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エッセイ:大ちゃんは○○である

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大学時代~役者を経て介護業界に飛び込み、現在までを綴るエッセイ。
運営しているクリエイター

#役者

エッセイ:大ちゃんは○○である59

エッセイ:大ちゃんは○○である59

所属していた事務所まで赴き、マネージャーに退所の意思を伝えると、
「飲みに行くぞ。」と言われ居酒屋で数時間二人っきりで話をした。
一人で十数人を管理してくれていた年配のマネージャーで、
顔を突き合わせてゆっくり飲みながら話すなんて機会はほとんどなかったので、
ある意味新鮮な時間だった。
思えばこのマネージャーには本当に色々なことを教えてもらった。
役者としての心構えから、私生活においての意識の在り

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エッセイ:大ちゃんは○○である58

エッセイ:大ちゃんは○○である58

夢を現実にする為に上京し、
必死になって走っていても
『もう走れない』と認めてしまうのは
とても悔しく不甲斐ないことだった。
『楽しい』だけではどうにもできない現状。
ご飯が食べられないという現状。
から回る現状。オーディションに通らない現状。
オーディション会場まで行く電車賃すらなく、
何時間もかけて歩いていくことも多くなっていった。
アピールしてもアピールしても、声がかからない日々。
色々な意

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エッセイ:大ちゃんは○○である57

エッセイ:大ちゃんは○○である57

例えば、映画の仕事が決まって
「1週間スケジュールを空けておいてくれ。」と言われ撮影に臨んでも、
貰えるギャラは数千円だったりする。
急に入ったりするオーディションやビデオドラマの撮影等でバイトに行けない日も多くなってきて、
収入面ではかなり厳しくなっていった。
こうなると食費を切り詰めるしかなくなってくる。
食事は水で溶いた小麦粉を焼いたものか、
もやし炒めだけの日々が多くなっていった。
意識せ

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エッセイ:大ちゃんは○○である56

エッセイ:大ちゃんは○○である56

その後の活動はというとワークショップに通いアルバイトを掛け持ちし、
オーディションを受け、通れば撮影に入るといった日々。
表現できる場があるならと、オリジナル曲を作ってデュオを組み、
ライブハウスに飛び込んだこともある。
自作のプロモーションビデオを作ってみたり、
自身のホームページを作ってみたりもした。
デモテープを持ち込んで酷評されたこともあれば、
路上でのゲリラ撮影で厳重注意を受けたことも幾

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エッセイ:大ちゃんは○○である55

エッセイ:大ちゃんは○○である55

撮影は順調に進んだ。
順調ではあったと思うが、撮影時に思ったのは
とにかく時間がかかるといった印象だ。
何せ待ち時間が長い。
全身血塗れのまま次のスタートがかかるまで待ち、
カットがかかったらまた次のスタートの声がかかるまで待つ。
完成作品を観てびっくりしたのだが、
朝から夜遅くまで撮影をして、おそらくその日に撮った分で使われていたシーンは
わずか数分程度だったと思う。
地獄の中でいたぶられる人々

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エッセイ:大ちゃんは○○である53

エッセイ:大ちゃんは○○である53

大部屋の控え室に到着した僕達にスタッフから渡されたのは、
白いブリーフと白い腰巻のようなものだった。
「では皆さん、ここでこれに着替えてお待ち下さい。
下着も脱いでいただいて、身につけるのはこの2点だけでお願いします。
こちらの準備が整いましたら再度声をかけにきますので、よろしくお願いしますね。」
手に持ち、広げて見てみると思わず笑ってしまった。
『えっ!?地獄の衣類ってこれなの?
はっは~ん、地

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エッセイ:大ちゃんは○○である52

エッセイ:大ちゃんは○○である52

撮影日当日。集合時間は朝の7時半。
撮影場所は錦糸町にある、とあるスタジオだった。
遅刻だけは絶対に許されない。
寝過ごしだけはしないようにと、前日はかなり早く布団に入ったのだが、
様々な感情・思考が脳内を駆け巡り続け、
結局ほぼ一睡もできないままでの現場入りとなってしまった。
時間にはかなり余裕をもって到着したつもりだったが、
現場ではすでに大勢のスタッフが動き回っており、
活気と賑わいを見せて

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エッセイ:大ちゃんは○○である51

エッセイ:大ちゃんは○○である51

受けたオーディションの数は数えきれない。
本当にたくさんのオーディションを受けたし、
数えきれないくらい落とされた。
オリジナルビデオ・映画・時代劇・ドラマetc 。
行く前はいつだって自信満々で、
『落ちるわけない』と思って臨むのに
なかなか結果に結びつかない日々。
オーディションの受かり方なんて分からないから
とにかく監督の印象に残ることだけを考えて、試行錯誤の繰り返し。
何十人、何百人と役者

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エッセイ:大ちゃんは○○である48

エッセイ:大ちゃんは○○である48

週に二回、演技レッスンとボイストレーニングのレッスンは進んでいった。
自分にはあまりないと思っていて、実はひょっこり顔を出していた羞恥心も
徐々に徐々に消えていった。
一番『恥ずかしい!』という感情を抱いたのは何をした時だっただろうと思い返してみたが、
やはりダントツでアレをして、アレになって、アレだった時だった。
アレというのは、あるワンシーンを撮影しながらの演技レッスン。
場所は都営浅草線、浅

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エッセイ:大ちゃんは○○である45

エッセイ:大ちゃんは○○である45

レッスンの中では『一分間エチュード』という時間もあった。
エチュードという言葉。聞いたことがあるだろうか?
知っている方もいるだろうし、初めて耳にするという方もいると思うが、
簡単に言うと台本のない即興劇のことだ。
場面の設定だけがあり、セリフや動作などを役者自身が考えながら行う。
このエチュードに関しては、それこそ役者時代数えきれないぐらいやった。
時と場所を選ばず、事務所メンバーが集まれば

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エッセイ:大ちゃんは○○である33

エッセイ:大ちゃんは○○である33

父親は腕組みをしたままじっと俯き、下を向いて何かを考えているようだった。
心配が勝っていたんだと思う。それは絶対にそうだと思う。
『自分の人生なんだから、自由にさせてもらうよ。』
そう思う気持ちも、もちろん本音としてあった。
本音としてはあったが、育ててくれた二人の気持ちを全く無視して突き進むのもなんだか違う気がした。
挑戦を認めてほしい。応援してほしい。
そんな気持ちで自分の気持ちを話したんだと

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