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ワンファクターモデル経済学:生産性が労働時間によって決まる!!このことが示す国の政策

おさらい:ワンファクターモデル経済学とは?

ワンファクターモデル経済学とは、国の生産性がほとんど労働時間によって決まるワンファクターモデルを受けて、それから言えることを経済政策に活かす方式のことだ。

時間当たり生産性と労働時間の関係。
1600時間の壁はいくつかの年次を見ても成り立っていることが分かる。
いつ生じたかは不明だが、日本の経済停滞はこのモデルによって説明できる。
一人当たり生産性に置き換えた場合のワンファクターモデル。

⓪年間平均労働時間がその国の一人当たり生産性を決めている。
①労働時間が短くなるほど生産性は収束する。
②労働時間が1600時間を下回る辺りで生産性が急上昇する『1600時間の壁』が存在する。これは最大のパフォーマンスを発揮する男性の年間労働時間が1300~1560時間であることに対応している。この時幸福度も急上昇する。一方でこれを超える労働時間の削減は逆に一人当たり生産性の低下を起こしてしまう。
③その国の短時間労働者比率、長時間労働者比率は関係ないようで、中身を見ずに年間平均労働時間だけで生産性を決めることができる。
④極端に外国資本比率、グローバル企業参加率が高い国では2ファクターモデルが採用される。この図だとノルウェー、ルクセンブルク、アイルランド、アメリカがこれに該当する。他にも、シンガポール、香港、台湾、韓国、アイスランドも2ファクターモデル的な成長をしている。大規模な石油算出国やカタール、UAEなども2ファクターモデルである。

理由・根拠:労働時間が知の探索の量を決める→知の探索がイノベーションを起こす→イノベーションが国の生産性を決める。つまり労働時間が国の生産性を決める!!

①技術水準がその国の生産性を決めることが経済学ではよく知られている。
②技術水準はその国でどれだけイノベーションが起きたかを反映している。
③イノベーションがその国の生産性を決める。
④イノベーションを起こすのは知の探索であることが経営学でよく知られている。
⑤労働時間を削減すると、社外から知識を得る時間が増え、知の探索が増えることが分かっている。イノベーションはかなり知の探索寄りであることが知られている。
⑥適切な知の探索と知の深化のバランスを取ることで、生産性は最大化する。

国の取るべき成長政策・1600時間の壁を超えた国と超えていない国で取るべき政策が変わる!!

①1600時間の壁を超えていない国:労働時間削減と国家成長が全く同じ意味になる。
1600時間の壁を超えていない国では労働時間削減(働き方改革)だけが真の国家成長戦略となる。その他の政策は民主主義的な政策決定プロセスによって、労働時間が短くなることで改善する。労働時間が国民の政策決定能力をも決めているために、1600時間の壁を越えた国の方がワンファクターモデルにより収束するようだ。イノベーションは労働時間削減のために行うことが望ましい。安定化政策による失業率の引き下げや、短時間労働者の増加、女性の社会進出の推進などによって労働時間の削減、つまり国家成長を加速することができる。

②1600時間の壁を越えた国:イノベーションは世界全体のためにする。
1600時間の壁を越えた国では、労働時間の削減をしても時間当たり生産性は上昇しない。つまり一人当たり生産性は下がってしまう。かといって、ある程度は短くしないと1600時間の壁を落ちてしまうリスクがある。ドイツなど十分に1600時間より労働時間が短い国については短時間労働者の雇用条件の見直しによって労働時間を延ばす必要がある。年平均労働時間が1600時間以下の国は、イノベーションを通じて、ワンファクターモデルの直線自体を引き上げるか、外国資本比率を高め2ファクターモデルにする必要がある。しかし、外国資本比率はアイルランドやルクセンブルクといった世界でも極端に高いレベルである必要があるため、移民が活発な程度では対応できない。ということで、イノベーションはその国だけには最長期でみて波及せず、ワンファクターモデル全体に波及効果がある。イノベーションは世界に貢献するが、その国だけには貢献しない。2021年から2022年では世界全体的に一人当たり生産性が10%程度上がったが(日本は11%)、これもリモートワーク普及による技術水準の向上とコロナ開けを背景とした景気回復を背景としているようだ。

③成長政策まとめ:国の生産性を高める政策は、労働時間を削減して1600時間の壁を上るか、イノベーションを起こして世界全体を豊かにするか、外国資本をアイルランド並みに取り入れて2ファクターモデルになるかだけである。

