月の人

精神科医/ライター。 ポップカルチャーは裏切らないをモットーに Real Soun…

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精神科医/ライター。 ポップカルチャーは裏切らないをモットーに Real Soundでも執筆中→https://realsound.jp/person/about/812327 依頼などありましたら本noteの仕事依頼タブに連絡先あります

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  • ポップカルチャーは裏切らない

    ”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。

  • 舞台作品の感想

    演劇だけでなく、お笑いライブの感想など

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  • ポッドキャスト「ポップカルチャーは裏切らない」

    毎週火曜に更新予定のポッドキャスト。暇つぶしにだらだらと好きなカルチャーについて喋っています。

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「ぼっち・ざ・ろっく!」とアジカンが寄り添う自傷的自己愛

臨床場面で向き合う自傷的自己愛精神科外来では様々な病状を抱えた患者と向き合い治療を行う。ストレスの原因となる職場や家庭の環境調整を行い、薬剤を適切に使用することで改善するのが一般的だが、そういった治療だけでは回復に至らない患者も多い。 たとえば過剰に思える程の自己否定を行う患者たち。自分の外見やステータスを卑下したり、社会や家庭環境に不満を述べたりしながら、周囲を困らせる行動を取ったり、時に希死念慮に繋がったりもする。そのような"生き辛さそのもの“を訴える患者はスッキリとし

    • そのリズムに転がされ【遅日記】

      3-4時間おきにミルクを作り、我が子に飲んでもらうというルーティーンが日常に加わって幾ヶ月か経つ。3月から育児休暇を取ってからはさらにそのリズムと併走して生きている。ミルクを与え、眠りこけることもあれば、泣いてオムツを変えることもある。吐き戻したり、しゃっくりで落ち着かなかったり。様々なパターンがある。 我が子が穏やかなタイミングを見てあれこれと用事を済ませたり、穏やかじゃない時も断腸の思いで用事を済ませたりする。生活のタイムトライアルをしてるみたいで、非常にゲーム性が高い

      • 街裏ぴんく/虚構の身体性

        街裏ぴんくがR-1グランプリを獲ったという嘘のような本当の報せにとてつもなく心が踊った。そして実際に放送を確認して更に興奮する。ピン芸という何でもアリの大会において、漫談というステゴロなスタイルで勝ち切っており、しかも最終決勝ネタは彼のポッドキャスト番組「虚史平成」で放送された漫談をベースにしていたからだ。 これだけ多彩な笑いの選択肢が溢れる現代において、彼のスタイルはどんな場所でも変わらない。嘘を堂々と漫談として語っていくあのネタのみ。劇場だろうが、寄席だろうが、テレビだ

        • ジブリパークの記憶をたどる

          1年と少し前、愛知に住んでいた時期に2度ジブリパークに行った。その時はまさか「君たちはどう生きるか」が人生レベルの大事な映画になるとは思っていなかったので、ジブリへの興味関心はそこそこ、トトロとぽんぽこは大好き、ぐらいのテンションで行ったのだった。 久々にその写真を読み返すと、どこか不思議な感じがした。その不思議さを言い当てるべく、ジブリパークの記憶を写真と共に辿りながら振り返っていこうと思う。 ジブリパークは愛知県長久手市のモリコロパークに建設されている。モリコロパーク

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          戻れないけど消せもしない/Base Ball Bear『天使だったじゃないか』【ディスクレビュー】

          子どもが生まれてから生活は変わった。粉ミルクを溶かす時間がルーティーンに組み込まれ、泣き叫べばオムツを変え、それでも泣き続けるならば抱っこする。当たり前のことだが、妻とともに育児に向き合う日々は去年までの自分とは全く違う。しかし買い物に行ったり、出勤したりする時にはいつも1人。そんな時、慣れ親しんだ音楽を聴けば自分が我が子の親になったという事実と同時に、今までと変わらない自分もまたここに居続けているという事実に気付くのだ。 Base Ball Bearが2月28日にリリース

