見出し画像

【エッセイ】永遠は、いくつもの今でできている。


君と出会う少し前、
私は人生の底を見た気がした。

もうあれ以上傷付かないよう
失って惜しいものなど持たぬよう
これから先の人生は
一人静かに慎重に生きていくつもりだった。

だけど、
君に出会ってから私の人生は
君の手によりみるみる変えられていった。


直観的で突発的で、
毎分毎秒の“今”を生きる君は
それまで固く握りしめていた
私の拳をいとも簡単に解いてみせると
その手をぎゅっと握り
少し強引に連れ出してくれた。

不思議なほどに温かい君の左手は
冷え切った私の右手へ
ひとひらのぬくもりと
てのひらから溢れるほどの彩りを分け与えた。

君と手を繋いだ私の世界は
前よりずっと曖昧で不規則で、
それでいて底無しに温かく
鮮やかに変化していくのがわかった。


君が私のお皿に乗せてくれた
赤いしっぽの大きなエビフライは
それだけでお腹と心を充分に満たしてくれた。

君の勧めで髪を短くして
良好になった視界には
君の驚き、喜ぶ肌色がよく映った。

お古でもらったネイビーのキャップから
香るいつもの香水の匂いは
嫌でも君を恋しくさせた。

スタジアムに響く青色の声援と
興奮気味にピッチを見つめる君の歓声は
鼓膜と胸をドキドキ叩いた。


君がくれた愛しいこの色も音も
味も香りも手触りも、
いつかは失い消えゆくものなのだろう。

君が連れ出してくれたこの鮮やかな世界を
どうやら私は少し、愛しすぎたらしい。

だからあれほど誓ったのに。

もう傷付かないよう
失って惜しいものなど持たぬよう
一人丁寧に慎重に
生きていくつもりだったのに。


ただ、気付けば
そうして失いゆくことでさえ
別にもう構わないと思えるほど
君と過ごす次の一瞬が待ち遠しいと
考える私になっていた。

君と手を繋いだ私は
過去にとらわれ未来に怯えることなく
今この瞬間を生きようとするようになっていた。



明日が君で明後日が私の誕生日。
2024年2月5日の今日、
みずがめ座の君と私は家族になる。

あの広い宇宙でさえ
“無限”なんて存在しないように
私たちが暮らすこの星にも“永遠”なんて
存在しないみたいだけど

できることならこの先もずっと、
私は君と手を繋ぎながら
歳を重ねていきたいと思っている。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?