国が取るべき規制政策:ワンファクターモデルに収束してしまうため、犠牲を伴う成長政策は不要。けれど規制政策を通じて長時間労働は規制していく必要がある。

①基本的に規制緩和政策やグローバル化、適切な競争が国の生産性を高めると言われているが、1600時間の壁を超えていない国は労働時間削減効果がなければ、行う必要がない。労働時間がそもそも知の探索・イノベーションの量を規定している以上、越えていない国はイノベーションを通じて世界に貢献するよりも、自国の労働時間を削減するほうを優先してよい。そのほうが結果的にイノベーションを増やし世界に貢献することになる。

②ワンファクターモデルを打ち破れない以上、いわゆる『痛みを伴う改革』『既得権益の打破』は不要である。規制緩和によるゾンビ企業の打倒などは、失業率の増加、すなわち自殺者の増加につながるリスクがある。もちろんゾンビ企業が長時間労働企業(ブラック企業)であれば、後述の③によって打倒は正統化される。国家の存在目的が国民の生命を守ることにある以上痛みを伴う必要はない。ゾンビ企業の全てが長時間労働というわけではない。

③一方で、労働時間が生産性を規定しているため、労働時間に関する規制は国家を成長させる主力の規制政策となる。労働時間を徹底して国家が短くするよう市場に働きかけることで、国家の成長を加速できる。生産性向上は国民の生命を守るために必須のため、ブラック企業の積極的な淘汰は国民の生命を守る観点から見ても正統化される。平均値は上に引っ張られる性質があるので、長時間労働の規制は国家の成長政策の中でも最も重要な項目の一つだ。残業時間の割増賃金の増加やそもそも残業制度の廃止などを通じて労働時間を積極的に削減していく必要がある。

④業界ごとの生産性も国家よりはばらつくものの、ワンファクターモデルで規定できる。業界ごとの労働時間格差を無くすことで国家は富の再分配を図ることができる。税による再分配よりも規制による労働時間の均衡のほうがより富の再分配に対し強い影響を与える。

⑤最低賃金の引き上げは労働時間削減の圧を与えるものの、労働者の新規参入を妨げる効果もある。このため、後述する金融政策による安定化政策と組み合わせることによって労働時間の削減を推進していくことができる。

国家が取るべき財政政策:成長政策よりも、再分配政策、安定化政策、福祉政策の優先度が、ワンファクターモデルを信用していない時よりも高くなる。

①1600時間の壁を超えていない国家は労働時間削減効果のない財政政策を成長政策として位置付けることができない。

②生産的政府支出(財政出動するほど将来の国債が減る支出)の最大化はあらゆる状況のあらゆる制度国家でなされるべき案件だが、どちらかといえば財政均衡政策の一環であり、労働時間削減の効果がなければ成長政策としての効果がない。

③仮に財政破綻をしても労働が短くさえあれば、一時的に国家の生産性が落ちても最長期的に見て復活することができる。このため、国の財政が危機的に陥った国は、冷静になって移転的政府支出を縮小しつつ、逆に生産的政府支出の最大化を行って、インフレで労働時間が増えないよう制限すると良い。労働時間が短かければ生産性は再起可能なので、これを理由に増税することも可能だ。増税したら貧しくなるわけではない。労働時間が増えたら貧しくなるのだ。これを国民に周知させることで財政難の国はこれを乗り切ることができるかも知れない。

④労働時間が短いほうが稼げるという事実が国民に広まっていない場合、景気が良いと労働時間を伸ばしてしまう可能性がある。日本ではバブル期に労働時間を伸ばしてしまったため、後の長期停滞につながっている。この意思決定に重大な『労働時間のベストな時間を超えるほど生産性も稼ぎも減る』という事実が国民に周知されていない国家では、過度な景気の向上は短期的には国の経済を延ばすかも知れないが、最長期的に見た国家の停滞をもたらす。景気が良くても悪くても労働時間は減らすものという、価値観の醸成が必要であり、それができていない国家では景気への見方を変える必要がある。

⑤労働時間が順当に減少している国では、やがて生産性は上がる。このため、それに至るまでの間もできる限り自殺者などを減らす必要がある。このため、失業保険や、生活保護の徹底は、多少生産性を低下させたとしても正統化される。労働市場への新規参入者の労働時間は基本的に少ないので、女性の社会進出などを政府支出によって後押しする効果は高い。

⑥富の再分配政策は、労働時間規制による労働時間の均衡が最も効力を発揮するが、税制でも労働時間の均衡を進める必要がある。具体的には三六協定を結んでいない企業は法人税を減税するなど、労働時間が短い企業が有利になるようなプログラムを組むことで労働時間を減らしていく必要がある。しかし、1600時間の壁を越えたあとでは、長時間労働の削減をしつつも、短時間労働者の労働時間は引き上げていく必要があるため、今度は逆に100万円の壁の見直しなどによって、短時間労働者の労働時間を積極的に引き上げていく必要がある。

