小雨
20代、等身大で頑張る人たちを取材しています。
50スキ以上頂けたオススメの作品たちです。
ホッと一息つく3分〜5分で読める短編小説です。
隙間時間の30秒で読める超短編小説です。
君と出会う少し前、 私は人生の底を見た気がした。 もうあれ以上傷付かないよう 失って惜しいものなど持たぬよう これから先の人生は 一人静かに慎重に生きていくつもりだ…
2023年10月22日 秋晴れに恵まれたこの日、 島根県出雲市の沿岸部に位置する十六島町で 若宮神社例大祭が執り行われた。 4年ぶりの開催となった今年、 相変わらずの野太く…
夕日が西に傾く頃 波風がぴたりと止むのが分かった。 僕は歩みをふと止めて 振り返ってシャッターを押した。 20代の折り返し地点に立ったとき それまで自分に 惜しみなく…
君への触れ方 僕はすっかり 忘れちゃったよ。
拝啓 元恋人へ お元気にしていますか? 今は誰か別の人の隣で 幸せに過ごしていますか? おかげさまで私の方は 別にあなたが隣に居なくても 充分に幸せに過ごしています…
日曜日の午後1時、 ベッドに寝転び手持ち無沙汰な私は 弓を引いては射るかのごとく タイムラインの更新を繰り返していた。 0コンマ3秒のあいだ グレーのビジーカーソルを…
果てしない無敵感と底なしの無力感を 両腕に抱えた14歳の私は、 校庭に敷かれたトラックを見下ろしながら そのけだるい身体を教室の壁に預けてみた。 モルタルの壁に触れ…
春の訪れを感じる瞬間ってのがある。 花粉が鼻腔をくすぐるからじゃない。 桜が青空をピンクに染めるからじゃない。 昼間パーカーの袖元が少し汗ばむからじゃない。 コナ…
「じゃあ、そろそろ行くね」 そう言って洗面所から出てきた彼女の唇には 薄いピンクのリップが塗り直されていた。 「おう」 案外あっさりと訪れた別れの瞬間に 拍子抜けし…
生意気にも今日は少し、 昔話なんかをしてみたくなった。 まあ、大して昔の話でもなくて せいぜい2.3年前のことなんだけど。 私にとっては今でも眩しい 一生に一度しか訪…
浅草ロック座、雨の夜。 静かであまり人が居ないなら、 アンナはトップレスになって踊った。 舞台の真ん中、背後から 大きなミラーボールに照らされた 彼女の裸体の曲線は…
「はぁ…はぁ…はぁ… 先生、また最近苦しいんです」 「最近はどんな症状が気になる?」 「不安なんです。とにかく。 涙が出るしイライラもするし。 なんだか息もしにく…
新年明けましたね。 おめでたいことなのでしょう、きっと。 こんなおめでたい日なのですが あえて白状したいことがあるのです。 私、この艶やかな赤と白に 神々しい金色の…
たいていの人は、 自分が本当はなにが欲しいのか 心の中でわかっている。 私もあなたも、例外なく。 本当に手にしたいものが 目の前を通り過ぎようとしたとき 人はとっさ…
「ねえねえ、 あの子のどんなとこが好き?」 私は彼に問いかけた。 彼は半分ふざけて、 半分まじめに私に答えた。 「あのね、足が速いとこ」 思わず笑みがこぼれた私は …
週末、彼の家へ向かう道すがら 思い立ってケーキ屋に立ち寄った。 ショーケースの中には 宝石のように輝くケーキ達が並んでいた。 「ショートケーキ、2つ下さい」 真っ赤…
2024年2月5日 14:25
君と出会う少し前、私は人生の底を見た気がした。もうあれ以上傷付かないよう失って惜しいものなど持たぬようこれから先の人生は一人静かに慎重に生きていくつもりだった。だけど、君に出会ってから私の人生は君の手によりみるみる変えられていった。直観的で突発的で、毎分毎秒の“今”を生きる君はそれまで固く握りしめていた私の拳をいとも簡単に解いてみせるとその手をぎゅっと握り少し強引
2023年12月30日 10:45
2023年10月22日秋晴れに恵まれたこの日、島根県出雲市の沿岸部に位置する十六島町で若宮神社例大祭が執り行われた。4年ぶりの開催となった今年、相変わらずの野太く力強い太鼓の音と鋭く繊細な笛の音の祭囃子に合わせ、初々しくも逞しい獅子舞踊りが奉納された。多井区に古くから伝わるこの伝統芸能を代々継承してきた「多井獅子舞保存会」は今年新たに8名の若手会員を迎え、次世代への伝統継
2023年12月4日 12:13
夕日が西に傾く頃波風がぴたりと止むのが分かった。僕は歩みをふと止めて振り返ってシャッターを押した。20代の折り返し地点に立ったときそれまで自分に惜しみなく吹き込んでいた夢や希望の類のものがぴたりと止んだのが分かった。会社員は思ったより偉くないし、貯金残高は思いのほか増えない。朝までカラオケで歌い飲み明かすくらいなら自分のベッドで眠りたいし、一度温泉に浸かったくらいじゃ
2023年11月4日 23:44
君への触れ方僕はすっかり忘れちゃったよ。
2023年10月9日 13:36
拝啓 元恋人へお元気にしていますか?今は誰か別の人の隣で幸せに過ごしていますか?おかげさまで私の方は別にあなたが隣に居なくても充分に幸せに過ごしています。安心してください。あなたへの未練なんてものは微塵もありませんよ。ただ、本当にたまに、今の私の「当たり前」はそういえばあなたがつくったものだとふと気が付かされることがあるくらいです。シャンプーは未だに黄色のH
2023年9月18日 13:43