          戻れないけど消せもしない/Base Ball Bear『天使だったじゃないか』【ディスクレビュー】

          2024年2月を振り返る

          赤子が生まれてなお、ポップカルチャー摂取は止まらないぜ!! 今月書いたnoteかなり濃いめの映画感想を2本書きました。こういう解釈のし甲斐しかない映画ばかり観ていきたいものです。 今年は本を読んでいきたい、という意思表示で読書感想文を2本。 子が生まれたので、いちいち日常に強い感情が芽生えがち。書き残していこうと思います。 今月の寄稿記事Real Soundは1本。 そして「音楽だいすきクラブ」の「ネットの音楽オタクが選んだ2023年のベストアルバム」のレビューに2

          2024年2月を振り返る

          2024年3月に更新したPodcast『ポップカルチャーは裏切らない』

          今月は2本、1人喋りのみ。 1月末に子どもが生まれました。その歓喜と、その後に訪れたのっぴきならないワンオペの日などについて喋りました。そして、ポップカルチャーとの接着点が今どうなっているか、という、育児と文化の両立についてもいくつかの思いを述べました。 久々の映画回。アリ・アスター監督、ホアキン・フェニックス主演「ボーはおそれている」と、ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演「哀れなるものたち」を続け様に見たのでその感想を。母と息子、父と娘という自分ごとで語らざ

          2024年3月に更新したPodcast『ポップカルチャーは裏切らない』

          自由だったはずの世界/ヨルゴス・ランティモス「哀れなるものたち」【映画感想】

          ヨルゴス・ランティモス監督がアラスター・グレイの小説を映画化した「哀れなるものたち」。自殺した妊婦にその胎児の脳を移植した人造人間ベラ(エマ・ストーン)と、それを取り巻く男たちを描く奇怪な冒険譚である。 上の記事では原作小説の感想を書いており、どう映像化されているのかという期待を高めていた。実際、映画を観てみると登場人物のバックボーンを描くことを排したことによる寓話性の高まり、そして映像で見せることによるビビッドな感覚への訴えかけが素晴らしく、見事な映画化に思えた。以下、解

          自由だったはずの世界/ヨルゴス・ランティモス「哀れなるものたち」【映画感想】

          ここは無秩序な現実/アリ・アスター『ボーはおそれている』【映画感想】

          「へレディタリー/継承」「ミッドサマー」のアリ・アスター監督による3作目の長編映画『ボーはおそれている』。日常のささいなことで不安になる怖がりの男・ボー(ホアキン・フェニックス)が怪死した母親に会うべく、奇妙な出来事をおそれながら何とか里帰りを果たそうとするという映画だ。 本作は上記記事で監督自身が語る通り、ユダヤ人文化にある母と子の密な関係性、そして"すべては母親に原点がある"というフロイトの精神分析を織り交ぜた物語だ。フロイトの理論であるエディプス・コンプレックス(※)

          ここは無秩序な現実/アリ・アスター『ボーはおそれている』【映画感想】

          のっぴきならない【遅日記】

          妻が産院から退院し、2日間手伝ってくれた義母が帰り、さあいよいよ私と妻と赤子の3人暮らしだ!と意気込んだその夜。のっぴきならない事情でワンオペになってしまった。妻が妊娠に伴う別件で入院になってしまったのである。突如として訪れた私と子のサシの時間だ。 なんせ妻がどういった状態なのかもしれぬまま夜が深まっていく。そちらの不安がまず大きすぎる。無音で過ごすのも落ち着かないのでその時放送されていた「IPPONグランプリ」を観てはみるのだがさっぱり頭に入ってこない。お笑いというのは気

