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エッセイ:大ちゃんは○○である48

週に二回、演技レッスンとボイストレーニングのレッスンは進んでいった。
自分にはあまりないと思っていて、実はひょっこり顔を出していた羞恥心も
徐々に徐々に消えていった。
一番『恥ずかしい!』という感情を抱いたのは何をした時だっただろうと思い返してみたが、
やはりダントツでアレをして、アレになって、アレだった時だった。
アレというのは、あるワンシーンを撮影しながらの演技レッスン。
場所は都営浅草線、浅草駅のホームにて。
ある事情で別れなければいけなくなってしまったカップルの設定。
思い出話をしながら、駅に向かって歩いていく。
「これで会うのは最後になるんだね。」とホームに到着した電車に僕が乗った時、
無情な現実を受け入れることができない僕の感情が一気に噴出し、
ドアが閉まる直前に女に向かって大声で思いの丈を伝える。
「やっぱり好きだ!これからも気持ちが変わることはないし、大好きだから!」
カメラは駅のホームから僕を捉えているので、ドアが閉まり電車が動き出すと当然次の駅まで一人ぼっちという状況が出来上がるわけだ。
考えてみてほしい。これ、本当に地獄のような恥ずかしさだから。
カメラマンはハンディカメラでホーム上にいたので、
撮影をしていたことはおそらく電車内の人達には気づかれていない。
大声で「大好きだから!」と叫んだ後、閉まる自動ドア。
走り出す電車。視線を浴びる僕。

つづく

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