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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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2023年2月の記事一覧

For Tracy Hydeの解散を考える/セカイから世界へ

For Tracy Hydeの解散を考える/セカイから世界へ

トレイシー・ハイドという子役が出演した1971年のイギリス映画『小さな恋のメロディ』を初めて観たのはFor Tracy Hydeの大傑作アルバム『New Young City』(2019)を聴いてしばらく経った後だった。当時の年間ベストアルバムにも選んだバンド名に関連してる人物の映画なのだから、さぞこのバンドの根源に繋がる作品だろうと思っていたが、観終わった後にバンド名の由来はWondermint

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声を重ねるということ〜2.12 ROTH BART BARON 『HOWL』Tour 2022-2023@名古屋BOTTOM LINE

声を重ねるということ〜2.12 ROTH BART BARON 『HOWL』Tour 2022-2023@名古屋BOTTOM LINE

先日、岡本太郎展を観に愛知県美術館に行った時のこと。グッズ売り場を物色しているとどこからか「ワオーン」と鳴く声が聞こえてきた。音の鳴る方、展示室の一角を覗くと、そこに展示してあったのはキュンチョメというアートユニットの「遠い世界を呼んでいるようだ」という映像作品だった。

東日本大震災の被災地で、絶滅したニホンオオカミの遠吠えを模倣するというパフォーマンス映像。誰もいない場所に向け、既に存在しない

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岡本太郎と山口一郎、対極主義とサカナクション

岡本太郎と山口一郎、対極主義とサカナクション

愛知県美術館で3/14まで開催中の「岡本太郎展」に行った。隣のNHK名古屋では関連番組「タローマン」の展示も行われており大盛況だった。岡本太郎作品と言えば無軌道でハチャメチャなものと思っていたが作品には明確なロジックと意義があり、根底には生命の力がみなぎり、そして何よりユーモラス。大勢の観客と共有する祝祭感もありエネルギッシュな鑑賞体験だった。

ところで「タローマン」とはNHKで放送されるやいな

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男の子は泣く〜2023.02.10おとぎ話 × 忘れらんねえよ『RINNE』 @名古屋CLUB QUATTRO

男の子は泣く〜2023.02.10おとぎ話 × 忘れらんねえよ『RINNE』 @名古屋CLUB QUATTRO

男らしさとロックバンド現在放送中のドラマ「今夜すきやきだよ」。2月3日放送の第5話で描かれたのは”男らしさ"についてだった。仕事の悩みをうまく吐き出すことができず自分だけで背負い込むことを美徳だと思う主人公の友人の心をそっと解していくような回で、かなりじんときた。こういうドラマが届いて欲しい人を今まで精神科診察の現場で沢山見ているな、と思う。刷り込まれたこうあるべきだという責任感は周囲も自分も気づ

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マウント、思考停止、そして敵意〜『イニシェリン島の精霊』

マウント、思考停止、そして敵意〜『イニシェリン島の精霊』

自分が巻き込まれるのはまっぴらごめんなのだけど、遠くから眺める揉め事というのはどうも見応えがあるものだ。「水曜日のダウンタウン」のおぼんこぼん騒動は正直やっぱり面白かった。人と人とが己の意思でぶつかり合う様は、良くないと分かりつつ見入ってしまうし、そしてどこかで自分の心と重ねて観てしまう。ケンカを覗き込む時、ケンカもまたこちらを覗いているのだ。

不安と退屈マーティン・マクドナー監督の新作映画『イ

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心は過去でできている〜『CITY LIVES』、およびノスタルジーとかエモさとか

心は過去でできている〜『CITY LIVES』、およびノスタルジーとかエモさとか

記憶の中で記憶と向き合うドラマ『世界でいちばん大きい動物はなにか?それは<街>だ。VFXを駆使した圧巻の新感覚SFドラマ』と謳われ、フジテレビにて全3話が放送された『CITY LIVES』。巨大生物を描くというフェイクドキュメンタリーという様相を呈して始まり、そのビジュアル面での興奮度も素晴らしかったのだが、次第に"記憶"や"思い出"を巡るストーリーに変わっていくその展開が見事であった。

このド

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圧縮された永遠~『大竹伸朗展』@東京国立近代美術館

圧縮された永遠~『大竹伸朗展』@東京国立近代美術館

東京国立近代美術館で開催中の『大竹伸朗展』で観ることができるこのアート作品。「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」と名づけられている。廃材をはじめ、チラシやポスターなど様々な既製品を集めて作られた建物だが、これが自画像なのだという。少なくともよく知られた有名な”自画像“とはかなり違うように思う。なぜならどう見ても建物だからだ。

心動かされたものを意識的に好きなだけコレクトしたようにも見え

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