          のっぴきならない【遅日記】

          構造が皮肉〜「哀れなるものたち」【読書感想】

          叶うならば映画館に行き「哀れなるものたち」を観たかったのだが、子育てスタートダッシュの時期ゆえ困難に。ならば、と思い原作小説である「哀れなるものたち」を手に取って読み進めてみたのだった。 予告編などで受けた印象は幻想的で奇怪な世界観の劇映画だったが、小説を開いてみるとその凝った構成にまず驚かされる。本作は、発見された(とされる)原稿とそれに基づく取材、そして登場人物の手紙や手記を編集した独特の構成だったのだ。訳者までもがその作りに準拠した後書を寄せるなど、禍々しい奇書の雰囲

          構造が皮肉〜「哀れなるものたち」【読書感想】

          お生まれになった日【遅日記】

          子が生まれた日のこと。まだまだ掛かりそう、ということで家に帰ったら途端に“本格的に陣痛が始まりそう”と連絡があり、湯引き程度の入浴ですぐさま産院へ再び向かった。時刻は0:00ちょうど。いよいよお生まれになるのか、と身構えた。 日中もずっと妻の付き添っていたが、陣痛の痛みを紛らすためにワイキャイ盛り立てるぐらいしか役には立たない。それも次第に強まる陣痛においては意味を為さなくなる。常々思っていたことだが、妊娠中から身体を共有している妻と子に比べると圧倒的に“外”の存在なのが父

          お生まれになった日【遅日記】

          言葉から始まる〜九段理江「東京都同情塔」【読書感想】

          私はしばらく小説作品から離れていたのだが、本作で一気に引き戻されたように思う。芥川賞受賞、押韻の効いたタイトル、そんな軽い興味からかなり深くまで引きこまれた。まさに今という時節に読むべき1冊だったと思う。 「東京都同情塔」は言葉そのものを巡る洞察に満ちた作品である。牧名沙羅と東上拓人という青年の語りが本作の中核を成している。しかしこの2人の関係性を掘り下げてみると、本作の人と人が通い合うことへの祈りに満ちた書としての側面が浮かび上がってくる。その点に注目してみた。 牧名沙

          言葉から始まる〜九段理江「東京都同情塔」【読書感想】

          子が生まれた

          先日、第1子が生まれました。すごい可愛さです。こんなに可愛いとは聞いていなかったです。可愛いという言葉が生まれる前から、人類は赤ちゃんの可愛さを感じ取ってここまで生きながらえてきたのだろうと思います。文化とか社会が立ち入らない、根源的な可愛いという魅力。これは素晴らしいものです。 私は常々、子を欲しいと思っていたタイプではないのですが、子を欲しくなったのには理由があります。妻と一緒に暮らしてみるとそれはそれは楽しく、基本的にずっと楽しかった人生がとんでもなく楽しくなってしま

          子が生まれた

          2024年1月の色々

          今月書いたnote年間ベスト記事の量を減らした結果、年始にだいぶ書くことが減ったためか中盤から怒涛のようにいっぱい書きました。 劇場映画の感想はこの1本。なかなか頑張りました。 今年のレビューはサクサクと色んなのを書いていきたい。精神分析ぽい視点もちゃんと入れつつ。 去年末の作品の書き漏らし。 年間ベストの書き残したち。 今年の抱負をぶちかましてます。 お笑いをどう語るべきか、と思案中。 そして30代へ。 Real Sound寄稿記事今月は3本。 今月の色々

          2024年1月の色々

          2024年1月のポッドキャスト

          今月は全3回、4本を更新。 ハタショー(@hatasyo5)さんとの「ポップカルチャー定期健診」、年間行事である2023年の全ポップカルチャー作品の中で良かったベスト10を発表しました。年始の「あたらしいテレビ」でも「#超個人的コンテンツアワード2023」というオールジャンルベストをやってたし、流行っていくかもしれません。 以下、選出作品です。(ハタショーさん→白数字、月の人→黒数字) ⑩ブランクスペース(漫画) ➓ ランジャタイ国崎の七変化(バラエティ) ⑨波紋

          2024年1月のポッドキャスト