⑦福祉政策は、移転的政府支出も多く含まれるため、この拡大は生産性の低下をもたらすとされている。しかし、生産性がワンファクターモデルである以上、労働時間が適切であるならば(1600以上では減りつつけていて、1600以下では固定されている)、増税を介して行ってもよい。そもそもそのプロセスさえも、知の探索効果によって、労働時間が短くなった国民はより正しく決定できるようになると見られる。日本であれば出生率の増加政策や、国土強靭化政策、国防政策は『いずれ1600時間の壁を超えるのだから』生産性を落としてでも行ってよい。

⑧日本の原発再稼働などのエネルギー政策に関して
ワンファクターモデルは、原発再稼働の是非についても大きな示唆を与えている。ワンファクターモデル的に言えば、原発再稼働は生産性を高めることができないので、これを行う場合、生産性の向上ではなく、貿易・経常収支の改善を目的とする必要があるとの示唆ができる。貿易収支改善は国債発行高の削減や家計貯蓄率の増加につながる。原発再稼働は国家成長戦略のように謳われているが、財政均衡政策や再分配政策の枠組になる、ということは伝えておきたい。それを加味した上で、再度議論をする必要がある。

国家が取るべき金融政策、安定化政策、インフレ制御政策:インフレ・デフレ、通貨レートはわりとどうでもいい。それよりも失業率を下げて自殺者を減らすべき。国家の存在目的から考えて、とにかく自殺者を減らすのが最優先で、その後にインフレ率の制御が来る。

①国家のインフレ率が極端に高いと、国の生産性上昇が妨げられることが知られている。インフレ率が高い状態では労働時間と格差が増加する傾向が見られるため、これまでの主流経済学派と同じように高いインフレ率はやはり撃退する必要がある。

②しかし、労働時間が短くなれば生産性はやがて収束する。ということは、インフレ率の制御を目的に失業率を引き上げ、自殺者を増やすことは国家の存在目的にそぐわない。インフレ率の上昇は労働時間の増加と、治安の悪化などに繋がるため制御する必要はあるが、金融引き締めには失業保険の拡充などをセットにして行う必要がある。

③MMT理論は物価レート上昇に合わせた増税の有効性を訴えている。ある物価レートを超えたタイミングで増税すると予め宣言しておくことで、国はインフレを抑えることができる。消費者物価指数を見てある値を越えたら増税といった効果が金融引き締めと同じくらい大きいことを示している。増税は金融引き締めと比べれば失業者を増やさないが、全体の賃金・需要を落とす効果があるのでインフレ率対策にはより有効だ。日本では金融緩和と消費税を合わせた結果、失業率は下げつつインフレ率をあまり高めなかったため、この関係は現実にもみられる。減税は金利が下がり金融緩和の効果が弱まったときの失業率低下政策として有効だ。デフレの場合は、物価が上がっていないことよりも、失業率が高く、自殺者が多いことの方に目を向ける必要がある。ワンファクターモデルはこの有効性を強調する。

労働時間を減らした直後は生産量が低下するが、やがて生産量が増加する。

④失業者を発生させないためには、労働時間の削減が有効だ。最長期的に見れば生産性は壁を登るまでは労働時間が少ないほど増加するが、金融政策が生産性に影響を及ぼすくらい短期的な間であれば労働時間の削減はむしろ賃金・生産量共に低下をもたらす。残業手当などが減ってその分総賃金が下がるので、需要が減ってインフレ率が下がるからだ。このJカーブ効果を使って、インフレ時には短期的に景気を悪くすることで、国家のインフレ率を納めることができる。また長期的には供給面の成長によってインフレ率を納める効果が期待できる。このJカーブ効果は、これまで人類がこのワンファクターモデルに気付かなかった原因だとも言えそうだ。この結論:1600時間の壁を越える前の国は労働時間を減らして短期的に景気を悪くし、インフレ率を収める。中長期的には需要が増えないよう金融政策で抑えつつ、労働時間削減による生産性の成長でインフレ率を下げる。

⑤1600時間の壁を越えた国では逆に、インフレ率が高まると賃金も増やそうと労働時間を増やしてしまう。その場合、生産量が増えて短期的にインフレ率は更に高まってしまうリスクがある。長期的には生産量が増えれば、需要が落ち着くことで、インフレ率も収まるのだがそれまで高いインフレに悩まされる。かといって、労働時間を減らすと短期的にはインフレ率を下げることができるのだが、長期的には生産量が減ってしまうので、インフレを撃退しづらくなる。1600時間の壁を越えた国のほうが労働時間による景気の刺激策が通用せず、一方で生産性が固定されているので、より通常の金融政策が有効になるとみられる。1600時間の壁を越えた国では労働時間の削減は持続的なインフレ率の低下をもたらすため、インフレが終わった後に注意が必要だ。2010年代のドイツの低いインフレ率はこのモデルによって説明できる。

