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『伝統の継承〜若宮神社例大祭2023〜』

2023年10月22日
秋晴れに恵まれたこの日、
島根県出雲市の沿岸部に位置する十六島町で
若宮神社例大祭が執り行われた。

4年ぶりの開催となった今年、
相変わらずの野太く力強い太鼓の音と
鋭く繊細な笛の音の祭囃子に合わせ、
初々しくも逞しい獅子舞踊りが奉納された。

多井区に古くから伝わるこの伝統芸能を
代々継承してきた「多井獅子舞保存会」は
今年新たに8名の若手会員を迎え、
次世代への伝統継承の新たなスタートを切った。

今回、自身も十六島の町で育ち
若宮神社のお祭りに慣れ親しんできた筆者が
若手からベテランを含む
4名の保存会員にインタビューを行い
それぞれの祭りにかける想いを取材した。

▼樋野誠治さん(47)「伝統の着物に袖を通すことへの誇り」

─4年ぶりの開催となった若宮神社例大祭、誠治さんは今年保存会の会長を務められたとのことで、本当にお疲れ様でした。ご感想はいかがでしたか?
コロナ明けということもあり、例年よりもいろいろな部分を縮小しての開催になりましたが、思ったよりも多くの人に獅子舞を見に来てもらえて良かったと思います。また、保存会に若手がたくさん入って活気が出たのが本当に良かったです。祭りの準備では熱心に清掃活動に参加してくれたり、のぼりの一部が壊れていることに若手の子達が気付いて修理してくれていたりしました。そして獅子舞踊りの稽古や本番でも充分に踊れており、改めて地域で育った子たちは素直でいい子ばかりだなと感じました。全体的に今回の保存会内で、世代間のギャップみたいなものはあまり感じなかったですね。

─無事開催ができたとのことで本当に良かったです。今年は久々の若手会員の入会によって良い変化があったとのことでしたが、これまでの多井区獅子舞保存会の運営体制はどのようになっていたのでしょうか?
以前は今よりも保存会員は多く、毎年42歳の厄年の会員が会長を務めて45歳までは準会員として在籍、45歳を超えると引退するという仕組みでした。しかし今は、地域の中にも担い手が減り約10年前から永久会員制に変更されました。そのため現在の最高齢は58歳となり、会員約24名で活動を続けています。区と保存会が分担をして地域の清掃・祭り花づくり・のぼりの準備・獅子舞の稽古と奉納・先払い(くそばんない)・花集め等を行っていましたが、保存会員数が以前よりも減ってきている状況の中、会員だけでは担いきれない部分が出てきているのも実態です。

─保存会の存続のために年齢制限が無くなった経緯があったんですね。伝統継承に向けた難しさもある中、今後はどのような形でお祭りを続けていきたいですか?
やっぱり多井区にとって、このお祭りは地域のコミュニティが継続していくためにも必要なものだと考えています。だからこそ、今の雰囲気を壊さずに続けていきたいです。周辺の地域でもこういったお祭りは開催されていますが、会員全員が着物を着て下駄を履いて奉納を行うのは、この辺りでは多井区だけなんです。着物も高価なものなので簡単に買うことはできませんが、地域にいらっしゃる保存会OBの方達が若手に譲り渡すことで繋がっている伝統の衣装です。こういう伝統を大切にしつつ、子供世代ももっと巻き込むことで、これからもお祭りを盛り上げていけたらと思っています。

「鳥居舞」前の獅子の様子を確認する誠治さん

▼錦織朋則さん(48)「年々変化し個性が出るからこその面白さ」

─保存会員でありながら新人会員の息子・賢人さんと一緒に獅子舞稽古に汗を流されていた朋則さん。今年のお祭りはいかがでしたか?
今年の祭は、新しい子たちも入ってきて良かったんじゃないかなと思います。獅子舞に関しては「伝統だけんこうじゃないといけん」とかいう声もありますが、同じ踊りでも人が違えば個性や味が出るものだし、若い子が踊れば多少不格好でも面白がって見てくれる地域の人がいるし、それはそれでいいと思います。獅子舞はやること・参加することに意義があると思うので、無理に形にこだわらなくていいと僕は思っています。

─また小学生の娘さんの父として、子供神輿の指揮も取られていましたね。いろんな面から祭りを盛り上げる工夫をされていると思いますが、これまではどんなことをしてこられましたか?
子供やその保護者の数もどんどん減ってきており、以前は重たい神輿を大人が担ぎその周りを子供たちが歩く形式をとっていましたが、大人の担ぎ手が減ったため子供でも手軽に持ち運べる段ボール神輿に変えてみました。そしてそこに参加する子供の数を増やすため、地域を離れている地元出身者の子供や孫にも声をかけ祭りの当日に来てもらいはっぴを着て一緒に神輿を担ぎました。またさらには、地域住民の高齢化も進んでいます。若宮神社には長い石段があり、足腰の弱ったお年寄りは祭りの日に神社まで上るのが億劫になっていたようですが、自分が保存会会長をした年に神社での餅まきを企画したところ、餅まきを楽しみにたくさんのお年寄りが長い石段を登って参加してくれました。そして何より今年の若手会員の勧誘のために昔からやっていたのは、彼らが中学生になってから”くそばんない”として祭りに参加してもらうように声をかけることです。くそばんないに追いかけられて楽しんでいた小学生が今度は中学生になり追いかける側になる、こうして少しずつ祭りに関わり自分たちで盛り上げていく、この経験がすごく大切だと思ってやってきました。

