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労働し空想する/米津玄師『LOST CORNER』【ディスクレビュー】

労働し空想する/米津玄師『LOST CORNER』【ディスクレビュー】

米津玄師が4年ぶりにリリースした6thアルバム『LOST CORNER』が凄まじかった。その多くがタイアップ付きであり大きく世に知れた既発曲12曲とせめぎ合うような新曲8曲によって構成された全20曲の大ボリューム作だ。聴くまでは新鮮味という観点では軽く考えていたのだが、結論から言えば72分間、圧倒されっぱなしだった。

既発曲を美しく繋ぎつつ、新曲たちも負けじとギラギラ輝く。“サブスク時代のアルバ

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2024年の遥か彼方/ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』

2024年の遥か彼方/ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』

ASIAN KUNG-FU GENERATIONがメジャーデビュー20周年を1年遅れで祝うシングルコレクションをリリースした。最新シングル「宿縁」から1stシングル「未来の破片」まで、現在から過去へと遡るような形で全33曲が収録されている。

本作のDisc1の1曲目を飾るのはメジャーデビューミニアルバム『崩壊アンプリファー』の1曲目であり、代表曲の1つ「遥か彼方」の再録テイクである。現時点で最新

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すべてはロマンのために/UNISON SQUARE GARDEN『SUB MACHINE, BEST MACHINE』

すべてはロマンのために/UNISON SQUARE GARDEN『SUB MACHINE, BEST MACHINE』

UNISON SQUARE GARDENが結成20周年を記念してキャリア史上初のベストアルバム『SUB MACHINE, BEST MACHINE』をリリースした。10周年はアルバム曲からのセレクト、15周年はB面集と様々な形でアニバーサリーを祝ってきた彼らだが20周年にして遂に正面突破のシングルコレクションである。

しかしそれはDisc2、Disc3の内容。Disc1は未発表曲たち(サブスク配

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2024年上半期ベストアルバム トップ10

2024年上半期ベストアルバム トップ10

アルバム編、今回の10枚は結構新鮮な顔ぶれになっているのではないだろうか。何度目かの新たなものを求めるターム。それでいて、常に安心感をくれるものも同時に愛したいターム。これですね

10位 グソクムズ『ハロー!グッドモーニング』

振り幅も円熟味もフレッシュさとはかけ離れた充実のメジャー1stアルバム。各曲ごとのフォークとロックンロールとダンスビートの切替が絶妙で、それぞれのキャラは濃いのにつるん

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MONO NO AWAREはなぜメシを食うアルバムを作ったのか/『ザ・ビュッフェ』【ディスクレビュー】

MONO NO AWAREはなぜメシを食うアルバムを作ったのか/『ザ・ビュッフェ』【ディスクレビュー】

メシを食う。何をするにしても、生命はその行為から逃れられない。根本的には生命維持の役割を持ちながら、五感を充足させる快楽物としての役割も果たす。そんな個人としての本能を満たすものでありつつ、時には食を共にする人との絆を確かめるような役割も果たすし、宴や儀式のようにより大きな存在へ捧げられる役割も果たす。

上の記事に書いたように、種々の表現やスタンスの表明としても食事は機能する。しかし食事はこうし

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異化される現世/Tempalay『((ika))』【ディスクレビュー】

異化される現世/Tempalay『((ika))』【ディスクレビュー】

Tempalay、3年ぶり5枚目のオリジナルアルバム『((ika))』に取り憑かれている。19曲72分という大巨編でありながら、その多彩で奇異な楽曲たちに身を委ねているうちにいつの間にか時が過ぎる。幽玄で、猥雑で、耽美で、乱暴で、果てしのない幻想譚。紛れもなく最高傑作だろう。

本作最古のシングル「あびばのんのん」のインタビューで前作『ゴーストアルバム』についてフロントマンの小原綾斗はこう語ってい

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境界で踊る〜橋本絵莉子『街よ街よ』【ディスクレビュー】

境界で踊る〜橋本絵莉子『街よ街よ』【ディスクレビュー】

橋本絵莉子の2ndアルバム『街よ街よ』に感動しきっている。前作『日記を燃やして』では柔らかなアレンジはアコースティックギターの音色も印象的だったが、本作はずっしりとしたグルーヴを活かしたロックバンドらしさ溢れる1作。ライブでの経験値が制作にも反映された好例だろう。

40歳を迎えた橋本が自身の年齢を「若くもないけど老いてもいない、この感じがちょうど踊り場っぽいなって。(中略)ただスッと過ぎていくだ

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戻れないけど消せもしない/Base Ball Bear『天使だったじゃないか』【ディスクレビュー】

