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『かがやく、どうき』
どうきのCはおかたいが、なかなか有能な奴だ。
落ち着いた風貌で少し地味目だが、近づいて目を凝らすと端正なのがわかる。
その上飲み会でビールを注ぐと黄金色の泡をきめ細やかに泡立たせ皆を笑顔にする。
お蔭でどの部署からも貸してくれとよくヘルプで呼ばれこき使われているが、その度に磨かれているので存在感は益々異彩を放っている──。
俺もCには負けないように皆に必要とされる人間でありたい。
俺
桜の気持ち(桜回線)
(今年もワシたち桜並木を観に観光客が殺到しとるのぅ……)
「このソメイヨシノはね、樹齢150年を越えていて……」
また知ったかぶりの若い男が、女の子の前でワシの物語を話している。
どこで知識を得たのかと不思議だったが、Wikipediaというインターネット上のまとめサイトから引用しているらしい。
「この木の前で告白しようってずっと思ってたん……好きだよ。付き合ってくれる?」
『ゴメン無理。さ
『デジタル・バレンタイン💝』
「このスポンジ知ってる?」
私はマグカップに付いた茶渋を、水を含ませたスポンジで丁寧に取っていく。
『あー、それネットでなら見たことあるよ‼️』
「そう、メラミンスポンジ。とにかく昔は何をするにも今よりだいぶん時間がかかったのよ」
『そんなのAI食洗機にやらせちゃえば一発なのに』
「そうなんだけど、懐かしくて。さてマグカップも綺麗になったし美味しい珈琲を淹れようか」
『賛成!ところでこれ……』
夕焼けビール🍻(ツノがある東館)
「今日の一杯はきっと最高のものに違いない」
俺はそう確信すると定時きっかりに会社を後にした。
クラフトビール店『空層(くうそう)』の東館の入り口には既に数人が列を成しており、暑い中入店まで小一時間程待たされた。
その間に夕間暮れの空は漆黒を纏っていく。
(はたして間に合うかな……)
入店し顔馴染みのマスターと目を合わせると彼はうんと頷いた。
『本日の夕陽の美しさは近日観ない程でしたから、そ
ペンギンと暮らしたい(なるべく×動物園)
A国へ二年という期限で会社から単身赴任を命じられて越してきた当初は、戸惑うことも多かったが自宅にはプールがあり、仲良くなった友人を招いては頻繁に泳いでいた。
しかし、妻が作ってくれる和食が恋しくて、一日も早く帰国したいと常に願っていた。
残り一ヶ月となった頃、何気なく住まいのしおりを見て愕然とした。
なんとこの家のプールではペンギンの飼育が可能だったのだ。
ペンギンは幼い動物園で見て
しゃべる家電たち(イライラする×挨拶代わり)
最近の家電は意志の疎通ができる。私は帰宅して直ぐにご飯が食べられるように休日は炊飯器のタイマーをセットして出掛けるのだが、最近調子が悪くたまに時間になっても炊飯を開始しないので、すぐ側に置いている電子レンジが
「時間よ、早く早く!」と喋りだし、
「わかってる……」と嫌々起きた炊飯器が答えるという具合に家電同士の喧嘩がたまに勃発する。
留守宅を監視出来るカメラでそのことを知って以来、私は家電たち
『西瓜』(ほんの一部✖️スイカ)
同居していた義母は西瓜を嫌っていた。
子供の頃何度か種を飲み込んでしまい、その後必ず気分が悪くなったからね、と夏が来る度そう口にした。
それでもどうしても家族に西瓜を食べさせたかった私は、長男が三歳になる頃一度買ってきて夕食後の食卓に出したが、義母は「きっと後悔するよ」と呟き、食べずにその場を去った。
それ以来、私が西瓜を購入することはなくなり、いつの間にか食べたいとも思わなくなっていった
家族の想い出 (生き写し×バトル)
「俺のことなんてどーでもいいんだろ?」息子が反抗期を迎えた。
共働きで構ってやれてないからか?俺も妻も帰宅が遅いので最近はすれ違ってばかりだ。どうしよう……。俺は暫しの間考え新型のVRシステムを買ってきた。
「翔、これを一緒に見よう」
ヘッドセットは三つ。一人一つずつつけると、俺はスタートボタンを押した。
予め設定していた通り、俺自身の家族と過ごした想い出が流れはじめ、年月を遡っていく。