日曜日の午後1時、ベッドに寝転び手持ち無沙汰な私は弓を引いては射るかのごとくタイムラインの更新を繰り返していた。0コンマ3秒のあいだグレーのビジーカーソルを眺めて待っていると一枚のウエディングフォトが映し出された。海辺の夕陽に照らされて花嫁とまっすぐに見つめ合うその横顔はあの頃私が、どうしようもなく好きだった儚くて遠いあの横顔だった ────────「よっミカ、ひさびさ
2023年5月2日 14:13
果てしない無敵感と底なしの無力感を両腕に抱えた14歳の私は、校庭に敷かれたトラックを見下ろしながらそのけだるい身体を教室の壁に預けてみた。モルタルの壁に触れた制服の肩元は黒板のチョークが擦れたみたいに粉っぽく、粗い白色に染まった。その白を見つめため息を吐く私は早く、こんな服を脱ぎ捨ててこの小さな箱から抜け出したいと思っていた。港町の小さな中学には同級生が19人しかいなか
2023年4月16日 22:40
春の訪れを感じる瞬間ってのがある。花粉が鼻腔をくすぐるからじゃない。桜が青空をピンクに染めるからじゃない。昼間パーカーの袖元が少し汗ばむからじゃない。コナンの映画が公開されるから。なんとまぁ商業的で風情のないこと。それでもこれが、来る年も来る年も私に渦巻く"春"の想いを性懲りも無く揺さぶってみせるのだ。シリーズ第1作目は1997年公開の『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』
2023年3月19日 15:26
「じゃあ、そろそろ行くね」そう言って洗面所から出てきた彼女の唇には薄いピンクのリップが塗り直されていた。「おう」案外あっさりと訪れた別れの瞬間に拍子抜けした僕は思わずそっけない返事をした。「荷物、これだけ?」彼女の足元にまとめられている2.5周分の四季の洋服が詰め込まれた大きめのキャリーケース1つとよく分からないタイトルの本がびっちり詰まった2つの大きな紙袋は28歳女性
2023年2月12日 18:23
生意気にも今日は少し、昔話なんかをしてみたくなった。まあ、大して昔の話でもなくてせいぜい2.3年前のことなんだけど。私にとっては今でも眩しい一生に一度しか訪れない青春みたいな日々だったからふいに今、言葉で残しておきたくなった。大阪に住んでいた頃、「緊急事態宣言」やら「まん防」やらに私たちの青春は踊らされていた。会社の同期や先輩たちとの飲み会専用グループLINEがふい
2023年2月11日 19:29
浅草ロック座、雨の夜。静かであまり人が居ないなら、アンナはトップレスになって踊った。舞台の真ん中、背後から大きなミラーボールに照らされた彼女の裸体の曲線はまるで雨粒を乗せた紫陽花の葉脈が今にも弾け落ちそうなその重みに静かな力を指先に込めながらなんとか堪えているかのようなしなやかで危うい線だった。客が多く集まる舞台になれば彼女はさっと蒼のショールを身に纏いバストを隠し妖
2023年2月5日 12:49
「はぁ…はぁ…はぁ…先生、また最近苦しいんです」「最近はどんな症状が気になる?」「不安なんです。とにかく。涙が出るしイライラもするし。なんだか息もしにくい気がする。いつまでこれが続くんですかね?はやくこの苦しさから逃れたいんです…だからほら、またあの薬か欲しいんです」社会人になった頃からだろうか、その病はいつも突然に私に襲い掛かった。ただ幸いなことに、この手の症状を緩
2023年1月2日 15:25
新年明けましたね。おめでたいことなのでしょう、きっと。こんなおめでたい日なのですがあえて白状したいことがあるのです。私、この艶やかな赤と白に神々しい金色のあしらわれた年末年始の華やかな数日間がどうにも少し、苦手なのです。ええ、ええ、分かっております。なんと寂しい心の人なのだろう、素直に楽しめばいいのに。そんなだと、神様にそっぽ向かれて罰当たりな年になっちゃうわよ、だと
2022年12月13日 18:51
たいていの人は、自分が本当はなにが欲しいのか心の中でわかっている。私もあなたも、例外なく。本当に手にしたいものが目の前を通り過ぎようとしたとき人はとっさに手を伸ばそうとする。それが彼方100キロメートル先の夜空を駆け抜けようと、わずか20センチ先のお寿司のレーンを駆け抜けようと。いわゆるそれが「直観」であり、その手を止めるのが「論理」である。『あれが欲しい』と直
2022年11月6日 13:16
「ねえねえ、あの子のどんなとこが好き?」私は彼に問いかけた。彼は半分ふざけて、半分まじめに私に答えた。「あのね、足が速いとこ」思わず笑みがこぼれた私は彼の言葉に深く、何度も頷いた。あの子は小学生の頃からいつも1番にゴールテープを切っていた。そしてその場で立ち止まりそっと後ろを振り返って私を気長に待っていてくれた。足が速くて泳ぎも上手くてそろばん教室でもすいすい進
2022年10月25日 18:55
週末、彼の家へ向かう道すがら思い立ってケーキ屋に立ち寄った。ショーケースの中には宝石のように輝くケーキ達が並んでいた。「ショートケーキ、2つ下さい」真っ赤な苺が乗ったのを選んだ。とびきり苦い別れ話には、とびきり甘いショートケーキを添えてやる小粋な女を演じてみたかったのだ。深呼吸してからチャイムを押すとドアの隙間から伸びてきたのは白くてすらりと長い腕だった。ドアの向こう