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【エッセイ】春の訪れ、事件の香り


春の訪れを感じる瞬間ってのがある。

花粉が鼻腔をくすぐるからじゃない。
桜が青空をピンクに染めるからじゃない。
昼間パーカーの袖元が少し汗ばむからじゃない。

コナンの映画が公開されるから。
なんとまぁ商業的で風情のないこと。
それでもこれが、来る年も来る年も
私に渦巻く"春"の想いを
性懲りも無く揺さぶってみせるのだ。


シリーズ第1作目は1997年公開の
『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』

私の誕生と共にスタートした
劇場版名探偵コナンシリーズは、
子供の頃から全作くまなくチェック済み。

そして時は経ちいつからか、
このコナンシリーズは
大人になってからの私にとって
格好のデートの口実になっていた。


2019年4月公開のシリーズ第23作目は
『名探偵コナン 紺青の拳』

就活時代のグループワークで一緒だった彼と
入社式で運命的な再会を果たした。
そのまま二人は盛り上がり
初デートにこの映画を観に行った。

入社研修のための
2ヶ月間の東京滞在で恋をした
東京生まれ東京育ちの彼は
お台場の夜景の前で告白してくれたけど
隣に居てもどこか遠い存在で
関係は長く続かなかった。


2021年4月公開のシリーズ第24作目は
『名探偵コナン 緋色の弾丸』

出会いも減ったコロナ禍のこと。
友達に誘われた飲み会で知り合った
地元が同じ彼は、大阪では耳珍しい
地元の方言を話してくれたから
私はすぐに彼に懐いてデートした。

彼の話す懐かしい言葉を耳にする度
私の想いは彼自身ではなく
地元への恋しさに変わっていき
「もう地元には戻る気ないよ」
そう話す彼と私の未来は
どうにも混じり合わないだろうなと
密かに察し、密かに距離を置いた。


2022年4月公開のシリーズ第25作目は
『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』

とうとう地元に帰ってきた私は
今度こそ落ち着いた恋愛を探そうと
県庁勤めの彼と出会って早々
映画デートに行ってみた。

都会で知り合う男の人たちと違って
誠実に将来を見据えた話をしてくれる彼は
まさに私が理想としていた彼氏像だった。
だけどいつしか、
彼の描く理想の彼女でいることが
どうしても苦しくなってお別れした。


同じような失恋が
こう2度も3度も連続で起きると
良からぬジンクスのようなものが
私の中に生まれ始めた。

「好きな人とコナンを観にいくと
関係性は長く続かない」

これはきっと、
春先の陽気な気分にまかせて
出会った男性に簡単にときめいて
大好きな映画をまだ大好きでもない人との
デートの口実にしてしまう
そんな自分の軽率さだとかなんとかが
根本的な原因なのだろう。

だかしかしここは一つ、
コナンくんに罪を被せて
ジンクスとかいう非科学的なもので
迷宮入りとして片付けることにする。


そして2023年春、
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』が公開された。
どうやら映画の評判は良く
コナンファンとしてもけっこう気になる。

懲りない私は今年もやっぱり、
劇場版名探偵コナンを一緒に観たい人がいる。
だけどまだ彼を誘えず仕舞い。

誘えば彼は「いいよ」って言って
当たり前のように隣で観てくれるんだろうけど
良からぬジンクスが頭をチラつく。
「この人は他とは違う」
そう思いたいけど勇気が出ないでいる。

そういえば、
今年の初詣のとき彼が言っていた。
末吉を引き辛辣なおみくじの言葉に
肩を落とす私を見て、大吉を引いた彼は
当たり前みたいにこう話す。

「大吉の俺の隣に居れば大丈夫でしょ」

いつも無根拠に私の腕をぐいぐい引いて
思いがけない景色を見せてくれる彼。
そんな彼なら、信じてみたいと想う私は
彼とあと何度の春を一緒に迎えるのだろうか。


何度恋したって間違えたって
また恋することを諦められずいる。

だけどそうしていればいつかはきっと
真実の愛を見つけられるはずなんだと
春がくるたび、事件が起こるたび
私は強く、信じたくなるのです。

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