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連載シリーズ 物語の“花”を生ける

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文学作品や絵画、映画などに現れる花や植物の持つ力を、作品の中から掬いだして生ける
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#文学

【プロローグ】 物語の“花”を生ける

【プロローグ】 物語の“花”を生ける

昨年の7月から「物語の“花”を生ける」というシリーズで連載をしている。

そもそもこのnoteのコンセプトが「物語と物語をつなぐ千の花」である以上、花について何か書いてみたいとずっと思っていながら、何を書いたらいいのか分からない時間が長く続いた。

作家梨木香歩さんに『不思議な羅針盤』というエッセイ集があり、その中のいつくかに、さまざまな土地での暮らしとその土地に生きよう、根づこうとする花や植物の

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マツリゴトを負う女たちの覚悟の花

マツリゴトを負う女たちの覚悟の花

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第16回 『彼岸花が咲く島』(李 琴峰)ある年の9月、連休に両親がふたりだけで格安のバスツアーに出かけた。例年、8月のハイシーズンを避けて9月に夏休みをとって、両親と私の3人でちょっとした旅行に出かけるのだけれど、その年は仕事の都合で私の休みがとれず、両親だけで行くことになった。

父も母も高級な旅館やホテルに泊まりたいとかいいもの

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片腕偏愛と白い花

片腕偏愛と白い花

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第15回 『片腕』(川端康成)、『くちなし』(彩瀬まる)学生時代、飲み屋で友人たちと近現代の日本の作家で好きな作品を酒の肴にすることがよくあった。文学部で日本文学について学んでいたので、そういうことに一家言ある人たちが集まるわけで、飲み会の終盤はそういう話題で盛り上がった。それぞれの話しは面白いのだけれど、平安時代の物語の研究を志し

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蛇に飲み込まれた桜

蛇に飲み込まれた桜

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第14回 『桜心中』(泉鏡花)以前、勤めていた職場の向いに、ちょっとした古めかしいお屋敷があった。

木の塀に囲まれた緑豊かなお屋敷で、春には見事な桜を塀越しに見ることができた。欲張りな私たちはお屋敷の庭が真上から見渡せる上階の会議室でランチをしながら、ガラス越しのお花見を楽しんだ。

夏にはお屋敷の鬱蒼とした木々に生息する蝉の声が

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女の生き難さを物語る花

女の生き難さを物語る花

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第11回 『源氏物語』 朝顔の巻
駅の改札で待ち合わせをしていると、女子高生がふたり、向こう側から歩いてきた。

眩いばかりのエネルギー、この瞬間にしかない生命のきらめき。

その年齢にあるときは気がつかなかったけれど、私の人生にも、きっとそんな一瞬があったのだろう・・・。

そんな気持ちで近づいてくるふたりを眺めていると、そのうち

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過去も未来も超える花

過去も未来も超える花

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第9回 『時をかける少女』(筒井康隆)
数年前に花生けをはじめるまで、花が好きだとか、植物に興味があるだとか思ったことがあまりなかった。

小学生のとき、夏休みに朝顔やひまわり、糸瓜(へちま)を育てて観察日記をつけるという課題があった。なぜか毎年、芽すら出たことがなく、観察日記がつけられなくて、田舎で植物を育てていた祖父に泣きついた

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小町の復讐をかたどる花

小町の復讐をかたどる花

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第8回 『小町の芍薬』(岡本かの子)2020年。私たち人間だけでなく、花や植物たちにとっても厳しい年だった。

日本では3月に自粛生活がはじまり、4月に緊急事態宣言が出て、一年のうちでもっとも花を必要とするイベントがすべて中止になった。花や植物の需要が激減し、それを生業とする人すべてが苦しんだ。生産者は丹精込めて育てた花や植物たちを

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鬼がこの世にただひとり、生きた証を刻みつける花

鬼がこの世にただひとり、生きた証を刻みつける花

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第3回 紫苑物語(石川 淳)前の週の暑さがうそみたいに冷え込んだ9月終わりの雨の日、花の稽古で花材の仕分けをしていると、直径3センチほどの小菊のような薄紫色の花を手にした。

それまであまり見たことのない花だったけれど、その姿形からこれは紫苑かもしれないと直観した。先生にたずねてみたところやはりそうだった。

須賀敦子の『トリエステ

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