─柔軟に変化を受け入れて楽しい祭りをつくろうと工夫されてきた朋則さんは、この先お祭がどんな形で続いていってほしいですか?
これからも祭は、地域の中や外からみんなが集まる社交の場として続いていってほしいです。昔からやってきたことを受け継ぐことは大切ですが、祭りの本質は「みんなが集まり楽しむこと」にあると思います。これからも祭りがそんな場になるように、工夫して変化させていきたいと思います。

はっぴを着て子ども神輿の指揮をとる朋則さん

▼錦織賢人さん(24)「”祭は楽しい”という子供の頃の原体験」

─今年から新たに同世代の幼馴染8人で獅子舞保存会に入会した賢人さん。初めての稽古や祭り当日の感想はいかがでしたか?
正直今回の稽古から本番までは、楽しさよりも体力的なしんどさが大きかったです。「剣舞」という演目を担当し、笛のメロディーや転調のタイミングを頭に入れることが大事だと教わって毎週の稽古は欠かさず参加しましたが、8月から10月という練習期間の短さから不安な部分も多くあり、本番はやっぱり緊張しました。普段稽古で着ていた楽なジャージとは違って袴を着たし、場所も屋外だったので全然踊りの感覚が違いました。本番特有のハプニングや踊りを間違えてしまったところもありましたが、踊り終えた後の達成感や周りから褒めてもらえたことの満足感が得られました。その反面、来年はもっといい舞ができるように頑張りたいという強い思いも芽生えました。

─仕事をしながら週末には稽古をする日々、慣れないことも多く大変だったと思いますが、そもそもどうして保存会に入ろうと思ったんですか?
日常的に地域にいる幼馴染たちと遊ぶことも多いですが、保存会に入ることに関しては特段話し合って示し合わせたわけではなく、ただなんとなく自然にみんなこのタイミングで入ることになっていました。今年のお盆に保存会の方達が開いてくださった歓迎会を兼ねた近所でのBBQでは、お酒を飲みながら「自分は何の役をやってみたいか」発表する場がありました。そこで自分は、なんとなくやるなら獅子舞かなと思って立候補し、そのまま決まりました。特別獅子舞に興味があったわけではありませんが、保存会の活動をする父の姿を見ながら、子供の頃にお小遣いを持って数少ない出店を行き来して、ひたすらくそばんないから逃げ回っていた祭りのあの雰囲気が好きだったので、保存会に参加することにしました。

─賢人さんにとって祭りは、子供の頃からの楽しい思い出だったんですね。そんなお祭りをこれからはどんな風にしていきたいですか?
自分も含め、文句を言いつつ地元が好きな奴ばっかりなので、せっかくならもっと子供たちがたくさんいて盛り上がっている、自分たちが子供の頃楽しかった祭をもう一度つくっていきたいです。自分たちでもっと出店を呼んだりSNSを活用して地域の外にも発信していったりしてみたいです。それぞれの立場や世代によって「当たり前」にも違いがあって、いろんな価値観の中で良いものは残しつつ、変えるところは変えていかないと地域が終わっていくような気がします。そのためにもまずは保存会員として多井区に関わり、この地域の仕組みや伝統を正しく知ることから始めたいと思っています。

初めての獅子舞を無事終えた優憲さん・希さん・賢人さん

▼渡部優憲さん(25)「肌で触れるからこそ感じた奥深さ」

─今年から入会した若手会員の中では最年長の優憲さん。保存会員として初めて祭りに関わり、どんなことを感じましたか?
獅子舞の「やまだし」という演目を務めましたが、明確な手順書のようなものもなく、最初は何から手を付ければいいのかという戸惑いが大きかったです。獅子頭は持つと意外と重たかったし、袴を着ると歩幅が狭くて動きにくかったです。毎日毎晩DVDを流して覚えた振りも、本番では見に来た人の多さにテンパってしまって、一部振りを間違えてしまいました。地域の祭りの運営は、それぞれの意見を持った中でもお酒を飲まないと本音を話してくれない人も多く、時には言い合いになってでも言葉にして伝え合うことが大事だとも感じました。終わった後には地域の皆さんが「よかったよ」と言っては下さいましたが、祭りをつくるということはこんなにも難しいものなのかと痛感させられました。

─伝統を継承する現場を経験して、地元の祭に対する考え方は変わりましたか?
今年、獅子や祭りに自分の手で実際に触れたからこそ気付いた泥臭さや煩わしさ、そして奥深さが多くありました。本気で伝統を守っていこう、繋いでいこうとする人たちが祭りに関わっていくからこそ生まれる「変化」や「個性」はすごくいいものだと感じるようになりました。

─触れなければ分からなかった、貴重な学びや気付きがあったんですね。これからの祭の担い手となる世代として、今どんなことを考えていますか?
今年は自分たち若手が一気に入りはしましたが、またしばらく次の世代が多く入ってくることは無さそうです。このままの形では衰退してしまう、だからこそ少ないながらも次の世代に早くから祭りに触れあってもらうことが大事だと考えています。僕たちがしてもらってきたように、獅子に頭を嚙まれることやくそばんないに追いかけられて逃げ回ることもそうだし、さらには僕たちがしてこなかった笛や太鼓などの楽器に触れる経験などもさせていけたらもっといいと思います。そうしてこれからも、この多井のお祭りは、その時その時にできる人たちでできる形で続けていければいいと思っています。

保存会若手会員が扮する”先払い(くそばんない)”


(インタビュアー:樋野奈々彩)

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