この結論:1600時間の壁を越えた国では、通常の金融政策がより有効になる。

教育政策:やはり知の探索・知の深化の理論と、労働時間が適切な時に人は最大のパフォーマンスを発揮すること、幸福だと二倍生産性が変わること、やる気があるのとないのだと生産性が三倍違うことは教えるべき。

人間の認知と、実際の生産性にはずれがある。このことを義務教育の段階で教える必要があると思う。知の深化のやり方や、イノベーションの起こし方(アイデアソン・ハッカソン・ピッチ・起業)などはやはり今後の教育の中心だ。ブラック企業は働きすぎているから生産性も賃金が低くく、ホワイト企業は労働時間が短いから稼げるのだという事実を周知させる必要がある。

そうやって、子供の世代からブラック企業を淘汰することは、国家の本来果たすべき仕事の一つだと言えるだろう。

世界成長政策:ワンファクターモデルの直線そのものを引き上げるイノベーション政策

スタートアップ企業は大企業と比べてもR&Dによるイノベーションへの効果が9倍高いとの報告書が出されている。

この30年、どの企業がわたしたちの生活を劇的に進歩させたかを振り返るだけで明らかな通り、社会課題の解決やイノベーションを生む仕組みとしてスタートアップは最も優れたスキームのひとつである。ベンチャーキャピタル(VC)による支援を受けた企業は平均よりも1.6倍生産性が高いことや#1、R&Dのイノベーション波及効果が一般企業の9倍である#2など、多くの研究がスタートアップの価値を示している。そして実際、現在の世界の企業価値トップ10のうち8社がVCによる支援を受けた企業であり、起業家のエネルギーをうまく活用し、成功するスタートアップを多く生み出してきた国々が世界経済を牽引している。

しかし、ワンファクターモデルからすれば、イノベーションはその国だけのものじゃない。労働時間が少ない国では知の探索が豊富なので、他国で起きたイノベーションがすぐに波及してしまう。このため、1600時間を越えた国では、もはや国家間競争は成り立たず(というか時間当たり生産性はほとんど皆同じだ)、協業が必要となる。イノベーションがその国だけに与える影響は想定よりは小さい。

逆に言えばこれは1600時間の壁を越えた国では、他の超えた国とイノベーションを高速でやり取りしていることを指しており、自分の生み出した価値が他の国にも伝わりやすくなっていることを示している。

日本も1600時間の壁を越え始めており、今では国内限定と思われてきたイノベーションが海外への波及効果を高めている。日本の文化は1600時間の壁を超えることによってより海外に普及するのかも知れない。

研究の推進などをしてもいずれその国だけの競争優位性を高めることはできなくなるが、世界全体に貢献する力はより高まる。今後日本はより国際交流を活発にしていくことも予想できる。

2ファクターモデルが1ワンファクターモデルを引き上げるための政策を示唆している?

2ファクターモデルになるには、その国でグローバル企業の影響を強める必要がある。ということは、資本交流をより全世界的に活発にすることで生産性を高めることができる。日本であれば、他国の企業を積極的に買収することで、2ファクターモデル性を強化し、1ファクターモデルの直線を上にシフトできる可能性がある。

スタートアップ政策は世界のための政策だ。

ということは、スタートアップ政策は日本の成長政策ではなく、世界の成長政策なのだ。このことが明るみになると、これまで考えられてきたR&Dや設備投資などの企業戦略も一変することになる。

ようは、世の中のために投資するのであって、生産性を高めることはそれとは別だということだ。利益を増やしたり、社員の賃金を引き上げるためには1560時間以下になるまで、ひたすら労働時間を減らさなければならない。それが先であり、投資は世界のためで、自分たちだけのためでは最長期的には違うということにある。

このように、ワンファクターモデルはマクロ経済学だけでなく、ミクロ経済学や、経営学に与える示唆も大きい。なかでも、ワンファクターモデルの開発によって、よりミクロ経済学的な細かい経済動向もより分かりやすくなることだろう。

ただスタートアップ起業家にとってそれは朗報だ。その国だけのためでなく、世界のために貢献できていると暗に証明されているのだから。

というわけで:ワンファクターモデル経済学はマクロ、ミクロ経済学から経営学までを一変させる大きな示唆ができる。

やはり、前回説明したようにワンファクターモデル経済学が確立されれば、これからの経済学の見方が一変すると思う。

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