSを開

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最高の人生の隣にいて欲しい人

最高の人生の隣にいて欲しい人

2年ぶりに大学の友人に会った。
学生時代は毎日のように一緒に講義を受け
遊びに行っていた私たち2人だったが
お互い社会人になり東京と大阪で暮らし、
2年間も会わずに平気で過ごしてしまっていた。
良くも悪くも大人になってからの友人関係とは
このくらい希薄で気楽なものなのかもしれない。

2年ぶりの再会でも、昨日も会っていたかのような
大学時代と変わらないこの空気感。
学生の頃に戻ったみたいで、
バカ

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女の子同士

女の子同士

昨日の朝は、梅雨の終わりを感じさせる
軽やかでさっぱりした風が吹いていた。
ベタついた空気が肌に絡まる感覚は無く
人と触れ合っても暑苦しくない、
そんな気持ちの良い朝だった。

午前9時半の電車に乗る私は、
目の前の席に座る1人の女の子を見つけた。
彼女は、マスク越しにも分かるほど
楽しそうにニコニコしながらスマホを眺めていた。
おそらく大学生くらいだろうか、
白いTシャツとデニム姿にリュックを抱

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