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【エッセイ】アルコホリックの果てに


生意気にも今日は少し、
昔話なんかをしてみたくなった。

まあ、大して昔の話でもなくて
せいぜい2.3年前のことなんだけど。

私にとっては今でも眩しい
一生に一度しか訪れない
青春みたいな日々だったから
ふいに今、言葉で残しておきたくなった。


大阪に住んでいた頃、
「緊急事態宣言」やら「まん防」やらに
私たちの青春は踊らされていた。

会社の同期や先輩たちとの
飲み会専用グループLINEがふいに動く。
『緊急事態明けたら飲み行こ!』
先輩からのその号令が
窮屈で単調なリモート生活からの
脱出の合図だった。

あの頃の私たちは、
特別話したいことがあるわけでもなく
特別酒が飲みたいわけでもなかったと思う。

それでもどうにか一つの机を皆で囲んで
盃を交わし、くだらない話をしながら
だらだらと週末を溶かす時間が必要だった。


『土曜19時、JR天満駅前改札集合』
それがいつものお決まりコースで
大抵誰かが遅刻するのもまたお決まり。

迎え酒に迎え酒を繰り返し
五日酔いで土色の顔をした先輩の
六日目の過ちを祝う乾杯。

贅沢に卓上に並べてはみたけれど
味や銘柄の違いなんて
何一つ覚えていない日本酒飲み比べセット。

少しの煙を吸い込んでむせ返る
子供な私を見てみんなが笑う
雨上がりの路上喫煙所。

あの子が突っ伏し眠れば始まる
お酒交じりの車座ミーティング。
それでちょっと口喧嘩みたくなる雰囲気。

トイレから戻り、一度開いたドアを閉めた
ビッグエコー天満駅前203号室の
秘密の二人のアバンチュール。

最終電車めがけて走って通り過ぎた
知らない街のネオンと看板。
そこで落としたお気に入りのマスク。


酒が人間をダメにするんじゃない。
人間はもともとダメだということを
酒が教えてくれるものだ。
         ー7代目 立川談志ー

あぁ、ダメなところをダメなままに
惜しげもなく私に見せてくれた
あの人たちの存在と時間が
今の自分を支えているんだなぁ。

恋しいなぁ。
また、会いたいなぁ。

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