戻れないけど消せもしない/Base Ball Bear『天使だったじゃないか』【ディスクレビュー】

子どもが生まれてから生活は変わった。粉ミルクを溶かす時間がルーティーンに組み込まれ、泣き叫べばオムツを変え、それでも泣き続けるならば抱っこする。当たり前のことだが、妻とともに育児に向き合う日々は去年までの自分とは全く違う。しかし買い物に行ったり、出勤したりする時にはいつも1人。そんな時、慣れ親しんだ音楽を聴けば自分が我が子の親になったという事実と同時に、今までと変わらない自分もまたここに居続けてい

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また思い出すための歌~yonige『Empire』【ディスクレビュー】

また思い出すための歌~yonige『Empire』【ディスクレビュー】

yonigeの3rdアルバム『Empire』が素晴らしかった。前作で手にしたなめらかなサウンドメイクを押し進めつつ、活動初期にあった直線的なスピード感も復権させた、懐かしくも新しいyonigeの姿。オルタナティブロック界隈で再発見されつつある2000年代初頭のムードを感じるような作品なのだが、聴き込んでみるとそこに新たな質感が見えてくる。本作は、ノスタルジーとは違う形で過去と向き合うセラピーのよう

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2023年ベストアルバム トップ20

2023年ベストアルバム トップ20

今年はびしっと厳選して20枚で1年を総括。ライブカルチャーの復権と揺れる世界、喜びも悲しみも猛スピードで切り替わる時流の中で、この音楽を聴いてる間はきっと大丈夫だ、と思えたアルバムを選びました。

20位 ROTH BART BARON『8』

三船雅也がドイツに拠点を移してからの1作目。ここしばらく毎年凄まじいアルバムをリリースし続てけいるが、本作はまた違う場所へ飛ぼうとする萌芽を感じた。エレキ

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アジカン精神分析的レビュー『サーフ ブンガク カマクラ』/今を肯定するノスタルジア

アジカン精神分析的レビュー『サーフ ブンガク カマクラ』/今を肯定するノスタルジア

5thアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』(2008.11.5)

11thアルバム『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』(2023.7.5)

2008年にリリースされた2枚目のフルアルバム。江ノ島電鉄の駅名を冠したタイトルの楽曲を藤沢から鎌倉に至るまで順番通りに揃えたコンセプト作品で、サウンドはパワーポップに傾倒し、レコーディングはやり直しや修正ナシの一発録り。歌詞も従来と異なり甘酸っぱい

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2023年上半期ベストアルバム トップ10

2023年上半期ベストアルバム トップ10

例年よりは遅れてしまったけれども、今年も上半期ベストnoteを書き上げることができた。良い歌モノとの出会いのきっかけになればこれ幸い。どのアルバムも、すごく優しい、というのは共通点かもしれない。心に寄り添うという作品が年々好きになっている。下半期も、音楽に抱えられていきたい。

10位 クラムボン『添春編』

蛙化現象という言葉がZ世代の流行語であり、しかもそれがYouTuberの動画を基に流行し

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アジカン精神分析的レビュー『ワールド ワールド ワールド』/“自分”として現実界に挑む

アジカン精神分析的レビュー『ワールド ワールド ワールド』/“自分”として現実界に挑む

4thアルバム『ワールド ワールド ワールド」(2008.3.5)

2年ぶりの4thアルバム。『ファンクラブ』から継承した複雑なアレンジを維持したまま、より外向きに、ポップに開けた楽曲たちが集まった本作。肉体は変わらないままで精神的姿勢に変化をつけたような作風と言える。ジャケットも前作はモノクロで正面を向いた少女、本作は極彩色で背中を向けた少女であるなど対を成しており、前作と明確な対比が付けられ

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男性ブランコ『やってみたいことがあるのだけれど』とスピッツ『ひみつスタジオ』

男性ブランコ『やってみたいことがあるのだけれど』とスピッツ『ひみつスタジオ』

男性ブランコのコントライブ『やってみたいことがあるのだけれど』を配信で観た。繊細な詩情に満ちたコントを元より得意としてきた男性ブランコだが、本作ではほぼ全コントが10分近くの尺があり、賞レースで消耗させる気のない作品性がある。トニー・フランクによるアコギの生演奏を劇伴にするなどその作りは演劇的。この方向性を磨くことに腹を決めたように見える。

そして最も唸ったのがそのコントの見せ方。現代漫才の中で

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