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エッセイ:大ちゃんは○○である33

父親は腕組みをしたままじっと俯き、下を向いて何かを考えているようだった。
心配が勝っていたんだと思う。それは絶対にそうだと思う。
『自分の人生なんだから、自由にさせてもらうよ。』
そう思う気持ちも、もちろん本音としてあった。
本音としてはあったが、育ててくれた二人の気持ちを全く無視して突き進むのもなんだか違う気がした。
挑戦を認めてほしい。応援してほしい。
そんな気持ちで自分の気持ちを話したんだと思う。
事後報告にしてしまったことに申し訳なさはあったものの
確証のないものを掴む為の覚悟を分かってほしいという想いもあった。
「応援したげよ。これやと思ったら曲げへん性格なんは私達もよう分かってるんやんか。
本気なんやと思う。大学を辞めてしもたんは残念やけど、覚悟決めてるみたいやし応援したあげよ。ね、あなた?」
それまで口を閉ざしていた母親が父親の肩に手を置いて言った。
無理をしてくれていたのかもしれない。
本当は悲しかったのかもしれない。
ちゃんと卒業をして、就職してほしかったのかもしれない。
『ごめんね』
心の中で、推測した母親の気持ちに対して謝罪しながらも
僕は真っ直ぐに二人を見つめていた。
先にも書いたが、一度きりの人生。
確かに自分の人生は自分のものだ。『あの時あーしてればよかった』というような後悔は
なるべく少なくする選択をしていった方がいいと思う。
たとえそれがどんな結果になったとしてもだ。
しかし、自分一人だけで生きているわけじゃないこともまた事実なわけで。
自由に生きていくということには必ず責任が伴う。
その責任を負う覚悟がないのなら、自由に生きていく資格もないと思う。
少なくとも僕には、その責任を負う覚悟はあった。
誰かを心配させたり、悲しませてしまうような選択だったとしても。
母親の言葉を聞き、しばらく考え込むように黙っていた父親が
僕の目を見て、ゆっくりと口を開いた。
「分かった。じゃあ、お前が思うようにやってみろ。
ただし、だらだらと続けるのは許さない。
25歳まで本気でやってみて、その時点で役者としてやっていける道筋が見えてなかったら
その時はきっぱりと諦めなさい。」
僕はその場で立ち上がり、二人に頭を下げて言った。
「分かりました。ありがとうございます。」
頭上から母親の声がした。
「ホンマに大変やと思うけど、頑張りや。応援してるから。」
本心をはかり知ることはできなかったが、素直に嬉しかった。
そしてその言葉を聞きながら、僕は思った。
「絶っ対に売れてやる。」と。
西陽の差し込む部屋の中で、改めて決意を胸に刻んだ。

つづく

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